ぬるい炭酸と無口な君
昨晩の君は異様に艶めかしく、いつの間にか溶けるように一夜を共にした。
朝と昼の間、薄いカーテンから漏れる光で目が覚めた。
黒髪をたゆたわせながら、君は背を向けて眠っている。
僕たちは、付き合ってはいない。
僕は、君を好きなのだろうか?
ひとつ確かなことは、きっと今夜も、君のことを好きになるだろう。
気の抜けた炭酸水をひと口飲んだ。
気泡の抜けた炭酸水は、時間の経過とともに起こりうることを僕に教えていた。
隠された真実
私は、君を傷つけた。心無い言葉で、傷つけた。
君の八の字に曲がった眉と涙を溜めた瞳、震える唇が脳裏に焼き付いて離れない。
私が一生背負っていく十字架だ。
君は「あなたはそんな人ではないでしょ」と弱々しく言ってくれたが、違う。私は最初からそんな人間だった。
他者と何気ない会話をする君はきれいだった。ずっと眺めていたいと思うほどに。
初めて話をした日の、君の透き通るような肌や笑った時の頬の紅潮が忘れられない。
私は仲良くなればなるほど、私の真実が君を飲み込み、君が恐怖することが怖かった。
そして、君に嫌われるのが怖かった。
だから私は、君を、傷つけた。
君を、守るために。
いや、自分を、守るために。
風景
森と呼ぶに相応しい、杉林の赤土を踏む。
木々の合間、ひだまりの中で苔生す香りが漂う。
鳥や雪解け水が、季節の移り変わりを教えてくれる。
木々の背丈が低くなり、標高の高いなだらかな尾根を歩く。
まだ早い朝の空は、薄く青く遠い。
山頂までの道が、近いようで遠くに続いていた。
私はいつも、あなたの背中を見ている。
遠い約束
ふっと降りてくる「死にたさ」
目の前を掠める「いつかの記憶」
足元にある「無力感」につまづきそうになる。
大きなおにぎりを頬張る。
涙は、止まった。
いつかまた、君と。
小さな幸せ
君は隣にいない。
君の連絡先も、知らない。
君は今も、あの仕事を続けているかも知る由もない。
君と一緒にいる筈だった未来はもう無い。
君の未来に、私はいない。
晴れた朝。
駅に向かう時に、ふと青空を見上げた。
なぜか。君もそうしている気がした。