喜村

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「ワタナベ、それ一年生の頃から使ってない?」
 高校三年生の冬、私はクラスの一部からいわゆる『いじめ』を受けていた。
 ボスである女からなにかと、からかわれたり、突っかかってこられる毎日。
「一年生の頃からじゃないよ、中3から」
 にっこり笑顔で私はそう切り返す。
「はぁ!? 中3!?」
「ワタナベ家はそんなに貧乏なのかよ!」
 どっと爆笑の渦である。
「大切な彼氏からもらったものなの♪ 使えるうちは大人になっても使うよ?」笑顔のまま使える「それとも、みんなはコロコロ彼氏が変わるから、その都度プレゼント捨ててるの? あ、それとも、プレゼントもらったことない、とか? かわいそ……」
 私が全部言いきる前に、ボスの女が持っていた水筒の飲み物を私にかける。
「あ、ごめん、水筒の蓋しまってなかったみたい~」
 あはは、と笑ってそのグループは撤退していった。

 冬の下校時間は、陽が昇っているのにもう寒い。更に飲み物を頭からかぶっているので尚更だ。
「ごめんごめん、待った?」
 短く刈った茶髪の私の彼氏が、駅のホームから駆けてきた。
「ううん、大丈夫!」
「あ! 今年もその手袋使ってくれてるんだね!」
「うん! だから温かかったよ~」
 彼氏は、へへへ、と笑ってくれた。
どんなに嫌がらせを受けても、私は大丈夫だからね。
 私は手袋越しに彼氏と手を繋いだ。


【手ぶくろ】

追記、ゆずの香り、の数年後

12/27/2022, 1:04:32 PM