誰かの声が聴こえる。
真っ暗闇の中で、私を呼ぶ声が…
「…おい、聞こえてんだろマネ女…!テメェがこんな所でへばる訳ねーだろ…」
「勝っちゃん…」
「おい…爆豪」
「うるせぇ!!!…おい、戻ってこいよ…頼むから…」
声だけ鮮明に聞こえて…勝己の声がガンガンに頭を揺さぶるように響く…眠いのに、これじゃ寝てられないじゃないか。
『…っさいなぁ…静かに死なせてもくれないのかよ…ばかつき…』
「…!!!目が覚めた!?轟くん、勝っちゃん!!俺リカバリーガール呼びに行ってくるね!!」
目も完全にあかないし、痛みで今でも気絶しそうだ。
手は…ある、足もある。ただ、全身が鉛のように重たくて顔もまともに動かなかった。
「…無事でよかった」
『…私どうなってんの?』
轟くんに尋ねると、少し悲しそうな顔をしながら
私がヴィランに操られていたことを話した。
ヴィランに関してはすぐ捕まえられたが、操られていた私はオート操縦で、手に負えなかったらしい。
で、身動きを封じるために重症を負わせたとかなんとか。
『まぁそういうことなら…いいんじゃない?』
「おめーは……ほんっとにクソバカだな」
『はぁ??』
「…起きて苦しそうなのにへらへらしてんなバカ」
『すごいバカバカ言うじゃん』
「……生きてて、よかった…ほんと」
『……ごめんね、心配かけて』
「……ん……」
目が覚めるとふかふかのベッドだった。
自分の部屋のベッドより広くてふかふかな毛布に包まれていて
このままこの夢が続けばいいのにと思った。
明日の仕事のことを考えると涙が出てくる。夢から覚めるまではこの幸せな感触を味わいたい。
…夢にこんなリアルな感触を今まで感じたことがあっただろうか。
コンコンッと扉が叩かれる音がして慌てて目を閉じて寝たフリをした。
「失礼します、主様」
続きはまた明日
哀愁をそそる
今日の主様は少しいつもと違う気がした。
ほかの執事達にその話をしても、いつも通りと言われたが
なにか違う。いつもと雰囲気が少し違うのだ。
寂しそうな、何となくそんな感じ。
本人に何かあったのか聞いても、きっと主様の事だ。
上手くはぐらかされて終わってしまう。
まだなんでも言える関係性では無いのか、と少しだけ俺も悲しくなった。
担当執事が俺になって、主様から声を掛けられるまで待機していると、チリン、と呼び鈴が鳴った。
控えめにノックして返事を聞きドアを開ける
「お呼びでしょうか、主さ、ま…」
ドアを開けると窓の外をぼうっと眺める主様が映る。
その姿が寂しそうだがとても美しく、思わず言葉が詰まった。
俺に気づいた主は手招きして俺を呼ぶ。
『ハウレス、あのね…相談があるの』
夢を見た。
目の前には鏡。
鏡の中の私が語りかけてくる。
ーー今日も役立たずだったねーー
『…うん』
ーー居なくなって良かったんじゃない?ーー
『…うん』
ーー私を運んでくれた人も、いい人じゃないよ。人攫いだよ。ーー
『…うん』
全ての言葉に対し肯定をする。
私は役立たず、いなくなってもいい存在、だから人攫いにもあって…
ーーーー……様…ーーー
遠くの方から誰かの声が聞こえた。
ーーー主様……ーーー
どんどん声が大きくなっていく。
ーーー主様、主様、どうかお目覚め下さい……ーー
声がはっきりと聞こえた瞬間、目の前の鏡が割れた。
ーー優しくされても、信用したら傷つくのは自分だからねーー
鏡の中の私が悲しそうに呟いた
今日も出来なかった。
仕事も、完璧にこなせず、家に帰って散らかった部屋を見てため息をつく
どうして私はこんなにダメになってしまったのだろう。
疲れが全く取れず、いつの間にか月に1度くるものも止まり
肌は荒れ、次の日を迎えるのが辛くなった。
生きるのが…辛い。
仕事場でミスを繰り返し、頭ごなしに叱られる日々の繰り返しになにもかももうどうでも良くなり、
身を投げようとしたある時、ある指輪を拾った。
金色に光る指輪を見て、
恋人、結婚、そんなことに憧れてたな、なんて何気なく左手の薬指にはめてみたら
今までいた踏切前とは全く異なる森の中にいた。
身を投げるつもりだったが、やはり恐怖はあるもので
突然の空間の相違に頭は混乱していた。
『え、あれ、ここ、どこ……もう、なんでっ……』
頭が混乱して涙も溢れてくる。
もう嫌だ、なにもかも、もう…
ぐすぐすと泣きたくもないのに涙が出てきてその場にうずくまった。
「…主様?」
急に頭の上から降ってくる声にビクッと体を震わせた。
「…やっぱり、主様なんですね」
体がうずくまったまま硬直した。
その姿がとても情けなく、顔を上げることができない、
「もしかして、どこか具合でも悪いのですか?すぐに屋敷に…!」
そう言うと私の体が宙に浮いた。抱き抱えられている。
…いつぶりだろう、誰かとこんなに触れ合うのは
「すぐにルカスさんに診てもらいますので…」
抱えられて、人の温もりを感じたからか、疲れがどっと押し寄せられて気付けば意識を手放していた
つづく