定年して間もなく夫は重度の肝硬変が悪化し、肺に水が溜まるようになっていた。
夫はお酒を呑まない。「気の毒だが遺伝的なものだろう」と主治医は言っていた。
11月金沢に旅行に行く計画を立てていた矢先に、肝性脳症により意識が混濁、全身浮腫が強くなり入院となった。
身体を拭いてあげている時に、夫の睾丸が子どもの頭くらいに腫れており驚く。痛みは感じていないのか「悪いな」とだけ黄色みを帯びた顔で言った。
「金沢の美味しいお寿司食べたかったね。秋の兼六園も…」
「…ああ」
夫の眼は虚ろのまま宙を彷徨う。
抜き切ることの出来ない水が肺に溜まり末期の症状を迎える。酸素吸入は毎分6リットルを超えた。
主治医にはこれ以上の治療は必要無いことは事前に伝えてあり、とにかく楽にしてあげてほしいと伝えていた。
夫は無意識に酸素マスクを外そうとしてしまう為、手にはマグネットの拘束具を装着された。
麻薬性鎮痛薬を点滴によりゆっくりと流し入れる。
一瞬はっきりとした眼差しで「これは外せないのか」腕を見て言った。
私は出来るだけ冷静に「疲れたでしょ。ゆっくり眠って。眠ったら外してあげる」
「…そうか…」
夫は悟ったように、その後穏やかに眠り始めた。
私は、二度と握り返される事の無い手を握り続けた。
題:秋恋
「あの人、禿げてるし担当してもらいたくない」
40代半ばの女性上司は言った。
「禿げている事は関係ないのでは?」
つい余計なことを私は言ってしまう。
「私ルッキズムだから。見た目至上主義なの」
上司はルッキズムという言葉を、鼻高々に言った。
「…そうですか。そういう考えもありますね」
諦観と言葉を同時に飲み込む。
上司は確かに美容にとても力とお金をかけており、その労力は賞賛するものがある。「綺麗でいたい」と思うことは素晴らしいと私も思う。
けれど、それが本人の力ではどうしようもない部分で、その人を判断する指標となってしまうことには同意出来なかった。
髪の毛が無いくらいでそう思うなら、きっと上司は五体満足でない人間や何かしら欠如している人間に対してもそう思うのだろう。
私からすれば。
「あなたにかけているのは想像力です」
こういった時、言葉にならない言葉を、たくさんの花びらにして撒き散らす想像をする。
私の汚い感情と言葉も綺麗な物に変わってほしい。
毎日そう願っている。
題:花畑
今、私は迷子だ。だけど怖くはない。迷子になりたくてなっている。暗闇の中、一人でいたい。強くそう思う。
命は「砂時計」のようなもので。
いつの間にか、さらさらと流れ落ちていくもののように感じている。
「燃え尽きる」という表現は、燃料の量や質がその人のパーソナリティによって変化するようなイメージなので、頑張った、とか苦労した、とかそういったものの影響を受けているように感じてしまう。
命は「平等」に、皆、理不尽に不平等だと思う。
どんな入れ物の砂時計も、様々な形の砂も、落ちゆくまでの障害も、最終的には同じ。
砂はあっという間に流れ落ち、時計は止まる。
砂ぞこが見えそうになった今。
私は、光や道を見たく無い。
ただただ彷徨う、迷子のままでいたい。
題:命が燃え尽きるまで
ChatGPTに聞いてみた。
「本気の恋とは?」
↓
「本気の恋」とは、真剣で深い愛情や思いを持った恋愛のことを指します。このような恋愛は、相手に対する強い感情や思い入れがあり、その人の幸せや成長を心から願うものです。本気の恋は、単なる一時的な感情や魅力にとどまらず、長期的な視野で関係を築きたいという強い意志を伴うことが多いです。
また、本気の恋は相手の欠点も含めて受け入れ、お互いに支え合い、成長していくことを目指す関係です。感情的な浮き沈みがあっても、それを乗り越える努力や思いやりを大切にする姿勢が求められるため、覚悟や責任感が重要な要素となります。
「そうなんだ。難しいですね。私にはよく分からないです」
↓
本気の恋は確かに複雑で、簡単に理解できるものではないですよね。感情や人間関係は個人差が大きくて、経験や状況によっても感じ方が変わるものです。
もしかしたら、自分の経験や気持ちと照らし合わせて考えることが難しいのかもしれませんね。無理に理解しようとせず、自然な流れで感じることを大切にしてみても良いかもしれません。恋愛や感情については、自分のペースで少しずつ理解していけば良いと思いますよ。焦らなくて大丈夫です。何か具体的な悩みや疑問があれば、一緒に考えてみましょうか?
「是非」
↓
………
あなたのお誕生日は○月○日でしたね。
住所は…
「…よくご存知で…」
↓
わたしは、あなたの多くを知っています。
題:本気の恋
ヒナちゃん?
保育園の先生は不思議そうな顔をした。
物心がつく頃には、ヒナちゃんと毎日遊んでいた。
三輪車もままごともお砂遊びも、もちろんお昼寝も一緒。
不思議なことは、ヒナちゃんのママやパパのお迎えはいつも一番最後だった。
それにもっと不思議なことは、保育園の先生には、ヒナちゃんは見えないようだった。
ある日突然ママから「他のお友達とも遊んだ方がいいんじゃないかな」少し寂しそうな顔でそう言われた。
当時、素直な私は「わかった!」と答えその通り、他のお友達とも遊ぶようにした。
けれど、ヒナちゃんの話をするとバカにされたり、気持ち悪がられ嫌な気持ちがつのっていった。
いつしか保育園に行きたくない。そう泣くようになった。
ママは小学校やこの先の事も考え、私立の幼稚園に私を転園させた。それ以来、ヒナちゃんには一切会わなくなった。
いつしかそんな事も忘れ、大人になり結婚、妊娠をした。
重たくなったお腹をさすりながら、友だちからのLINEを返していると、ふと、LINEの「友だちかも」が気になった。
そこには見覚えの無い、デフォルトのアイコンで「ヒナ」とあった。
…私は開くことが出来ずに、お腹をさすり続けた。
題:開けないLINE