「本当に、夫は昔から外面は良いんですけど、私達家族には辛く当たるような所があって、わたしの母や姉の悪口を散々聞かされてきたんです」
「それの影響だと思うんですよ。急にご飯が食べられなくなってしまったのは。え?悪口の内容?そんなのは、よく覚えてませんけど、とにかくずっと言われてきたんです」
「夫は、近所にも私の悪口を言い回るんですよ。あいつはおかしいとか、ぼけてきたとか。そりゃ片付けなど昔のようには出来ませんけどね」
「夫は警察官でしたが、しょっちゅう後輩や同僚を連れて帰ってくるので大変でした。こっちの事は何にも考えていませんからね。夫は…」
窓越しに良く晴れた青い空を背景に彼女は喋る。
奥の部屋では、夫の遺影が笑っていた。
題:快晴
あなたが、しあわせ、と。
思えるなら、
わたしの気持ちなど、
無いに等しい。
題:それでいい
欧米人の死生観では、soul(魂)は永遠に不滅で、それがbody(肉体)の中に宿っている。
魂と肉体は別々のものと考えられている。
よって、
He has been dead for two years.
「bodyの【寿命が切れた(dead)】状態が、【2年間ずっと継続(has been ~ for two years)】している」
という発想になるとの事。
※引用 THE GOLD ON LINEより
いつか、魂は肉体という枷から解放される。
仕事柄、人の死に関わる事が多いが、人の死は多種多様、千差万別あったとしても、
ハッピーエンドだと思っている。
題: ハッピーエンド
「バカみたい」
素晴らしいタイトル。
私は、過去1好き。
だって、そうでしょ?
どんな言葉の語尾に付けても、
格好が良いと、思うよ。
バカみたい。
初めて訪問したその日、鏡に映る自分に向かって、
「ちーちゃん?そこで何してるの?遊ぼ?」
彼女は話しかけていた。
幼児退行も見られ、自分の名前も言う事が出来ず、介助者の指示も入らない重度の認知症だった。
じっと座って食事を摂る事が出来ず、常に居室を徘徊し動き回るため、既にかなり痩せていた。
ワンピース姿に、常にぬいぐるみを抱いている。
放尿の症状も始まっており、廊下に座り込み排尿する彼女を、夫は強く掴み怒鳴った。
彼女は酷く怯え、金切り声に近い泣き声を上げ、別室へ逃げて行った。
認知症がここまで進んでいるのに、夫は病院に連れて行こうとはしていなかった。
異様な光景に立ちすくむ。
夫はそこから、自分のこだわりを語り出した。
まるで、妻は自分の「物」かのように、これまで全てにおいて「制限」していたようだった。
彼女の腕や足に、痣が出来ている事は、訪問してすぐに気付いていた。
然るべき手段を取らなければ…
そう頭の中で考えている一方、
きっと彼女は、長年の夫からの支配により、
夢の世界に入る事を選んだのだろうと、想像する。
今の彼女は、彼女にとっては幸せな世界。
夢が醒めない方が幸せな人もいる。
※題「夢が醒める前に」