ありす。

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「おい、ガキ!この俺様をみて怖気付いたのだな!」

まだお母さんが生きていた時に、私に読んでくれた絵本を思い出した。

「怖くて声も出ないのだな!」

寿命が短い女性のもとに現れた死神の話し。
その女性と死神の3日間を描いた物語。

「おい!何かものを言え!」

憧れていたのを思い出した。
もう良くもならない病気で、不安な私にお母さんが読んでくれた物語。

「この俺様を無視するなんて…このガキっ!」

でも、所詮…物語は物語でしかない。
それにあの物語は「シンデレラ」や「白雪姫」みたいに綺麗魅せるためにに描いた夢物語だ。
現実は無常だ。

「あーあ!この…死神様が来てやったのによ!」

これは私とこの自称死神を名乗る男と…過ごした3日間の私だけの物語だ。
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不安な事は山ほどあった。
特に最初の頃は、いつ自分が死ぬのか…そればかりが不安で仕方なかった。
寝ても覚めても見える景色は病院の天井。
身体を起こして外を見てみれば、本で読んだ物語の世界が広がっていた。

知りたかった。
手を伸ばしても届かない空はどうしたら手が届くのか。
雲にだって触りたいし乗りたい。
自分で作るアップルパイの味だって知りたい。
だけど人間は適応能力に優れていると本で読んだ時に、私は全てを悟った。

私の思い描いたことは夢でしかない。
この身体の時点で私はこの身体に適応能力した人間になったのだと。
いつしか不安を感じなくなった時だった。

「あーあ!この…死神様が来てやったのに2日も無視しやがって!なんか物言えガキ!」

ふよふよと浮いているこの男は自称死神。
真っ黒のフードで顔が見えない。
2日前から見えていて態度も仕草も口も悪い。

「出て行かないと人呼びますよ」

「あははっ!やっと喋ったな!他の人間には俺様は見えないから…残念だったな…ガ・キ!」

「っ!私はガキじゃないです!もう12歳で…本当だったら…来年…中学に通っていて…」

「はぁ?来年?無理無理!お前はもうすぐ死ぬ運命なんだからそんな一瞬の話しされてもわっかんねーよ!」

死ぬ運命。
その言葉をかけられても私は不思議と不安ではなかった。
本当はもう分かっていたのかもしれない。

「お前は泣き喚いたりしないんだな?人間って奴はすぐに死ぬって言うと泣くんだぞ?それにガキの方が泣いてすぐに、人呼んで話にならねぇからめんどーだけど…お前は家族も呼ばないし泣かないし…見てて気色悪ぃ」

「死ぬとか…今さらどうでもいいよ」

「うわぁ…まじでこのガキ大丈夫か?不安ひとつも感じねーし…やっぱり気色悪ぃ」

「殺すんだったらはやくして」

「いや、お前が死ぬのは今日じゃねーよ。勝手に寿命を縮めたり延ばしたら俺様が減給される。休みもなくなる!それは嫌だ!それに…1番嫌なのは…」

自称死神が浮いたままぷるぷると震え出した。
よっぽど人間の運命を変える事は重罪なのだろう。

「お前みたいな不安を感じないガキを見ても俺様は気分が良くならない!!」

「えっ…気分?重罪は?」

「ない!お前が産まれる何千年前に死神と死ぬ間際の人間が駆け落ちした時も特段お咎めなかったしな!」

「それで…成り立つの?」

「どうせ、生き物は短命なんだし。ほっときゃ勝手に死ぬ」

生き物は短命。
それでも私よりも遥かに長生きをするはずだ。

「だから…お前が不安になれば俺様は気分が良くなる!という事でお前が不安になる事はなんだ!?」

「えっ……。分からないけど…人間高い所に行ったら不安になるって本でよん…」

「じゃ、今すぐ行くぞ!高い所に!」

自称死神はそういうと何処から出したのか分からない大きな鎌を振るった。
私に鎌があたる。そう思った瞬間には私は空の上にいた。

「えっ…!私…空の上に!」

「はははーん!どうだ?怖いだろう?不安だろう!」

確かに怖い。
地に足がつかない感覚がこんなに怖いなんて知らなかった。
たけど、隣を見ればちゃんと両手を握ってくれている自称死神がいる。

この気持ちはなんだろう。
お母さんに本を読んでもらったあの時の気持ちに似ている。
温かくて…ゆっくりと時間が動いていく。
私がいつ死ぬのか…忘れさせてくれたあの瞬間に似ている。

「ねぇ…!自称死神!私、あの雲に触りたい!乗りたい!」

「俺様は自称死神じゃねーよ!たくっ…最近のガキは躾がなってねぇ」

悪態をつきながらも白い雲が触れられる近くまで近付いてくれる。

「待って!なんで雲って乗れないの?触れないし?」

「はぁ!俺様に聞かれても知らねーよ!あとお前ガキのくせに重いから戻る!」

死神が私を抱き抱えまた鎌を振るうと、何事もなかったようにいつもの病院のベッドに私はいた。
隣には変わらずにふよふよと浮いている自称死神。

「どうだ!怖いか?不安になっただろう!さぁ、泣き喚け!」

「重いってどういうこと!それ聞いて不安なんか飛んでいったよ!」

「はぁ?!このガキ…俺様を騙しやがって」

「騙してないよ。勝手にそう思って行動したのは自称死神さんじゃん」

「もういい!」

急に白い煙が出たと思うと自称死神さんは居なくなっていた。
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「消えたんじゃないの?」

「消えるわけないだろう?俺様の仕事はお前の魂を刈り取って正しく導くことだ!」

この自称死神が魂を正しく導けるなんて微塵も思っていない。
やっぱりお母さんが読んでくれた死神は、あの綺麗な誰かの物語の中でしか存在しないんだろう。

「全く!今日はもうガキの戯れ言に付き合っていられないからな!なんたって今日は…お前が死ぬ日なんだから!」

「そっか…今日が死ぬ日なんだ」

そう言われてもやっぱり不安は感じなかった。

「ははっ!怖いだろう?最初から死の宣告をしておけばよかったんだ!俺様もまだまだだなぁ!」

「いいよ、はい」

私が両手を広げると自称死神さんは鎌を落とした。

「な、な、なんで…怖がらないんだ!?不安にならないのか!?お前はもう死ぬんだぞ!」

「そうだね。怖くないよ…なんだろうむしろこの気持ちは多分…安心してるんだと思う。お母さんが亡くなってから…私はもう生きるのを諦めてた。安心も不安もなくてそれこそ魂を持っていかれたみたいに生きてた。でも、死神さんが来てくれた3日間楽しかったよ。最初の2日間は無視しちゃったけど、やっぱり誰かが隣にいてくれるのは「安心」したよ。私は死神さんがいてくれて「安心」したの」

「うわー!止めろ聞きたくなーい!」

自分の身体をカーテンぐるぐると巻き付けると死神さんは固まった。

「でも、心残りは自分でアップルパイを作って食べれなかったことかな。死神さんにも食べてもらいたかったなぁ」

「うわっ…心残りもあるのかよ。これだから極悪犯罪者以外は相手にしたくないんだよ」

死神さんはブツブツと呟くと急にカーテンを解き、何も無い空間から1枚の紙を出した。

「これは前借りだ。読め!」

「私…字読めない…」

「これだからガキは…!いいかここに書いてあるのは、お前の今の人生を延ばす契約だ」

「えっ!延ばしたら…お休み減るんじゃ…」

「うるさい!どうせ死神はブラックだよ!人間の方がマシだわ!簡単に言うとお前は輪廻転生出来ないけど、今の人生を長生き出来るって契約だ」

「りんね…てんせい?」

「それもわからないのかよ…!人はな産まれたら死ぬ。そしてまた産まれる。死ぬ。産まれる。死ぬ。を繰り返しているんだ!これに契約したらお前はもうこの人生限りだ次はない…どうする?もし書くなら無理に感じで書くなよ」

次の人生はない。
やはりお母さんが読んでくれた物語は綺麗な物語でしかなかった。一緒に生きてくれる死神もいない。
だけど…今を生きることを…安心させてくれた死神はいたのだ。私の物語の中だけには。

「私は……」
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長かった業務をやっと終わった。
紙1枚に書かれている名前を何度も読みこれからのことを考えた。

「お前…今回長かったなぁ。子供だったんだろ?大丈夫だったか?」

同僚の死神に心配されたが俺様がしくじる事はない。

「何も心配ねぇ。ほらこれ」

「げっ!輪廻転生の契約書…。やっぱり子供は生きたいって言うんだなぁ。というか…おい!お前それひらがなで書かれているじゃん!やばいよ!契約になってないよ!」

「ん?そうだったのか?知らなかったって事で。俺様だって初めてこんな紙切れ使ったし?」

「ええっ…休みが良くても358年と79日減るぞ!プラス減給かも。お前になんのメリットもないの…よくやるねぇ」

「いや、メリットならある。次にあのガキに会う時にあのガキの手作りのアップルパイとやらを、死ぬ間際に近くに置いてもらう事も俺様が作った契約書でしてある。まっ…次に会う時には、あのガキはよぼよぼのババアになってるんだろうけど」

同僚の死神は本当にお前は、「人間の空想物語に出てくる死神にそっくりだな。もう悪魔を通り越して天使だわ」と言い残すと次の仕事に消えていった。

「俺様だってあんな人間…物語でしか見た事ねぇよ。俺が傍にいて安心するだなんて…ははっ…もっと不安がれよな」

1/25/2024, 3:20:19 PM