喜村

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【風邪】

 朝晩は冷え込み、昼間との温度差が10度以上ある日が連日続いていた。
「ぶえっくしょ!!」
 俺は盛大にくしゃみをする。時節柄、マスクは常時着用しているため、あまり飛沫は飛んでいないはずだが……
「ちょっと兄ちゃん、風邪? うつさないでよー」
 妹があからさまに嫌そうな顔をする。
俺はズズッと鼻をすする。
「あらやだ、本当に風邪? この間薬使いきっちゃってないのよ、ちょうどいいわ、薬局で適当に薬買ってきて」
 母が何食わぬ顔で二千円を差し出してきた。
……え?

 日が暮れるのも早くなり、夏場だと明るい18時でも、ずいぶんと暗かった。ちゃっかりパシりにされた俺である。
 薬局はそんな中、煌々と明かりがついていた。
店内は外と比べて暖かい。
よくわからないが、薬売場をうろついてみる。
「何かお探しですか?」
 ぼーっと眺めていると、いきなり声をかけられた。
白衣に身を包み、店員であることはすぐにわかった。
いや、それよりも……
(かっ、可愛い!!)
 めちゃくちゃ可愛い、小柄で清潔感のある黒髪、目も大きく奇抜すぎないメイク。これが本当に大人なのだろうかと疑う程のかわいさである。
「風邪ですか?」
 あまりの可愛さに見とれてしまい、次の言葉で我に返った。
「あ、その……熱はなさそうなんですが、くしゃみと鼻水がダラダラと出てきて……」
「最近寒暖差が激しいので、寒暖差アレルギーの方が増えてるんですよー、お客様もそれと同じようなので、まずは免疫力をつけて下さい」
 親切丁寧に説明されるも、やはり終始上の空の俺。
 風邪をひかなければ、この人にもであえなかったし、たまにひく分には、風邪、いいなぁ……

12/16/2022, 11:54:37 AM