あなたは私をよく撫でてくれた。
たまに鬱陶しくて、それを私は避けていた。
飼い主とかならいいけど、私は野良。優しくされる筋合いはない。
でも、あなたがよくもってくる、あの◯~る、あれはずるい。あれがほしくて、私も私であなたの元へとよってしまう。
私があれを食べている隙をついて、私のあちこちを撫で回す。
いや、ゆっくり落ち着いて食べさせて下さいよ。
ふふふ、と、あなたは笑った。
愛おしそうに、何やら機械でぱしゃぱしゃと私を撮っていた。
子猫ならまだしも、この世に生を受けて5年以上の私をそんなに撮影して、何が面白いのだろう。
またくるね、とあなたは言った。
また◯~るをよろしくね、と手を振るあなたに向かって私はないた。
次の日は来なかった。また次の日もこなかった。気付けば一週間ほど来ず、吐く息が白くなるくらい冷え込む季節になっていた。
野良人生もそこそこ経験しているので、食べ物に不自由はしていないのだが……
寒い。
季節柄も寒いのだが、何故だろう、一人になれているのに、心も寒い……?
「ごめんねー! テスト期間中で来れなかったー!」
忘れた頃に、あなたはパタパタと駆けてきた。
「寒くなってきたから毛布持ってきたんだ~、木の側において置くね! ここが君のポジションだよね?」
お、おう、よく分かっているじゃないか。
そうそう、その久々の◯~るも待ってました。
私はあなたにすり寄る。
「かわい~!」
一人でも生きていけると思った。
でも、あなたから貰える、エサも毛布もないと寂しいと気付いた。
いや、モノだけではなく、その撫でくり回す手からは、温かなモノを感じていた。これが、愛情、なのだろうか?
私は、にゃあとないた。
【愛情】
朝からセミが騒がしくないている。
その音が自然のアラーム音として、目が覚めてしまった。
(あぢぃ……)
セミのなき声の次に感じたのは暑さ。
本日、8月30日。
最早9月になろうというのに、この暑さはなんだ。
クーラーのおはようタイマーは早朝6時にセットしていたにも関わらず、それより先に起きてしまったようだ。
エアコンの機械音はまだしていない。
まずはエアコンのスイッチを次にテレビのスイッチをつける。
『本日の関東の最高気温は42度となるでしょう』
テレビからそんな声が聞こえた。一昔前ならば、驚きの気温だろうが、今はこれがふつうである。
中々夜にも気温は下がらず、そのまま翌朝へとうつるパターン。
エアコンの現在の温度を見ると、37度。
「微熱かよ、体温じゃん……」
寝起きのがらがら声で、本日の第一声を自分は出した。
それよりセミのこえの方が、何倍も元気であった。
【微熱】
【太陽の下で】
太陽さんへ。
僕は、いつでも君の方を見ている。
さんさんと降り注ぐその光は、とても眩しくて、めまいさえしてしまうくらい。
でも、目をそらそうとしてもできないんだ。それが僕の習性だから。
君が動くと、僕もそちらに顔をむける。
からだ自体は深く根をはっているので、顔だけ君をおいかける。
ストーカー? いいや、僕は君からエネルギーをもらっている、いちファンです。
たまに、あまりの君の強さに喉が渇いてしにそうになる。でも、両手を広げて、君の力強さをうけとめるんだ。
太陽の下、それが僕の定位置。
また来年、夏になったらお会いしましょう。
ひまわりより。
【セーター】
洗えば洗うほど、小さく縮んでしまうものって、なーんだ?
え? セーター?
はずれー、正解は、あなたの心。
世間の荒波に揉まれれば揉まれるほど、
綺麗に洗おうとすればするほど、
独立して個性のあった感情という繊維が、
ぎゅーっと、ひとまとまりに縮こまっちゃうの。
そうか、セーターもそうだね!
あなたはセーターに似てるかもね!
デリケートなのに、寒くて冷たい社会に放り出されて、主という上司を温めなくちゃいけない。
セーターみたいだね?
【落ちていく】
二歳児くらいの子は、パタパタと丘を駆けていく。
「みててね~!」
そういうと、自分の身体の半分くらいある、ピンク色の大きなボールを下に向けて、放り投げた。
ボールは弾みをつけて、ポンポンとリズミカルに下へと落ちていく。
自分で投げて、転がり落ちたボールを、きゃっきゃと笑いながら追いかけ、それを抱え、また上へとのぼる。
「みててね~!」
その子は、また、先ほどと同じようにボールを放り投げる。そしてそれを見ては笑うのであった。
何が面白いのだろう。
ボールが下へと落ちていっているだけなのに。
「誰に『みててね』って言ってるの?」
「ママ! あのね、そこにいるパパにみててもらってるの!」
ママと呼ばれた彼女は、信じられない、といった表情で、こちらを見る。
「みててね~!」
私は見てることしかできない。
私のからだをすり抜け、ボールはまた下へと落ちていくだけだった。