力を込めて
勇者が魔族を倒しに行くらしい。
そんな噂が街中の至る所で流れている。
カレンは一人暖炉のそばで巾着を縫っていた。
ついにこの日が来てしまったのだな、と思いを馳せるのは勇者についてだ。
魔族に怯えて暮らさなくて良くなるのはありがたいことだが、カレンとしては勇者の身の安全の方が心配でたまらなかった。
カレンは勇者を好いていた。親同士が旧友であるカレンと勇者は、幼い頃は毎日のように森で一緒に遊び、大きくなっても、勇者は剣の腕前を披露したり、カレンは作ったミートパイを差し入れたり、様々な形で交流が続いている。
家族同然の生活をしてきた二人の間に愛が芽生えるのも時間の問題だった。
勇者もまたカレンを好いていた。しかし彼はカレンに「いつか魔族を倒してみせるから、その時は一緒になってくれ」という約束を取りつけた。
己のプライドか、はたまた見栄か。どちらにせよカレンにとってはくだらない一方的な宣言でしかなく、今すぐにでも自分のものにしてくれない勇者に怒りすら覚えたものだ。
だが一度決めたことはやりきる彼のことだから、カレンがいくら何を言ったところで、何も変わらないことも分かっていた。だからカレンは、魔族に勝つために訓練に励む勇者を応援するしかなかった。
ついに勇者は街一番の剣士になり、魔族の元へ戦いに行く日が決まった。ここまでやり遂げるのも彼らしいと、思わず笑みがこぼれる。
しかし心配なことに変わりは無い。いくら成長したとはいえ、相手は魔族。この街では今まで誰も完璧な勝利を納めた者はいない。勝ったとしても少なからず負傷はするはずだ。
せめて自分にできることを、と手作りの巾着をプレゼントすることにしたカレンは、寝る間も惜しんで製作に取り掛かっている。いろいろ思う所はあるものの、やはり願うのは勇者の無事だ。そこに愛という無敵の力を込めてひと針、またひと針と、丁寧に手を動かした。
過ぎた日を想う
思えば何もしていない。
学校に行かなくなって、どれほど経っただろう。
何かを成し遂げたわけでもない。誰にも負けないスキルを身につけたわけでもない。将来の為に必死に何か努力したわけでもない。自分自身と見つめ合ったり、精神的に成長できたわけでもない。
何もせずとも夜は明けて、お腹が空けばご飯を食べ、必要最低限の清潔感を保ち、日が沈めば眠りにつく。
最早生きている意味すら感じないような、ただ与えられた時間を消費していくかのような日々。
何もしないまま歳だけ取り、どうしようもない老人になっていくのだろうか。
そんなのは嫌だなと、漠然と考えはするが、それを思ったところでこの生活から抜け出す術を探そうとはしない。
こうやって生きてきた数年はなんて無駄なのだろうと、考えても何にもならないことばかり考えて、未来より過去に執着する。
ただ過ぎた日を想うだけの、そんな毎日。
I LOVE...
3周年おめでとう!ありがとう!
あの緊張しすぎて噛み噛みだった僕の告白からもう3年が経つなんて信じられないね笑
あの日から毎日が華やかで、楽しくて、この世の幸せを全部詰め込んだかのような、そんな感覚がずっと消えません。いつも僕の心を明るく、暖かくしてくれて、本当にありがとう。
最近は、君をみると愛おしくて仕方ありません。恋をして、好きが溢れ出して、それが愛になって。好きなんて言葉じゃ表しきれないほどの、大きな大きな愛で、これからもずっと君を包んでいけたらいいなって思ってます。
改めて、僕と一緒に居てくれて、たくさんの愛をくれて、ありがとう。君からもらった愛は全部、倍にして返すから覚悟しててね笑
これから何十年先もずっとよろしくね。愛してます。
街へ
ずっと街へ行くのに憧れていた。
この村を出るということは優秀な証だ。18歳になって一人前と認められた者だけが村を出る事を許され、大きな役場のある綺麗な街で働くのだ。
年に一度、祝賀祭にだけ帰ってくる街の人たちは、村に居たときよりずっと垢抜けてキラキラとしていた。それを見ると、俺もいつかあの人たちみたいに輝くんだと、夢は膨らむ一方だった。
そして俺は今、街に向かう馬車に揺られている。
先月誕生日を迎え、念願の街への切符を手にした。村の外は初めて見る景色ばかりだった。晴れわたる空に、小鳥のさえずりが心地よい。
これからどんなたくさんの事を経験するんだろうと心を踊らせ、もうそう遠くない街に思いを馳せた。
優しさ
私の周りの人はみんな優しい。
それを母に話すと、あなたが優しいからよと言った。
だけど決してそんなことはない。傍から見たら私のそれは優しさに見えるのかもしれないが、私からするとただの自己防衛でしかない。
皆が善意を向けてくれるから、それをありがとうと笑顔で受け取り、あらゆる場面でそれと同等のことを返していく。こちらは優しく接しているのに、気の一つも遣わないで自分の事しか考えていない奴と思われたくなくて、意識して相手のことも気にかけて優しくする。
私の優しさには、嫌われたくないという自分本位な感情が根底に隠されている。
どんな理由であれ、誰かに優しくできるのは良いことだと母は言った。
でもなんとなく、私の優しさは作られたものだという感覚が拭えなくて、ずっと私の心に引っかかっている。
本当に優しい人間になりたい。