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6/14/2025, 8:53:21 AM

ミュータウン。ここは芸術の全てが集まる地。森の中に主この街は自然と一体化しており、常にインスピレーションが分けるような工夫が至る所に施されている。雲が七色に染められたり、お菓子が宙に浮いたり、水を掴んで遊んだり。それはまるで夢の世界のような、絵本の中の世界のような、あまりにも非現実すぎる街並みであるため
『チルドレンファンタジー』
と、呼ばれている。
その中の一角。ミュージックエリアでは、今から盛大なライブが行われようとしていた。タスカ堂。半径50mの二階建て木造建築だ。木造建築といっても外壁は透明で、世にも珍しいガラスウッドをふんだんに使用した、木造でありながらどこか近代を感じる作りになっている。そこにわらわらと人が集まってくる。入り口は渋滞しており、もう一つのゲートが開放されようとしていた。
ーーーーーー
タスカ堂出演者室
「はぁー緊張スル〜」
机の上で指をかつかつさせ貧乏ゆすりをする女性がいた。整った顔立ち、金色の目、白金の髪を一本で束ね、所々に花が飾られてある。薄ピンクのワンピースを着こなす彼女はどこかのお姫様と見間違えるぐらいの美しさだ。
「…..フェルス様。お客様の準備が整ったと連絡が。」
そう言って黒スーツ黒眼鏡の男性が入ってきた。
「りょーカイ!うっし、いっちょやってやりマスか!」
「言葉遣い……」
そう言ってフェルスは部屋を飛び出す。黙っていれば大人な雰囲気を感じるが、動けばまるで無邪気の子供のようだった。走り抜けた先には関係者会場入り口と書かれた扉があり、それを思いっきり開けて中央に立つ。観客席とステージには一枚の幕が挟まれており、互いに見えなくなっている。幕の向こう側から観客の声が聞こえる。フェルスは胸に手を立てて深呼吸をする。
(今マデの頑張リを皆さんに見セルだけデス。なに、簡単なことデスね)
ピアノの音が聞こえ始めた。それと共に観客は一斉に静かになる。そして誰もが知るあの曲のメロディーへと変わっていった。その瞬間一気に歓声が沸く。そう、歌姫フェルスのファンなら誰もが知るあの曲。遂に幕が上がる。フェルスはマイクを口に近づけて思いっきり叫ぶ。
「それでは最初の曲!『君だけのメロディー』!!」

6/12/2025, 11:02:50 AM

星空が綺麗な夜だった。風は草木を撫でて優しく揺らしている。一面に広がる草原の中、少し目立つ丘の上に風に当たる人?がいた。
「当初の目的は達成されたよ。魔女狩りに、ちと喧嘩を振って、弟子を旅に出す。しかも最高の器の中でね。いやぁ〜我ながらに完璧な出だしと思うよ。」
その声は女性だった。しかし女性にしては背が高く、声は蛇のように絡みつくようだ。
「魔女。それは今や世界共通の敵。奴らが与えた被害は数知れず。」
そう言ってしゃがみ、風と共に草を撫でた。優しく、傷つけないように。
「奴らは数々の村を焼き払い、多くの命を奪った。」
一つの花に手を伸ばし、優しく撫でた後茎からちぎった。それを眺めては夜空に放った。
「まぁ、いずれ気づくさ。それに….」
立ち上がって前へ進む。目の前には大きな月が昇って彼女を包み込んでいた。月光は皆を平等に照らす。
「世界にどれほど嫌われようとも、私の思いは変わらない。」
月に手を伸ばす。今にも届きそうな距離だ。
「私達はいつまでもこの世界を愛している。何があっても。……そうだろう?」
そう言って振り向く。そこには一本の白い十字架が突き刺さっていた。

6/11/2025, 12:51:28 PM

雨が降り続いていた。昼間まであんなにも晴れていたのに、まるで赤ん坊が急に泣き始めるように何の前触れもなく雨は降り始めた。雨に濡れる草原の中、1人の少女が立って下を向いていた。少女は何も言わずに、ただ銀色の髪が靡いていた。
「…..スミス、いい加減しないと風邪引くぞ」
奥から男の声が聞こえる。優しいような、どこか苦しそうな声だ。
「ねぇ」
少女の口がゆっくり開いた。
「もし、私がミユを魔女狩りに誘わなかったらさ、こんな事になってなかったのかな」
少女は真っ直ぐ、どこまでも続く地平線を眺めていった。その先には、広範囲にわたる焼け跡が広がっている。
「……別にお前だけが原因ではないだろう。生命の終わりはたった1人の人間が背負っていい運命じゃあない。」
後ろから足跡が聞こえてくる。ゆっくり優しく。しかし、しっかり刻むように。
「まだ遺体は発見されていないよ….生きてるかもしれないじゃん」
少女が振り向く。遠心力で広がった髪が雨粒をきる。後ろには腰に手を当て目を細めてこちらを眺める男がいた。
「それが分かってんなら、もっと明るく、希望を持てよ。明るい未来は、明るい奴にしかやってこない」
男が笑った。何の曇りもない、豪快な笑顔だ。
「……..ふふっ、そうだね。ユタンさんの言う通りだよ。ミユは死んでいない。魔女に襲われて死んじゃうほど、か弱いヤツじゃ無いと思うし。」
そう言って少女は男の方へ歩き始めた。力強くそして、軽やかに。そして男と共に草原の奥、森の中へ入っていった。雨は依然と降り続いている。しかし先程とはまるで全く違う雰囲気だ。雨に包まれるときもたまには必要だと、森の雫が囁いた。

6/10/2025, 4:31:02 AM

どうしてこの世界は……..
「こんなに物騒なんだァァぁぁぁぁ」
『うるっせぇぇぇぇぇ』
森の中の木々を掻き分けて走り抜ける女性がいた。彼女の後ろに目をやると、そこにはタワマンぐらいの大きさの白いクマがいた。クマは大きな腕を振り下ろし彼女を潰そうとしている。
「ぎょぁぁぁぁぁ」
彼女はそれを間一髪で避け、少し躓いてからまた走り出す。長らく走り続けており、そろそろ体力の限界が来ていた。
『お前、これくらいで息切れしてどうする?これだと魔女の端くれにもなれないぞ』
「別に…魔女に….なりたくて…..なったわけじゃ無いんだけどね!」
彼女は誰かに応える。しかし周りには誰もいない。殺意むき出しのクマを除いて。
「それに…あんたは…いいよね!どういう理屈か分かんないけど…私の頭ん中で….ちょこんとしているだけで….いいんだから!」
彼女は川を飛び越えながら話す。少し飛距離が足りなかったようで、コートの裾が少し濡れる。
『別にオレもお前の脳に意識を移したいと思ってここにいるんじゃ無い!師匠の決断だ!!』
「師匠師匠って…その師匠に裏切られたからこうなっているんでしょうが!」
『この大熊は関係ない!!まぐれだ!!それに師匠は考えあって…オレを….』
熊がそこら辺の木を引っこ抜いて彼女に投げる。矢のように突き抜ける木は見事、彼女が渡ろうとしていた吊り橋に突き刺さった。そして吊り橋は奈落の底へと落ちていく。
「ヤッバ、道なくなった!!」
『飛べ!!』
「無理!!」
彼女は後悔し始めていた。こんな事になるなら目立った事はせずにのほほんとした異世界転生生活を送るべきだったと。自分にチートスキルなんてものはないと。あるのは短剣と、魔女の見習い野郎だけ。こんなはずではなかった。異世界転生者こと桜田美優ことミユ。彼女は今、とてつもなくピンチな状況であった。