隠された真実
私は、君を傷つけた。心無い言葉で、傷つけた。
君の八の字に曲がった眉と涙を溜めた瞳、震える唇が脳裏に焼き付いて離れない。
私が一生背負っていく十字架だ。
君は「あなたはそんな人ではないでしょ」と弱々しく言ってくれたが、違う。私は最初からそんな人間だった。
他者と何気ない会話をする君はきれいだった。ずっと眺めていたいと思うほどに。
初めて話をした日の、君の透き通るような肌や笑った時の頬の紅潮が忘れられない。
私は仲良くなればなるほど、私の真実が君を飲み込み、君が恐怖することが怖かった。
そして、君に嫌われるのが怖かった。
だから私は、君を、傷つけた。
君を、守るために。
いや、自分を、守るために。
風景
森と呼ぶに相応しい、杉林の赤土を踏む。
木々の合間、ひだまりの中で苔生す香りが漂う。
鳥や雪解け水が、季節の移り変わりを教えてくれる。
木々の背丈が低くなり、標高の高いなだらかな尾根を歩く。
まだ早い朝の空は、薄く青く遠い。
山頂までの道が、近いようで遠くに続いていた。
私はいつも、あなたの背中を見ている。
遠い約束
ふっと降りてくる「死にたさ」
目の前を掠める「いつかの記憶」
足元にある「無力感」につまづきそうになる。
大きなおにぎりを頬張る。
涙は、止まった。
いつかまた、君と。
小さな幸せ
君は隣にいない。
君の連絡先も、知らない。
君は今も、あの仕事を続けているかも知る由もない。
君と一緒にいる筈だった未来はもう無い。
君の未来に、私はいない。
晴れた朝。
駅に向かう時に、ふと青空を見上げた。
なぜか。君もそうしている気がした。
心のざわめき
私が、保管庫からフロアに戻った瞬間。
本当にその刹那、誰も話さない無の時間が訪れた。
わざとらしく誰かが咳払いをする。
2週間後には退職が決まっているのだから、雑用をさせられても仕方が無いのだろう、といった言葉たちが宙を彷徨っていた。
彷徨っている言葉たちを蹴散らし、引き継ぎ書類を山積みにしたデスクに座る。
私と書類の世界。
私は今日、あなたを片付ける。そうすることで前に進む。
私は出来るだけ、優しくタイピングする。
タイピングの音だけが、静かに鳴る。
私だけの世界。宙に舞う言葉たちは消えた。
私は想像する。
2週間後、桜の花びらが舞う中、ゆるやかに歩く姿を。