uni

Open App

「桜の木の下に埋めてくれ」
亡くなる数日前、弱々しい声で父はそう言った。

「墓地埋葬法に抵触するよ」
可愛げも無い答えの無い答えが、宙を舞った。

アルコール依存症だった祖父とは会った事がない。父が16歳の時に他界しており、全ての写真を焼いてしまうほど、父は嫌っていた。

父が8歳の時に、10歳だった姉は近所の変質者に殺され全国的なニュースとなった。それが起因したのかは、分からないが、祖父はまともに働く事がなかった為、とても苦労したと聞いている。

そんな父は、典型的なアダルトチルドレンだった。

社交的だが、短気ですぐに人間関係を切り、定職も数年毎に変え、母には暴言、時には暴力も振るった。
挙句に借金が積み重なり、離婚。市営住宅に移り住んだ。

ろくでもない父なのに。
一生懸命 不器用ながら家族を愛そうとはしていた。

私は、母がひとり住む実家を訪れ、年老いた桜の木の枝を折り、そっと父の棺の中に入れた。

2/12/2024, 2:55:03 AM