夜中のコンビニ、店員が一人もいないのだが……俺は、おにぎりと飲み物を持ったまま、レジの前で立ち尽くした。
普通なら、品出しをしてたり、とりあえずどこかの清掃をしてたりと、誰かしら一人くらい店員がいるものであろう。
俺は、顔だけ自動ドアから出て、外のゴミ箱の方を見てみる、しかし、いない。
少し外に出ただけなのに、一気に体が冷える。
さっさと買って車に戻りたいのに……
もう一度、仕方なしにレジへと行く。すると、最初は気づかなかったが、レジカウンターに
『ご用の場合は、こちらのボタンを押してください』
と、ボタンがおいてあった。
人件費削減か、最近はこういうのが主流なのだろうか、気づかなかった俺も悪いので、ちょっと気まずくなりつつボタンを押した。
シャンシャンシャンシャン……
サンタクロースが登場するかのような、ベルの音がした。
時期が時期だからなのだろうか、いやしかし、こんなので和んでしまう俺って、疲れているのだろうか。
とりあえず、面白半分でもう一回押してみた。
シャンシャンシャンシャン……
童心に戻れる、楽しい呼び出しボタンであった。
【ベルの音】
暗い、それに、とても静かだ。
夜23時。都会であれば、まだ電車は通っているし、スーパーや飲食店だってやっているだろう。
しかしここは片田舎。コンビニの明かりを見つけるのも大変な程である。
夜になると、人はネガティブになりやすい。俺もその一人である。
サークルの少し早い忘年会に参加をしたら、こんな時間。あたりは真っ暗でアルコールが入っているのに、男一人で家路につく虚しさ。
時期は12月。寒い。寒さがより一層ネガティブになれる。
そして何より寂しさに拍車をかけたのは、自宅のきらびやかなイルミネーションである。
シラフで家に帰る時でさえ、帰りづらいというのに、夜中に目映い光で俺をお出迎えしてくれる。
一種の賢者タイムに陥りそうになった。
これがお泊まりデートでお出迎えしてくれる、とかなら、なんてロマンチックなのだろう。
しかしそれが、彼女なしの呑んできて酔っ払った、つい最近まで青春してた年頃の男だ。
暗いし寒いし、全くもって、俺は--
「寂しー……」
イルミネーションに見とれていた訳ではない、自分の虚しさと寂しさで、俺は自宅のお出迎え電飾に、そう呟いた。
【寂しさ】
以前の「イルミネーション」の続編
夏といえば、海! 山! 祭り!
イベントの日というイベントの日、というのはお盆くらいだけど、とにかく毎日がみんなとワイワイできた。
そして今は冬、クリスマス! お正月! バレンタインデー!
イベントの日が夏と違ってたくさんある。
夏はみんなでワイワイやっていたけれど、冬はあなたといっしょに過ごす。
みんなでいっしょに、も、もちろん楽しいけど、あなたといっしょに、も、とっても楽しいよね?
さぁ、これから、冬のイベント本番だよ? どうしようか?
クリスマスプレゼント選んで、お正月は初詣一緒に行こうね! バレンタインデーは張り切って頑張るから、ホワイトデーはよろしくね?
冬はいっしょに、あなたとの大切な思い出をたくさん作るんだ♪
【冬はいっしょに】
今日は不思議なことがあったのよ。
ノドカが、あなたに向かってボールを転がしていたんだって。
「みててねー」って、誰に向かって言ってるのかと思ったら、パパ、だってさ。
もしかしたら、本当に近くにいたのかしら? 側で見守っててくれたの?
だとしたら、ノドカだけじゃなくて、私の所にも顔を出しなさいよ。
……それとも、私のところに来たら、私が悲しくなるから来てくれないのかしら?
そろそろクリスマスね、ノドカへのプレゼントは何にする?
本人にプレゼント聞いたけど、ボボちゃん人形って即答されちゃった。
パパ、とか言われたらどうしようかと思ったけど、全然そんな心配はなかったみたいね。
……じゃぁ、私の方がサンタさんにあなたをお願いしようかしら?……なんてね。
やっぱりダメな母親だよね、母親として頑張ろうとしてるのに、あなたのことがよぎっちゃう。
ノドカの成長をあなたと見ていたかったのに、今日こんなことあったんだよ、って、ここで報告するみたいで、なんか業務みたいで嫌だな。
だめだめ、とりとめのない話になっちゃう。
もうすぐあなたがいなくなって初めての年末年始、きちんとあなたの実家にも新年の挨拶に行くわね。
今でもお嫁さんとして、ちゃんとしてますよ。
【とりとめのない話】
「落ちていく」「また会いましょう」の続編です
【風邪】
朝晩は冷え込み、昼間との温度差が10度以上ある日が連日続いていた。
「ぶえっくしょ!!」
俺は盛大にくしゃみをする。時節柄、マスクは常時着用しているため、あまり飛沫は飛んでいないはずだが……
「ちょっと兄ちゃん、風邪? うつさないでよー」
妹があからさまに嫌そうな顔をする。
俺はズズッと鼻をすする。
「あらやだ、本当に風邪? この間薬使いきっちゃってないのよ、ちょうどいいわ、薬局で適当に薬買ってきて」
母が何食わぬ顔で二千円を差し出してきた。
……え?
日が暮れるのも早くなり、夏場だと明るい18時でも、ずいぶんと暗かった。ちゃっかりパシりにされた俺である。
薬局はそんな中、煌々と明かりがついていた。
店内は外と比べて暖かい。
よくわからないが、薬売場をうろついてみる。
「何かお探しですか?」
ぼーっと眺めていると、いきなり声をかけられた。
白衣に身を包み、店員であることはすぐにわかった。
いや、それよりも……
(かっ、可愛い!!)
めちゃくちゃ可愛い、小柄で清潔感のある黒髪、目も大きく奇抜すぎないメイク。これが本当に大人なのだろうかと疑う程のかわいさである。
「風邪ですか?」
あまりの可愛さに見とれてしまい、次の言葉で我に返った。
「あ、その……熱はなさそうなんですが、くしゃみと鼻水がダラダラと出てきて……」
「最近寒暖差が激しいので、寒暖差アレルギーの方が増えてるんですよー、お客様もそれと同じようなので、まずは免疫力をつけて下さい」
親切丁寧に説明されるも、やはり終始上の空の俺。
風邪をひかなければ、この人にもであえなかったし、たまにひく分には、風邪、いいなぁ……