大学へは最低単位数を取るだけの為に行っていた。
その他は自宅でオンラインゲームに時間を費やしている。
美しいアニメーションで、自由に冒険できるオンラインRPGに嵌っていた。
ストーリーを進めていくと、協力プレイが可能となり、他のプレイヤーとチャット交流が可能になる。その中で特に仲良くなったプレイヤーの娘がいた。
一週間に数回、Discordでボイスチャットをしたりしているうちに、彼女を好きになるのにはそう時間はかからなかった。
勝手な妄想でワンピースを着た彼女を想像し、キャラクターを通した文字での会話とボイスチャットでの彼女の柔らかで高めの声を脳内で組み合わせ、自分の中での彼女が作られていった。
僕からVideoで会いたいと伝えた。
「...」の表示が永遠にも感じられる。
「ごめんなさい。実は…結婚してるの。このままの関係じゃ、ダメかな?」
僕の中の理想像が、足下からがらんがらんと音を立てて崩れていった。
暗闇の中。モニターの灯りに照らされた僕は、夢なら良いのに、そう思った。
題:目が覚めるまでに
はじまりの場所。
まだ蒼く、小さく泣くあなたを胸に抱いた時。
「愛しい」という言葉の意味を知った。
大人の親指ほどの握り拳を、胸の膨らみに押し当て、顔を横に向けたまま、この世界に産声を聞かせてくれた。
とても小さな、小さな足裏を必死に蹴り上げて雄飛する。
歪だけど、愛らしく丸い頭を両手で包みこんだ。
どんな人も。
生まれ落ちた瞬間は、平等に愛される権利がある筈。
例え。
愛されなくても。
愛する権利を私達は持ち合わせてる。
題:病室
自分のためにご褒美をあげよう。
自分が幸せになれる食べ物を食べて。
自分が安らげる時間を持とう。
自分が悦びを感じて笑っていられる。
それが大切なんじゃないかと、最近はつくづく思う。
題:誰かのためになるならば
お金があるところに集まるように、笑顔も幸せも、あるところに集まる。
しんどいことばっかだけど。死ぬまで微笑うんだ。
あなたを想って。想い続けて辛い時間を長らく過ごした。
「私なんかと一緒にいると、あなたは幸せになれない」なんて傲慢に満ちた考えだったかもしれないけど、家族を看取らなければならない、私の置かれている立場では、本当にあなたを幸せに出来なかった。
冬と春を超えて初夏。
思いきってあなたにメッセージを送る。
「あなたとの思い出に支えられて過ごしていた。差し支えなければ、もう一度会ってほしい」
コンクリートから上がる蒸せ返るような湿気と刺す様な日差し。やっと鳴き始めた蝉の声が響く。
独り鼓動だけが虚しく鳴り、ただ時間だけが過ぎたが、あなたからの返事は一切返ってこなかった。
どうやら、また、傲慢にもどこかで期待し、あなたが待っていてくれていると思い込んでいた自分に気づく。
桃色の百日紅(さるすべり)が垂れ下がり、そこの空間だけ華やかにしている。
濃い青の空を背景にし、百日紅に向かって上を向いて写真を撮った。
「過去にあなたが愛してくれた事は信じています。ありがとう。今日で本当にさようなら」
題:花咲いて
[悔やんでいる」事になるのだろうか。
母として、短い期間であっても面倒みてくれた事は、嘘偽り無く感謝している。
が、正直に。私が幼い頃より、私と同等の精神年齢だった母の事を、最期まで人として好きにはなれなかった。
実家を出て15年目の夏の日。
突然の叔母からの電話。
「お母さんが黒くなって死んでる」
駆けつけた私の目の前に、蒼黒く変色した母がいた。
警察によると死後3日ほど経っていたそうだ。幸いにも顔は十分に判別出来、不詳の病死と診断されて事件性は無かった。
片付けの為、実家を訪れ黒褐色の嘔吐痕を雑巾で拭う。死者独特の臭いが鼻にまとわりつく。
詳しい死因は分からなかったが、嘔吐物に食べ物が混じっておらず、コーヒー残渣様の時点で吐血したのだと予想された。
悲しいほど、涙は出なかった。
けれど。血の通わない人形と化した母の姿と、見つけられず倒れていた3日間を想像すると、心の深淵が恐ろしく冷たくなった。
…私は、後悔しているのだろうか。
題:もしもタイムマシーンがあったなら。