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初めて訪問したその日、鏡に映る自分に向かって、
「ちーちゃん?そこで何してるの?遊ぼ?」
彼女は話しかけていた。

幼児退行も見られ、自分の名前も言う事が出来ず、介助者の指示も入らない重度の認知症だった。

じっと座って食事を摂る事が出来ず、常に居室を徘徊し動き回るため、既にかなり痩せていた。

ワンピース姿に、常にぬいぐるみを抱いている。

放尿の症状も始まっており、廊下に座り込み排尿する彼女を、夫は強く掴み怒鳴った。

彼女は酷く怯え、金切り声に近い泣き声を上げ、別室へ逃げて行った。

認知症がここまで進んでいるのに、夫は病院に連れて行こうとはしていなかった。

異様な光景に立ちすくむ。

夫はそこから、自分のこだわりを語り出した。
まるで、妻は自分の「物」かのように、これまで全てにおいて「制限」していたようだった。

彼女の腕や足に、痣が出来ている事は、訪問してすぐに気付いていた。

然るべき手段を取らなければ…

そう頭の中で考えている一方、

きっと彼女は、長年の夫からの支配により、
夢の世界に入る事を選んだのだろうと、想像する。

今の彼女は、彼女にとっては幸せな世界。

夢が醒めない方が幸せな人もいる。



※題「夢が醒める前に」

3/20/2024, 9:44:58 PM