雨が降り続いていた。昼間まであんなにも晴れていたのに、まるで赤ん坊が急に泣き始めるように何の前触れもなく雨は降り始めた。雨に濡れる草原の中、1人の少女が立って下を向いていた。少女は何も言わずに、ただ銀色の髪が靡いていた。
「…..スミス、いい加減しないと風邪引くぞ」
奥から男の声が聞こえる。優しいような、どこか苦しそうな声だ。
「ねぇ」
少女の口がゆっくり開いた。
「もし、私がミユを魔女狩りに誘わなかったらさ、こんな事になってなかったのかな」
少女は真っ直ぐ、どこまでも続く地平線を眺めていった。その先には、広範囲にわたる焼け跡が広がっている。
「……別にお前だけが原因ではないだろう。生命の終わりはたった1人の人間が背負っていい運命じゃあない。」
後ろから足跡が聞こえてくる。ゆっくり優しく。しかし、しっかり刻むように。
「まだ遺体は発見されていないよ….生きてるかもしれないじゃん」
少女が振り向く。遠心力で広がった髪が雨粒をきる。後ろには腰に手を当て目を細めてこちらを眺める男がいた。
「それが分かってんなら、もっと明るく、希望を持てよ。明るい未来は、明るい奴にしかやってこない」
男が笑った。何の曇りもない、豪快な笑顔だ。
「……..ふふっ、そうだね。ユタンさんの言う通りだよ。ミユは死んでいない。魔女に襲われて死んじゃうほど、か弱いヤツじゃ無いと思うし。」
そう言って少女は男の方へ歩き始めた。力強くそして、軽やかに。そして男と共に草原の奥、森の中へ入っていった。雨は依然と降り続いている。しかし先程とはまるで全く違う雰囲気だ。雨に包まれるときもたまには必要だと、森の雫が囁いた。
6/11/2025, 12:51:28 PM