ありす。

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1/25/2024, 3:20:19 PM

「おい、ガキ!この俺様をみて怖気付いたのだな!」

まだお母さんが生きていた時に、私に読んでくれた絵本を思い出した。

「怖くて声も出ないのだな!」

寿命が短い女性のもとに現れた死神の話し。
その女性と死神の3日間を描いた物語。

「おい!何かものを言え!」

憧れていたのを思い出した。
もう良くもならない病気で、不安な私にお母さんが読んでくれた物語。

「この俺様を無視するなんて…このガキっ!」

でも、所詮…物語は物語でしかない。
それにあの物語は「シンデレラ」や「白雪姫」みたいに綺麗魅せるためにに描いた夢物語だ。
現実は無常だ。

「あーあ!この…死神様が来てやったのによ!」

これは私とこの自称死神を名乗る男と…過ごした3日間の私だけの物語だ。
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不安な事は山ほどあった。
特に最初の頃は、いつ自分が死ぬのか…そればかりが不安で仕方なかった。
寝ても覚めても見える景色は病院の天井。
身体を起こして外を見てみれば、本で読んだ物語の世界が広がっていた。

知りたかった。
手を伸ばしても届かない空はどうしたら手が届くのか。
雲にだって触りたいし乗りたい。
自分で作るアップルパイの味だって知りたい。
だけど人間は適応能力に優れていると本で読んだ時に、私は全てを悟った。

私の思い描いたことは夢でしかない。
この身体の時点で私はこの身体に適応能力した人間になったのだと。
いつしか不安を感じなくなった時だった。

「あーあ!この…死神様が来てやったのに2日も無視しやがって!なんか物言えガキ!」

ふよふよと浮いているこの男は自称死神。
真っ黒のフードで顔が見えない。
2日前から見えていて態度も仕草も口も悪い。

「出て行かないと人呼びますよ」

「あははっ!やっと喋ったな!他の人間には俺様は見えないから…残念だったな…ガ・キ!」

「っ!私はガキじゃないです!もう12歳で…本当だったら…来年…中学に通っていて…」

「はぁ?来年?無理無理!お前はもうすぐ死ぬ運命なんだからそんな一瞬の話しされてもわっかんねーよ!」

死ぬ運命。
その言葉をかけられても私は不思議と不安ではなかった。
本当はもう分かっていたのかもしれない。

「お前は泣き喚いたりしないんだな?人間って奴はすぐに死ぬって言うと泣くんだぞ?それにガキの方が泣いてすぐに、人呼んで話にならねぇからめんどーだけど…お前は家族も呼ばないし泣かないし…見てて気色悪ぃ」

「死ぬとか…今さらどうでもいいよ」

「うわぁ…まじでこのガキ大丈夫か?不安ひとつも感じねーし…やっぱり気色悪ぃ」

「殺すんだったらはやくして」

「いや、お前が死ぬのは今日じゃねーよ。勝手に寿命を縮めたり延ばしたら俺様が減給される。休みもなくなる!それは嫌だ!それに…1番嫌なのは…」

自称死神が浮いたままぷるぷると震え出した。
よっぽど人間の運命を変える事は重罪なのだろう。

「お前みたいな不安を感じないガキを見ても俺様は気分が良くならない!!」

「えっ…気分?重罪は?」

「ない!お前が産まれる何千年前に死神と死ぬ間際の人間が駆け落ちした時も特段お咎めなかったしな!」

「それで…成り立つの?」

「どうせ、生き物は短命なんだし。ほっときゃ勝手に死ぬ」

生き物は短命。
それでも私よりも遥かに長生きをするはずだ。

「だから…お前が不安になれば俺様は気分が良くなる!という事でお前が不安になる事はなんだ!?」

「えっ……。分からないけど…人間高い所に行ったら不安になるって本でよん…」

「じゃ、今すぐ行くぞ!高い所に!」

自称死神はそういうと何処から出したのか分からない大きな鎌を振るった。
私に鎌があたる。そう思った瞬間には私は空の上にいた。

「えっ…!私…空の上に!」

「はははーん!どうだ?怖いだろう?不安だろう!」

確かに怖い。
地に足がつかない感覚がこんなに怖いなんて知らなかった。
たけど、隣を見ればちゃんと両手を握ってくれている自称死神がいる。

この気持ちはなんだろう。
お母さんに本を読んでもらったあの時の気持ちに似ている。
温かくて…ゆっくりと時間が動いていく。
私がいつ死ぬのか…忘れさせてくれたあの瞬間に似ている。

「ねぇ…!自称死神!私、あの雲に触りたい!乗りたい!」

「俺様は自称死神じゃねーよ!たくっ…最近のガキは躾がなってねぇ」

悪態をつきながらも白い雲が触れられる近くまで近付いてくれる。

「待って!なんで雲って乗れないの?触れないし?」

「はぁ!俺様に聞かれても知らねーよ!あとお前ガキのくせに重いから戻る!」

死神が私を抱き抱えまた鎌を振るうと、何事もなかったようにいつもの病院のベッドに私はいた。
隣には変わらずにふよふよと浮いている自称死神。

「どうだ!怖いか?不安になっただろう!さぁ、泣き喚け!」

「重いってどういうこと!それ聞いて不安なんか飛んでいったよ!」

「はぁ?!このガキ…俺様を騙しやがって」

「騙してないよ。勝手にそう思って行動したのは自称死神さんじゃん」

「もういい!」

急に白い煙が出たと思うと自称死神さんは居なくなっていた。
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「消えたんじゃないの?」

「消えるわけないだろう?俺様の仕事はお前の魂を刈り取って正しく導くことだ!」

この自称死神が魂を正しく導けるなんて微塵も思っていない。
やっぱりお母さんが読んでくれた死神は、あの綺麗な誰かの物語の中でしか存在しないんだろう。

「全く!今日はもうガキの戯れ言に付き合っていられないからな!なんたって今日は…お前が死ぬ日なんだから!」

「そっか…今日が死ぬ日なんだ」

そう言われてもやっぱり不安は感じなかった。

「ははっ!怖いだろう?最初から死の宣告をしておけばよかったんだ!俺様もまだまだだなぁ!」

「いいよ、はい」

私が両手を広げると自称死神さんは鎌を落とした。

「な、な、なんで…怖がらないんだ!?不安にならないのか!?お前はもう死ぬんだぞ!」

「そうだね。怖くないよ…なんだろうむしろこの気持ちは多分…安心してるんだと思う。お母さんが亡くなってから…私はもう生きるのを諦めてた。安心も不安もなくてそれこそ魂を持っていかれたみたいに生きてた。でも、死神さんが来てくれた3日間楽しかったよ。最初の2日間は無視しちゃったけど、やっぱり誰かが隣にいてくれるのは「安心」したよ。私は死神さんがいてくれて「安心」したの」

「うわー!止めろ聞きたくなーい!」

自分の身体をカーテンぐるぐると巻き付けると死神さんは固まった。

「でも、心残りは自分でアップルパイを作って食べれなかったことかな。死神さんにも食べてもらいたかったなぁ」

「うわっ…心残りもあるのかよ。これだから極悪犯罪者以外は相手にしたくないんだよ」

死神さんはブツブツと呟くと急にカーテンを解き、何も無い空間から1枚の紙を出した。

「これは前借りだ。読め!」

「私…字読めない…」

「これだからガキは…!いいかここに書いてあるのは、お前の今の人生を延ばす契約だ」

「えっ!延ばしたら…お休み減るんじゃ…」

「うるさい!どうせ死神はブラックだよ!人間の方がマシだわ!簡単に言うとお前は輪廻転生出来ないけど、今の人生を長生き出来るって契約だ」

「りんね…てんせい?」

「それもわからないのかよ…!人はな産まれたら死ぬ。そしてまた産まれる。死ぬ。産まれる。死ぬ。を繰り返しているんだ!これに契約したらお前はもうこの人生限りだ次はない…どうする?もし書くなら無理に感じで書くなよ」

次の人生はない。
やはりお母さんが読んでくれた物語は綺麗な物語でしかなかった。一緒に生きてくれる死神もいない。
だけど…今を生きることを…安心させてくれた死神はいたのだ。私の物語の中だけには。

「私は……」
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長かった業務をやっと終わった。
紙1枚に書かれている名前を何度も読みこれからのことを考えた。

「お前…今回長かったなぁ。子供だったんだろ?大丈夫だったか?」

同僚の死神に心配されたが俺様がしくじる事はない。

「何も心配ねぇ。ほらこれ」

「げっ!輪廻転生の契約書…。やっぱり子供は生きたいって言うんだなぁ。というか…おい!お前それひらがなで書かれているじゃん!やばいよ!契約になってないよ!」

「ん?そうだったのか?知らなかったって事で。俺様だって初めてこんな紙切れ使ったし?」

「ええっ…休みが良くても358年と79日減るぞ!プラス減給かも。お前になんのメリットもないの…よくやるねぇ」

「いや、メリットならある。次にあのガキに会う時にあのガキの手作りのアップルパイとやらを、死ぬ間際に近くに置いてもらう事も俺様が作った契約書でしてある。まっ…次に会う時には、あのガキはよぼよぼのババアになってるんだろうけど」

同僚の死神は本当にお前は、「人間の空想物語に出てくる死神にそっくりだな。もう悪魔を通り越して天使だわ」と言い残すと次の仕事に消えていった。

「俺様だってあんな人間…物語でしか見た事ねぇよ。俺が傍にいて安心するだなんて…ははっ…もっと不安がれよな」

1/25/2024, 9:23:26 AM

「お前…名前なんて言うんだ?」

「ごくごく…はぁ?」

俺の言葉にそいつは小さく反応した。
反応しただけで俺の質問に答えてはくれない。
飲みかけのペットボトルから水分を補給するとそいつは走り出した。

「お、おいっ!外は雨だぞ!?」

「だから?今は部活なんだし。あんたも駅伝部なら走れば?どうでもいいことに気を取られていると…タイム落ちるよ?」

「お前…喧嘩売ってんのか?」

雨で地面がぬかるんでいる中、そいつは涼しい顔で走っていく。
雨の中、小さくなっている背中を見ていたら、周りがため息混じりに筋トレを始めていた。

「でたでた…。奴のせいで関係ない俺たちまで変な目で見られるんだよな…。この間だっていじめか!?って生活指導に怒られたんだから…」

「たかが学校の部活なのになぁ。なんでそんなに必死になってるんだが…」

そいつを始めて意識した日の出来事だった。


この学校に転入してきて2ヶ月が過ぎようとしていた。
部活中喧嘩を売ってきたあいつにはあれきり会えてない。

「入ったばかりなのに…早波くんは凄いですね〜!前の学校でも凄かったんですよね?ぼ、僕も頑張りたいです〜!」

「お前…誰だっけ?」

「ガっ!?!?」

俺の言葉でお笑い芸人のように綺麗に滑るとそいつは「お、おかしいですよ。僕と同じクラスで…部活も同じなのに…2ヶ月間一緒に…過ごしたはずなのに…」ブツブツと念仏を唱えだした。

「お前、俺と同じ部活なのか!じゃ、教えてくれよ!この間の雨の中走っていったあのいけ好かないあいつのこと!」

「雨の中…?南くんのことですか?彼はいい意味で走るのが好きな方ですよ!悪い意味だと…懐かない猫ちゃんみたいな人と言いますか……先輩達には可愛がられないタイプの方ですね!部活で1番速いですし!」

「生意気なやつってことでいいのか?」

「そ、そんな事はないと思うのですが…。」

「だから、それを生意気で自分の意志を変えない奴って言うんだよ。俺はそいつに喧嘩を売られたから買うって宣言をしたいんだ!何が言いたいかわかるよな?」

「ひぇ……」

俺は名無し(名前知らないから)の首根っこを掴むと教室を後にした。
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「うるさいな。オレはお前のこと知らないし、覚えてないし、興味無い」

「な、んだと!」

部室に来るなり顧問に集められて言われた言葉は、1ヶ月ももうない駅伝大会の事。
よりによって俺がこいつ…南にたすきを繋がないといけないなんて。

「まぁまぁ…早波くん…最後に南くんが走るんですから…仲良くしません?このままだと走ってて気まずいですし…」

「どうせ…繋がらないからいいよ…」

「俺が走れないって言いたいのかよ?」

「オレにたすきが…繋がったことないからな」

「俺は繋ぐ」

フッと鼻で笑うと南はグランドへと駆け出していった。

「くそ……なんなんだよあいつは!名無し!あいつにたすき繋げてやる!今から走るぞ!」
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たすきを繋ぐ。
なんて言ったのが懐かしく思えてきた。

「先生!大変です!3区走る人が急に体調が……」

「ええ…補欠の俺が走るのかよ…」

先生の慌てぶりをよそに他の部員は、走りたくないとしか言わなかった。

「普通は補欠の自分に回ってきたら嬉しいもんじゃねーのかよ。どうなってるんだ。この学校の駅伝部は…」

「た、た大変なことになりました……。どうしましょ!?」

隣には、涙を浮かべてぷるぷるとチワワのように嘆く名無しの姿がある。

「ん?名無し…そうか!名無しお前が3区を走れ。走って俺にたすきを繋げ。わかったか?」

「へっ………?む、む、無理無理無理ですよ!?」

「無理もへったくれもねぇ。走って繋ぐ。これだけだ。簡単なことだろ?先生!こいつが走るって!」

「No!!!!!!!」

歩かない名無しを持ち上げて俺は先生の元に連れて行く。
これでたすきはなんとか俺に繋がることを信じて。


肺が痛くなってきた。
あと少しの距離がもどかしく感じる。
あの後、なんとか名無しが俺にたすきを渡してくれたから俺はこうして走れている。

「繋い…でやる…」

涙で霞む視界に南が映った。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔って今の南のような顔を言うんだろうな。そんな顔をしていた。

徐々に俺と南の距離が近付く。
近付くな連れて上手く息が出来なくなる。
酸欠なのか頭がぼーっとなる。

諦めたい。

そんな気持ちが胸を覆い尽くした。

「でも…それは今…じゃない…」

俺は最後の力を振り絞って…あいつに南にたすきを渡す。
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「なんで3人だけで写真撮るんだよ…名無し」

「僕は名無しって名前じゃないです!何回言えば理解してもらえるんですか?」

「どうでもいいだろ。さっさと撮れ」

「辛辣です…」

名無しはスマホのカメラアプリを素早く開くと俺と南の間に入ってきた。

「最後までたすきを繋ぐことが出来た記念ですよ。僕、走ってて…たすきを繋ぐことが出来て嬉しかったです!」

「そっか…」

言葉は冷たい台詞だけど心做しか南も笑っているような感じがした。

「名無しって…良い事言うんだな?」

「だから!!僕は名無しじゃないです!七瀬って言うですよ!」

「いや、似てるのかよ…!」

「あと、もう写真は撮ったので…解散しますか?それともどっか行きます?」

スマホの画面を見ながらニタニタと笑う名無し。

「オレは帰る。別にお前たちと今後…」

「普通にコンビニでなんか買って食えばいいんじゃね?」

「ぼ、僕もさんせーです!」

「おい、勝手に決めるな!」

名無しは嬉しそうに前を1人で走っていく。
その後を俺と南とで追っていく。

「早波……」

「なんだよ?」

「たすき……ありがとう」

「どーいたしまして」

俺は似合わない言葉にてれくさくなり、時間を確認するフリをしてスマホの画面を見ると名無しからメッセージが送られてきた。
確認してみれば今、撮ったであろう俺と南の写メが送られていた。

画面いっぱいに逆光が俺らを照らしていた。

1/24/2024, 8:22:09 AM

「なんで…娘を殺した犯人が分かるのに…逮捕してくれないんですか…」

目の前の女性は泣き崩れ…

「あなた達…警察は一体…何を操作していたんですか!?む、娘を…返して…」

目の前の男性は怒りをあらわにした。

「娘さんのこと…犯人逮捕の件…大変申し訳ございません」

「そんなこと…言っても…もう…!娘は戻って来ません!!」

職業柄こんな光景は珍しくない。

「犯人逮捕には至らなかった。犯人を逮捕出来なかった。遺族の気持は。色々書かれているね…」

記事を片手に彼はそう言った。
刑事になってはや三年経った。

彼との同棲ももう三年経つ。
そろそろ彼は、結婚したいという事を零しているが…そんな気持ちに今はなれなかった。
彼のことは好きだ。
どんなに時が経とうとも、彼を想うこの気持ちは変わることはない。

「目の前に犯人がいても…逮捕出来ないんじゃ意味がない…証拠が必要…」

「君は…もう寝た方がいいよ。この間からろくに寝てないだろう。あとは僕がしておくからさ」

「いや…それは出来ない。次は連続女性殺害事件の…」

「いいから!!!寝ないと君の方が倒れてしまう。ノートなら僕が探しておくから。」

調べ物をしていた腕を強引に、掴まれると寝室に連行された。

「はやく…目を瞑って…」

そう彼に諭されて目を瞑る。



「やっぱり…眠くな…」

「そうだ…俺は殺した女の写真はこうしてノートに貼っている。バレてない。あんたに言われたとおりにな。あんたが殺した男も……」

なんでここに居るのか…。この男はまだ警察署にいるはず。
意気揚々と私に見せるそのノートにはこの間のご家族の娘さん…被害者女性の写真がノートいっぱいに貼られている。

無惨な姿だ。
虚しく開いた瞳には何も映っていない。

男は目の前にいる私に気付いていない。
いや、私という存在を認識していないようだった。
男が持っているノートに触れると、私の手は空気を掴むかのようにノートに触れる事は出来ない。
他の誰かと話しているようだ。

「隠しましたよ…場所は…」




「おはよう!眠れない〜とか言ってたけどもう朝だぞ!」

朝日が視界を遮る。
先ほどの男達はもう居なくなっていた。
目の前にいるのは見慣れた彼の姿。
空腹を誘ういい匂いが漂う。

「食べたいって言ってたろ…オムレツ」

「あ、ありがとう…でも食べたらすぐに向かいたいとこがあるの」

男が言っていた場所にノートが無いことを私は祈るばかりだった。
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「ありがとう…ございます…!これで…む、娘の気持は…救われたと思います…」

「この間は…すみませんでした。ありがとうございました。このままだったら…犯人のこと…殺していた…かもしれません…」

目の前のご夫婦は泣き崩れた。
犯人が逮捕されたから。
私はあの後、男が言っていた場所に向かった。
夢なんて馬鹿馬鹿しくて信じたくなかった。
でも、世の中は結果論。
信じたくなかったのに。


「凄いなぁ!犯人逮捕って!どうやってわかったのさ」

「ノートがあったんだよ…。古びて汚くなったノートがね」

彼が嬉しそうに「良かった」と安堵のため息を零した。
そんな彼の手首を掴むと私は手錠をはめた。
手首の冷たい感触に気付いたのか、先ほどの嬉しそうな顔から一気にこちらを冷めた目で見つめてくる。

「あなたに聞いて欲しいことがあるの…私ね」

目尻が熱くなった。
頬から涙零れる。
どんなに時が経とうともこの彼を想う…この気持ちが変わる時が来てくれるのか。

「こんな夢を見たの」

1/22/2024, 5:10:51 PM

隣の家のお姉さんに恋をした。

「お姉さんは…その人のこと…好きなの?」

「えっ!?あ、ははっ…恥ずかしいなぁ。どうだろうね。でもその人に会いに、12年前の過去に戻りたいと思うほどには好きなのかも…」

子供ながらに思った。叶わない恋だと。
僕よりも12歳も歳上で、綺麗な黒髪は夜に散らばった星たちよりも光輝いていた。

「恥ずかしいから…もうこの話はおしまいね」

僕を優しく見つめるあの眼差しに恋をしていた。

「あっ……あのお姉さん!またタイムマシンの話しして!」

「好きだね?いいよ」

お姉さんとの会話を終わらせたくなくて、お姉さんが部活で研究しているというタイムマシンの話を興味もないのに聞いてた。
こんな何気ない日常だけでもお姉さんへの恋心は募るばかりだった。
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「気を付けてね。はぐれないように手を繋ごうか」

ソースの香ばしい香りと甘いりんご飴の香りに包まれて、僕とお姉さんは夏祭りに来ていた。

「今日は絶対に私から離れちゃ駄目だよ!」

「お姉さん。僕もう6年生だから」

「それでも離れちゃ駄目だからね」

そういうとお姉さんは僕の手をぎゅっと優しく握った。

「今日はりんご飴を食べるをノルマに楽しもうかなー」

「お姉さん…りんご飴食べたいの?」

「お祭りと言ったら…りんご飴でしょ?」

目を輝かせてお姉さんは人混みの中を進んでいく。

「あれ!来てたの?」

お姉さんが、ピタリと立ち止まるとお姉さんが時々来ている体操服を来た人達がいた。

「私ら部活で居んの。来てるなら言ってよー」

「あははーごめんね。今日は…」

「お姉さん…僕のことは気にしないで。僕、あの石のとこにいるかるさ」

僕が石を指さすとお姉さんは、そこから離れないでねと忠告を残して友達と話しているようだった。

「りんご…飴」

お姉さんの喜ぶ顔が思い浮かぶ。
僕はそっとその石を離れて1人で人混みの中を急いだ。

「はい、りんご飴ね」

「あ、ありがとう…ございます」

少し遠い所にりんご飴の屋台はあった。
時折、車が通る。

「早く…戻らなきゃ…」

もしかしたらもうお姉さんは友達と話をしていないかもしれない。

「危ない…!!」

周りの声がより一層大きく聞こえる。
地面には先ほど買ったりんご飴が無惨にも割れていた。
僕は、力いっぱいに押されて地面に倒れている。


僕がさっきまでいた場所にはお姉さんが倒れていた。

「ちょっと救急車を!」

「女の子が轢かれた!」

「お、お姉さ…ん…?」

僕が近づくといつもの優しい瞳で僕を見つめている。

「あのね…本当は…あなたに会いたくて…12年前の過去に…戻ってきた…の。あなたは今日の…祭りで…私を助け…るために…車に轢かれた…ずっと眠っている…あなたを…みて…過去に戻りたいと…思った…会いに来…たよ」

「お姉さん…喋ったちゃだめ!今…タイムマシンの…話はいいよ!」

お姉さんは力なく僕を抱きしめる。

「今、しか…言えない!好き…だよ」
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「その人のこと…好きなの…?」

「えっ……。そうだなぁ。好きだよ。多分、この先あの人以上の人には出会えないんだろうなって思うほどには…。というかこの話は…僕が恥ずかしくなるのでもう辞めです。」

12年の歳月が経った。
お姉さんはずっと眠ったままでいる。
お姉さんと同じ歳になってわかったことは…お姉さんもこんなに寂しくて辛い気持ちでいたのかな。

叶わないって思ってた恋だったけど、あの何気ない日常に何よりの幸せを僕は感じていた。

「あの…お兄ちゃん!私にまたタイムマシンの話しして欲しい!」

「好きだね?いいよ」

だから、僕も会いに来たよ。