突然だった。
「だったら、別れよう」
急な未読無視から、なぜ?と聞いた際の返事だった。
きっと、彼からすると。突然ではなかったのだろう。
私の心は、深く深く暗闇に堕ちていった。
誰もがみんな「原因は自分ではない」と思いたい。
私も、そのひとり。
他に好きな人が出来た。もっと沢山の女性と遊びたくなった。他にやりたい事が見つかった。仕事を優先したかった…とか。
いや、たぶん。
私に原因があったんだ。
変わりゆく彼の気持ちに、気がつく事が出来なかった。「彼の求めるもの」を私は持ち合わせていないと認める事が出来なかった。
今、気がついたよ。
私にとってもあなたは、私が求めるものを持ち合わせていない。
たった一度の関係だったのに、店先に並んでいた500円の小さな花束が嬉しくて。
浮かれた私は、遊ばれたことに気がつかなかった。
気付いた時には、花弁は床に落ち、彼はいなかった。
それから、花を見るだけでも嫌悪を抱いた。
遊ばれたことに気がつかなかった自分を、一番嫌だと思った。
セフレだとか、元彼と友達だとか。
私には合わないようで、その後彼からの久しぶりに来た連絡も無視した。
いつか私は、もう一度。
花束を見て「きれい」だと思えるだろうか。
笑顔はこわい。
私は、
笑顔で、
さよならを言った。
嫉み嫉妬、絶望、畏怖、すべてを内包して。
「どこにも書けないこと」を、リフレーミングする。
「誰の目にも触れさせられない大切なこと」とも云える。
「誰の目にも触れさせられない大切なこと」を、更にリフレーミングする。
「絶対的な強い想い」と、とれる。
「絶対的な強い想い」とは、その人を成すパーソナルな感情。
「どこにも書けないこと」とは、それ自体が自分自身の核。
では題目の向こう側、そこのあなたの「どこにも書けないこと」から教えてほしい。
祖母の家は、午後3時なのにとても薄暗かった。
なぜか周りには誰もいない。
3時ちょうどの重々しい振子時計の音だけが、室内に響き渡る。
幼い私は、恐怖心とも違う、切なさに似た感傷を感じながら、光が差し込む南側のカーペットの上でうとうとしていた。
大袈裟な時計の針の音ともに目が覚める。
ふと顔を上げると、手拭いを頭に巻き、青いもんぺを履いた祖母がタンスの前に立っていた。
私は強い瞼の重みを感じ、またそっと眼を閉じ眠る。
私は微睡みの中で、会った事の無い祖母を「祖母」だと認識していた。
時計の針の音と共に、幼い私が初めて感じた感傷だった。