喜村

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11/27/2022, 10:19:12 AM


 あなたは私をよく撫でてくれた。
たまに鬱陶しくて、それを私は避けていた。

 飼い主とかならいいけど、私は野良。優しくされる筋合いはない。
 でも、あなたがよくもってくる、あの◯~る、あれはずるい。あれがほしくて、私も私であなたの元へとよってしまう。

 私があれを食べている隙をついて、私のあちこちを撫で回す。
いや、ゆっくり落ち着いて食べさせて下さいよ。

 ふふふ、と、あなたは笑った。
愛おしそうに、何やら機械でぱしゃぱしゃと私を撮っていた。
子猫ならまだしも、この世に生を受けて5年以上の私をそんなに撮影して、何が面白いのだろう。

 またくるね、とあなたは言った。
また◯~るをよろしくね、と手を振るあなたに向かって私はないた。

 次の日は来なかった。また次の日もこなかった。気付けば一週間ほど来ず、吐く息が白くなるくらい冷え込む季節になっていた。
 野良人生もそこそこ経験しているので、食べ物に不自由はしていないのだが……

 寒い。

 季節柄も寒いのだが、何故だろう、一人になれているのに、心も寒い……?

「ごめんねー! テスト期間中で来れなかったー!」

 忘れた頃に、あなたはパタパタと駆けてきた。

「寒くなってきたから毛布持ってきたんだ~、木の側において置くね! ここが君のポジションだよね?」

 お、おう、よく分かっているじゃないか。
そうそう、その久々の◯~るも待ってました。
 私はあなたにすり寄る。

「かわい~!」

 一人でも生きていけると思った。
でも、あなたから貰える、エサも毛布もないと寂しいと気付いた。
いや、モノだけではなく、その撫でくり回す手からは、温かなモノを感じていた。これが、愛情、なのだろうか?

 私は、にゃあとないた。


【愛情】

11/26/2022, 11:25:21 AM

 朝からセミが騒がしくないている。
その音が自然のアラーム音として、目が覚めてしまった。

(あぢぃ……)

 セミのなき声の次に感じたのは暑さ。
 本日、8月30日。
最早9月になろうというのに、この暑さはなんだ。
 クーラーのおはようタイマーは早朝6時にセットしていたにも関わらず、それより先に起きてしまったようだ。
エアコンの機械音はまだしていない。

 まずはエアコンのスイッチを次にテレビのスイッチをつける。

『本日の関東の最高気温は42度となるでしょう』

 テレビからそんな声が聞こえた。一昔前ならば、驚きの気温だろうが、今はこれがふつうである。
中々夜にも気温は下がらず、そのまま翌朝へとうつるパターン。
 エアコンの現在の温度を見ると、37度。

「微熱かよ、体温じゃん……」

 寝起きのがらがら声で、本日の第一声を自分は出した。
それよりセミのこえの方が、何倍も元気であった。



【微熱】

11/25/2022, 11:04:36 AM

【太陽の下で】

太陽さんへ。

 僕は、いつでも君の方を見ている。
さんさんと降り注ぐその光は、とても眩しくて、めまいさえしてしまうくらい。
 でも、目をそらそうとしてもできないんだ。それが僕の習性だから。

 君が動くと、僕もそちらに顔をむける。
からだ自体は深く根をはっているので、顔だけ君をおいかける。
 ストーカー? いいや、僕は君からエネルギーをもらっている、いちファンです。

 たまに、あまりの君の強さに喉が渇いてしにそうになる。でも、両手を広げて、君の力強さをうけとめるんだ。

 太陽の下、それが僕の定位置。
また来年、夏になったらお会いしましょう。

ひまわりより。

11/24/2022, 12:22:22 PM

【セーター】

 洗えば洗うほど、小さく縮んでしまうものって、なーんだ?

 え? セーター?

 はずれー、正解は、あなたの心。

 世間の荒波に揉まれれば揉まれるほど、
綺麗に洗おうとすればするほど、
独立して個性のあった感情という繊維が、
ぎゅーっと、ひとまとまりに縮こまっちゃうの。

 そうか、セーターもそうだね!
 あなたはセーターに似てるかもね!

 デリケートなのに、寒くて冷たい社会に放り出されて、主という上司を温めなくちゃいけない。
 セーターみたいだね?

11/23/2022, 11:25:43 AM

【落ちていく】

 二歳児くらいの子は、パタパタと丘を駆けていく。
「みててね~!」
 そういうと、自分の身体の半分くらいある、ピンク色の大きなボールを下に向けて、放り投げた。
 ボールは弾みをつけて、ポンポンとリズミカルに下へと落ちていく。
 自分で投げて、転がり落ちたボールを、きゃっきゃと笑いながら追いかけ、それを抱え、また上へとのぼる。
「みててね~!」
 その子は、また、先ほどと同じようにボールを放り投げる。そしてそれを見ては笑うのであった。

 何が面白いのだろう。
 ボールが下へと落ちていっているだけなのに。

「誰に『みててね』って言ってるの?」
「ママ! あのね、そこにいるパパにみててもらってるの!」

 ママと呼ばれた彼女は、信じられない、といった表情で、こちらを見る。
「みててね~!」
 私は見てることしかできない。
 私のからだをすり抜け、ボールはまた下へと落ちていくだけだった。

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