1日24時間、365日を毎日均等に過ごしているのに
1年経つのは早いなと毎年感じてしまう。
去年よりも成長できただろうか。
何か一つでも前に進めただろうか。
一つ、筆を取ってみよう。
拝啓、1年前の自分へ
楽しいこと、嬉しいこと、幸せなこと、この1年間で沢山ありました。
もちろんその分だけ悲しいこと、苦しいこと、辛いことも沢山経験しました。
だけど後悔してません。
あの日、その選択をしなければ今の自分はここに居ないのだから。
きっと大丈夫、全部乗り越えられる。
その先に今の未来が在るのだから。
#1年前
#未来
__そうして再び巡り会う為の長い旅が始まったのでした。
パタリと本を閉じる。
良い話だった……。つい先日図書室で久々に好みの本を見つけたと思ったら、内容も結末が気になってついつい読み進めたくなるような素敵な内容だった。
一つ疑問があるのは、この本が作者名も出版社も何も書かれていない不思議な本だと言う事くらいか。
本の表紙をさらりと撫ぜ、ぼんやりと窓の外を眺める。
もしかしたら私も大切な人に再び巡り会う為にこの星に生まれた、とかだったりして。
と、先程読んでいた本の物語を追想するように突拍子も無いことを考えてみる。
「なーに読んでたのっ!」
「うわぁ?!びっくりした!」
突然後ろから友人に抱きつかれ、ふわふわとした思考が現実に引き戻される。
「あれ、それこの間久々に見つけたーって言ってた不思議な本?読み終わったんだ?」
「そうそうたった今ちょうど読み終わってさ。…あ、そうだ!是非読んでみてよ。すっごく良い話だったんだから!」
「えぇー気にはなるけど、私が本読むの苦手なの知ってるでしょ?内容だけ教えてよ。」
「も〜こういうのは自分で読み進めるから良い物なのに。……仕方ないなぁ。」
そうして物語のあらすじを友人に話していると、ちょうど通りかかった先生に呼び出された。
「ごめん、ちょっと行ってくるね!後で続き話すから!」
「はーい、行ってらっしゃーい」
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……静かになった教室で、先程まで彼女が読んでいた本をそっと持ち上げる。
もしも、この物語が実話だって言ったら彼女は信じてくれるだろうか?
「………………ようやく、巡り会えたんだ。」
ポツリと呟かれた言葉は、誰に届くこと無く空に消えていった。
#好きな本
それはちょうど朝の日課を済ませた時だった。
“キュルル...ピィーッピィーッ!!”
と、不意にフクロウの鳴き声が部屋の中に飛び込んできたのである。
声の主へと目を向けると、幼馴染の相棒である小さなフクロウが何やらプレゼントを運んでやってきたところだった。
「やぁ、今日も元気いっぱいだね。いつもありがとう。」
プレゼントを受け取って頭をそっと撫でてやると
目を細めた小さな配達員は誇らしげにピィ!と鳴いて、主である彼女の元へとまた飛び立って行った。
...さて、中身は何だろうかとプレゼントを開く。
真っ先に目に飛び込んできたのは鮮やかなオレンジ色の花だった。
「!これは...」
僕はこれを知っている。なんせ自分も最近その種を買って、ひっそりと育てていたのだから。
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「どうして?今はまだ買えないって事?」
「僕達のスキルが足りない...のかな?」
「えぇ、魔法使い様の植物の育て方が今よりも更に上達されましたら販売致します。」
そう言って植物店のしもべ妖精に幼馴染と二人して門前払いされたのは少し前の出来事。
それからというもの、僕らは毎日色んな植物の育て方を研究し、沢山時間をかけて数え切れないほどの植物を実際に収穫してきた。
そうしてようやくこの間、僕はその花の種を買う事を認められたのである。
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箱の中からフラワーアレジメントをそっと取り出す。
一際大きいオレンジ色の“それ”はマグルの世界ではあまり見かけない色だったが魔法界では珍しく無いらしい。
まるで小さな太陽みたいだな、と思うと同時にふと元気いっぱいで明るい幼馴染の笑顔が思い浮かんだ。
『いつか、“あじさい”の花を送り合おうね。』
種が買えなかったあの日に交わした約束を覚えていてくれた事にじんわりと胸が暖かくなる。
もう少し近くで見ようと花瓶を持ち上げると間に挟んであったのであろうメッセージカードがひらりと落ちた。
“これからも夢と魔法の毎日を送れますように”
拾い上げたメッセージカードとフラワーアレジメントを見比べて自然と口角が上がるのを感じた。
なるほど、それならこの花瓶は一番よく見える場所に置こう。
そして返事は......もう決まってる。
少し浮き足立った気持ちを抑えるように僕はフラワーアレジメントを作るべく足早に植物店へと向かったのだった。
#あじさい HPMA side. S
あれやりたいな、これもやろうよ!って
君と一緒にこの先の未来の時間を考える事が
何より楽しくて、何より大切。
不思議だよね。
何からやりたい?なんて言って、本当は君と一緒ならなんだって楽しい事を自分は知っている。
#やりたいこと
スゥーー…ハァーー……
深呼吸をする。…大丈夫。
そう自分に言い聞かせてからドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開く。
これは僕が久々に実家に帰った時の話である。
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数週間前……
「もうすぐ夏休みだね!今年はどうするの?」
授業終わりにそう声をかけてきたのは同じ寮の幼馴染だ。
“幼馴染”と言っても“幼少期から一緒に育ってきた”という訳ではなく、思考や言動など何かと波長が合いに合いすぎていつしかお互い“幼馴染”と呼び合うようになった、気心知れた友人の一人である。
「夏休み?あぁ、もうそんな時期か…」
「去年は寮に残ってたでしょ?今年は実家に帰るの?」
「…どうしようかな。別に帰ってやりたい用事もないし…」
あまり実家に帰りたくない理由がある。
小さい頃から魔法という特別な力が使えた僕は、見世物にされたり噂の的にされることが少なくなかった。
ちなみに両親は魔法が使えない。今はもう亡き曾祖母が強い魔法使いだったと聞く。
何故かその血を濃く受け継いだのが僕で、自分の子が他とは違うという事実を受け入れたく無かったのだろう両親は、屋根裏部屋から極力出ないよう僕に言いつけた。
ひとりぼっちの屋根裏部屋は広く寂しく感じたが、当時は周りの人の奇怪なものを見るような視線が怖く、親にも迷惑をかけたくないからと、自ら閉じこもるように暮らしていた。
半年に一度は近況報告と言う名の手紙を送っているし、両親との仲は悪い訳では無かったが、ずっと親との心の壁を感じていた僕は実家に帰るよりも学校に居る方がずっと楽しくて、こちらに来てからまだ一度も実家には帰った事が無かった。
「………………」
「………えいっ!」
「イタッ!?」
無意識に考え込んでいた僕の眉間に彼女のデコピンがクリーンヒットする。
「…じゃあ手紙、送るね!」
「え、いや、まだ帰るって決めたわけじゃ……」
「返事書いてくれないの?」
「そ、…そういう訳じゃないけど……」
「ふふ、良かった。じゃあ楽しみにしてるから!」
そう言って半ば強制的に僕の帰省を決定させた彼女は、ほら次の授業に遅れるよ〜と僕を手招く。
もしかしたら、どうするべきか悩んでた僕の背中を彼女なりに押してくれたのかもしれない。
一緒に廊下を並んで歩きながら“…ありがと。”とお礼を言うと、ニッと笑った彼女は“なんもだよ。”と楽しそうに答えた。
さすが幼馴染。全部お見通しってね。
そうこうしてる内にあっという間に夏休みに入り、幼馴染や他の友人、寮の皆も次々と帰省していった。
しばらく経ってから皆より一足遅く学校を出た僕はぼんやりと列車に揺られ、次第に遠くなっていく学校を眺めながら不安な気持ちと共に帰路に着いた。
時は冒頭に戻る。
静かに玄関の扉を開いた僕はそっと中に足を踏み入れた。この家を出た時から何も変わっていない様子の我が家に少しばかり懐かしさを覚える。
両親は恐らく眠っているだろう。
当たり前だ。その為にこんな夜遅くに帰ってきたのだから。
両親を起こさないように屋根裏部屋を目指す。
キィ……と小さな音を立てて部屋に入ると、意外にも部屋は綺麗に掃除がされていた。
……あれ。この部屋こんなに狭かったっけ?
と首を傾げていると、
「あのねぇ、もうちょっと早めに帰ってくるなり声かけるなりしなさい。」
と突如後ろから声をかけられ、驚きで飛び上がった。
「か、母さん…!?」
「全く…ようやく帰って来たと思ったらこんな夜更けにそーっと忍び込んで。」
「ぁ、えっと、ごめんなさい…。」
「…………友達。」
「え?」
「そこの机の上の手紙。」
「あ、……」
母親が指し示した机の上を見ると優に十通を超える手紙が既に届いていた。恐らく幼馴染の彼女がほとんどだろう。
「その子達のおかげで今年は帰ってくるって分かったのよ。…………学校は楽しい?」
「………うん、楽しいよ。」
「…そう、それなら良いの。」
そう言って部屋を出ていこうとする母を呼び止める。
「あのさ、母さん、」
「何?」
「その、ほんと、ごめんなさい、えっと……」
今まで帰ってこなかったこと。夜中に帰って来たこと。部屋を掃除してくれていたこと。届いた手紙をちゃんと置いていてくれたこと。
何から話せばいいのか上手く言葉が出てこない僕をみて母はため息をつく。
「…帰ってきたなら、まず初めに言うことがあるでしょ?」
「へ、」
「……おかえり。父さんも帰りを待ってたんだから。」
そう言って母はうっすらと微笑んだ。
そこでようやく気がついた。
自分にもちゃんと帰ってくる場所があったのだと。
「………、ただいま!」
いつしか親との間にあった心の壁は消えていた。
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閑話休題。
「ところで母さん、屋根裏部屋ってあんなに狭かったっけ?」
「バカね、貴方が大きくなったんでしょう?」
「!………………来年もちゃんと帰ってくるよ」
#狭い部屋 HPMA