俺は刑事だ。イタズラ程度のかわいいものから、些細な喧嘩から大怪我にまで繋がってしまったもの、数々の事件を取り扱ってきた。
それこそ、目を覆いたくなるような悲惨な事件も。
容疑者は、とある男性の恋人であった女性。凶器である刃物は、隠すことなく男の腹に深々と突き刺さっており、さらには指紋がべったりときたものだ。
まるで、はなから隠す気がないように。
女は、あっさりと犯行を認めた。事件は解決したのだ。
そう、ここで終わっていれば、この事件が俺の記憶に残り続けることは、きっとなかったであろう。
犯行の動機を聞くと、女は驚くほど落ち着いた様子でこう言った。
私が、誰よりも彼のことを愛している。彼が、世間の目に晒されるのが耐えられなかった。だから、最期の死に様だけは、私だけのものにしたかった。誰にも、見せたくなかったのだと。
テレビでは、痴情のもつれとして報道されていた。
必ず迎えに来るから、ここで待っててね
そう言いながら私の頭を撫でて、あなたは車に乗って去っていった
寂しくてお耳がペッタンコになっちゃうけど
シッポもたらんとなっちゃうけど
あなたの匂いがなくなって、毎日お腹がペコペコで
雨に濡れて冷たいし、雷は怖くて思い出の毛布に鼻を埋めたくなるけれど
最後までちゃんと待てが出来たら、あなたは絶対褒めてくれるって知っているから
だから、待っているよ。私、我慢出来るよ
もう毛並みはボサボサで、あまり触り心地はよくないかもしれないけど
もう目が見えなくて、あなたが来ても気がつかないかもしれないけど
脚が動かなくなって、もうあなたの元に駆け寄ってあげられないけど
それでも、私は待っているよ
記憶の中のあなたはいつも笑顔で、私は元気だったあの頃のままで
そうしてあなたは、待てが出来たご褒美をくれるの
お気に入りのおもちゃの横で、美味しいおやつを食べながら、あの大きな手で私の頭を撫でてくれるの
この場所で、夢を叶えてまた会おうと、みんなで誓い合った
いつの間にか、夢を追っていたのは俺だけで
かつての仲間たちはみな、堅実に仕事をこなし幸せな家庭を持っていた
何もないのは俺だけだ。夢を追ったその先に、待っていたのは闇だった
もういい、全て終わらせよう
せめて最期は、思い出のあの場所で
そう思い何十年かぶりにあの場所へと足を運ぶと
そこには大きな団地が建っていた
君のスマイルは、いつだって僕を不幸にしてきた。
与えられるから、奪われる。幸せがあるから、不幸になる。
そうして全てを拒絶した僕を、君は何度拒否されようが構うことなく話しかけてきた。
君を中心にたくさんの人が集まってきて、いつしか僕は抱えきれないほどのものを持っていた。
それを無くすのが、怖かった。ずっとずっと、それを失うのを恐れていた。
ほらやっぱり、僕は不幸になった。
シワが刻みこまれた手、段々とかたく冷たくなっていく君の微笑みに、僕は声を殺して泣いた。
1000年先も、一緒にいようと
約束していた彼女が死んだ
僕は涙で海をつくり
泣き声は風となって大地を駆けた
もう2度と君に会うことはない
そう思いこんでいた僕の魂を
ポツンと1人で待っていたのは君だった
一緒にあの世にいけるなら、1000年先だって待つんだと
彼女は確かにそう言った
2つの魂よりそいながら消えていき、最後残るは静寂だった