金曜日の夜、同僚に誘われてお酒を楽しんだ。
飲む前まではあんなに意気込んでいたのに。
いざとなると結局、2時間ほどで飽きた。
楽しい夜だった。それに偽りはなくて。
けど、何か足りない。
2件目に行く事はなく、自宅近くの駅にひとり降り立つ23時。
星の見えない空を少し見上げる。
背の低いビルとネオン、どこぞのシンガーソングライターと数人の観客。どこからか漂う煙草の匂いと香水。まだ終わらない夜。
いつもならタクシーを使うけど、今日は歩きたかった。
ちょうど一年前、夏の匂いが漂い始めたこの日。
君はサマーニットのワンピースを着ていた。
あんなに楽しかった夜はもう来ない。
逆に云えば、もう傷つくことも無い。
安堵しながらも、泣き出しそうな群青色の空。
三白眼に似た三日月だけが、全てを見透かしていた。
題:あいまいな空
・嫌の語源
兼は手で二つの稲を持っている様子を表しており、意味は「二つ併せ持つ」「1つでは足りない」状態を表す。
それに女がくっつき「気持ちが二つにまたがっている状態」⇒「不安定な状態」⇒「嫌う」となるとの事。
・好の語源
女が子をかわいがることから、いつくしむ、ひいて「このむ」「よい」の意を表す。
どちらも「男」ではない、ということだけは確かだ。
題:好き嫌い
「インスタグラマーのLINAさんが紹介してたから買ってみたの」
ママ友の輪の中で、彼女は淡い群青のロングスカートをひらひらさせていた。周りの人達も共感と羨望の声を足し空気を染める。
自分の下半身を見る。
男の子2人を育てる私は汚れても良いように、そして仕事にも行きやすいように、いつだって黒スキニーだった。
金曜日の夜、子ども達が寝静まった後にInstagramを開き同年代のルックブックを観ていた。
確かに素敵だなと思う人が沢山いて、かわいいなと思うトップスやスカートがいっぱいあった。
風呂上がりの夫が「今週もお疲れ」と缶ビールを出してくれた。
夫にインスタグラマーのルックブックを見せる。
「私今からでも、こんな風になれるかな?」
夫は少し眺めながら考えた。
「なりたいのであれば、なれると思うよ。そういう服装の君も見てみたい気持ちもある…だけど、いつものズボンで子ども達を追いかけ回してる君の方が素敵だと俺は思うほうだから、別にいいや」
「……なーんだ、つまんないっ」
ビールを一口飲み笑った。
私はそっとInstagramを閉じて、次の連休はどこに遊びに行こうかと夫と話し始めた。
題:やりたいこと
助けてよ。
心の相談、命の電話。
なんなの。やってないじゃん。結局たらい回し。
いま、なんだよ…必要なのは。
もういい。本当に、もういい。
私はひとりで歩くよ。
カットしようが、ODしようが。
私はいつか、皆んなを助けてみせる。
題:朝日の温もり
だいぶ少年らしくはなったと言っても、まだ13歳。
成長しきっていない僕の手は血で塗れていた。
必死に掴んで走ったから気づかなかったけど、華奢な君の手も汚れた血で染まっていた。
土手沿いの薮の中で、震えながら必死に君を抱きしめていた。僕らは声を押し殺して泣いた。
君から相談を受けていた僕は、夜にノックもせず君の家に入り込んだ。
仕事に出ていてお母さんはいない。
君の部屋のドアが細く開いていて、煌々と電気が照らしている下で、セーラー服姿のままで君は養父に覆い被さられていた。
怒りで脳が熱くなるほど僕は冷静だった。静かに近づき思いっきり包丁を振りかざし、養父の右の背中に突き刺した。何度も何度も突き刺した。
僕らは汚れた血で染まった手を繋ぎ、交番へ向かった。
題:世界の終わりに君と