「インスタグラマーのLINAさんが紹介してたから買ってみたの」
ママ友の輪の中で、彼女は淡い群青のロングスカートをひらひらさせていた。周りの人達も共感と羨望の声を足し空気を染める。
自分の下半身を見る。
男の子2人を育てる私は汚れても良いように、そして仕事にも行きやすいように、いつだって黒スキニーだった。
金曜日の夜、子ども達が寝静まった後にInstagramを開き同年代のルックブックを観ていた。
確かに素敵だなと思う人が沢山いて、かわいいなと思うトップスやスカートがいっぱいあった。
風呂上がりの夫が「今週もお疲れ」と缶ビールを出してくれた。
夫にインスタグラマーのルックブックを見せる。
「私今からでも、こんな風になれるかな?」
夫は少し眺めながら考えた。
「なりたいのであれば、なれると思うよ。そういう服装の君も見てみたい気持ちもある…だけど、いつものズボンで子ども達を追いかけ回してる君の方が素敵だと俺は思うほうだから、別にいいや」
「……なーんだ、つまんないっ」
ビールを一口飲み笑った。
私はそっとInstagramを閉じて、次の連休はどこに遊びに行こうかと夫と話し始めた。
題:やりたいこと
助けてよ。
心の相談、命の電話。
なんなの。やってないじゃん。結局たらい回し。
いま、なんだよ…必要なのは。
もういい。本当に、もういい。
私はひとりで歩くよ。
カットしようが、ODしようが。
私はいつか、皆んなを助けてみせる。
題:朝日の温もり
だいぶ少年らしくはなったと言っても、まだ13歳。
成長しきっていない僕の手は血で塗れていた。
必死に掴んで走ったから気づかなかったけど、華奢な君の手も汚れた血で染まっていた。
土手沿いの薮の中で、震えながら必死に君を抱きしめていた。僕らは声を押し殺して泣いた。
君から相談を受けていた僕は、夜にノックもせず君の家に入り込んだ。
仕事に出ていてお母さんはいない。
君の部屋のドアが細く開いていて、煌々と電気が照らしている下で、セーラー服姿のままで君は養父に覆い被さられていた。
怒りで脳が熱くなるほど僕は冷静だった。静かに近づき思いっきり包丁を振りかざし、養父の右の背中に突き刺した。何度も何度も突き刺した。
僕らは汚れた血で染まった手を繋ぎ、交番へ向かった。
題:世界の終わりに君と
看護学校の学費と生活費を貯蓄するため、事務をしながら、休日前の夜や休みの日はデリバリーヘルスの仕事をしていた。
私は不思議と感情を入れることなく、淡々とこなす事が出来る方だった。
それなりの性の悩みを抱えている人も多かったけど、一定の欲求を満たせば大抵の人は満足していた。
坂井さんは既婚者だった。
「妻の事は大好きだけど、子どもが出来てから抱く事が出来なくなった。興奮すると罪悪感に似た感情になる。何故だか自分でも分からない」そう相談された。
勿論、私にも答えは分からない。
だけど、これだけは言える。
「そうかもしれない。でもきっと、奥さんはあなたに抱いて欲しいと思ってる。それは最後までという意味ではなくて、ただ抱きしめてほしい、と」
私達は裸のまま話続けた。
裸の人間は、心までも裸になりたいと欲求するのかもしれない。
題:誰にも言えない秘密
小説や文章は。
沢山の人に、分母の大きな整数の人達に届けば、意味や大義が生まれるのかも知れない。
それでも。
私は。マイノリティであっても。
君並びにあなたに届けばいいと思っている。
今。涙している君並びにあなた、の。
代弁者であり、且つ、共有者でありたい。
私は今。
たくさんの涙雨を想像する。
題:梅雨