当たり前の事だけど、歳を重ねると、沢山の病気にかかり、沢山の出来ない事が増える。
喪失体験も数多くし、思うようにならない身体の上に、心すら思うようにはならない。
「自分がこんなになるなんて、若い時には、想像もしてなかった」
「こんなはずじゃなかった。どうして自分が」
そう感じるのに、年齢制限は無い。
みんな同じ。
積み重なった枯葉は、いつか腐葉土になる。
歳を重ねた分だけ、積み重ねたものがある。
私は言う。
あなた方が生きた年数分、尊敬すると。
あなたのお気に入りになりたかった。
後ろから聞こえる、あなたの低くて響く声。
後ろの席に座るあなたに対して、どれだけ声を掛けたかったか。
プリントを配る時、腕まくりしたあなたの腕、手、指、血管を見てはどきどきした。
もちろん、あなたとは違う進路を辿る。
これでさよなら。
卒業式の日。
僕は、遠くから彼を見つめたまま、校門を後にした。
冷たい石の獄の隙間から、月を見上げる。
全てを見通せるほど明るい。
「信仰があると、婚姻をしてはならない」
この世界の決まりであるから、仕方ない。
本当にそうだろうか?
この世界の秩序や正義は、本当に正しいだろうか?
人々が当たり前と思っている狭間に弱者がいて、世の中の「当たり前」で見えなくなってないだろうか。
私は、明日絞首刑に処される。
名前はウァレンティヌス。
※バレンタインの語源となった逸話より
わたしの、命が終わる時。
さんざん見送って。
さんざん、別れも経験して。
さんざん、その分だけ辛い思いもした。
走馬灯。
そんなの。いらないの。
わたし、覚えてるから。
最期。
わたしの、横にいるのは誰だろう?
衣服を脱ぎながら霧の中を走る。
わたしに、必要な物などない。
裸足のわたしが、川の向こうを眺める。
「お願い連れてって!」
「桜の木の下に埋めてくれ」
亡くなる数日前、弱々しい声で父はそう言った。
「墓地埋葬法に抵触するよ」
可愛げも無い答えの無い答えが、宙を舞った。
アルコール依存症だった祖父とは会った事がない。父が16歳の時に他界しており、全ての写真を焼いてしまうほど、父は嫌っていた。
父が8歳の時に、10歳だった姉は近所の変質者に殺され全国的なニュースとなった。それが起因したのかは、分からないが、祖父はまともに働く事がなかった為、とても苦労したと聞いている。
そんな父は、典型的なアダルトチルドレンだった。
社交的だが、短気ですぐに人間関係を切り、定職も数年毎に変え、母には暴言、時には暴力も振るった。
挙句に借金が積み重なり、離婚。市営住宅に移り住んだ。
ろくでもない父なのに。
一生懸命 不器用ながら家族を愛そうとはしていた。
私は、母がひとり住む実家を訪れ、年老いた桜の木の枝を折り、そっと父の棺の中に入れた。