「ねぇ……あの、さ」
「ん?どした?」
「今は…ちょっとだけ離れて」
「なんで?」
「なんでも!」
「えー、いいじゃん」
そう言って彼女はぎゅうぎゅうとくっ付いてくる
良くない!非常に良くない!
私の心臓が、貴女への“好き”を伝えたい!って
ドクドクと叫んでるんだから!!
#伝えたい
僕の巣は、外の風がやさしく薄まって届く場所だ。
朝日のきらめき、昼の暖かな日差し、沈んでいく夕日、優しく光る三日月。
ここで過ごしていると時間の輪郭が曖昧になる。
ここにいると、急ぐ理由がひとつもなくなる。
アップライトピアノの前に座って、鍵盤に指を落とす。音は高くも低くもなく、ただ空気に溶けていく。弾いてはやめ、やめてはまた弾く。誰かが来る予定なんて、どこにもないから、曲は区切りを持たない。
ぬいぐるみはいつもの場所にいる。抱えれば、安心がすぐ形になる。
お気に入りの椅子に戻って本を開く。文字を追っているうちに、ページの隙間から眠気が零れて、僕はそのまま目を閉じた。夢の中でも、巣は変わらずに穏やかな空気のままだった。
目が覚めたら、小さなお風呂にお湯を張る。髪の先から足のつま先までしっかり温めて、湯気の向こうで外の音を想像する。
君は来るかな?来るかどうかは分からない。
でも、待つこと自体が、ここでは一つの過ごし方だ。
またピアノに戻る。今度は短いフレーズだけ。
飽きたらふかふかのベッドに横になり、天井から降り注ぐロウソクの光の粒を数えながら、静かに呼吸を整える。
ぬいぐるみ。椅子。小さなお風呂。ピアノ。ふかふかのベッド。
のんびり、ゆったりと時間が過ぎていく。
通路の向こうの玄関の気配に耳を澄ませながら、今日も巣は優しく僕を包んでいた。
お気に入りが詰まったこの場所で、来るかも分からない君を待ちながら。
#この場所で Sky side.S
……チリリン、と来客を知らせる鈴の音がなった。
にっこりと頬が緩むのを感じながら、僕は急いで玄関に向かうのだった。
知られるのが怖い
嫌われるのが怖い
傷つくのが怖い
弱い自分を見せるのが怖い
当たり前だ
信じていても裏切られることを知っている
素の自分で居れば居るほど深く傷つくことも知ってる
だからずっとそこに壁はあった
誰と接していようが何をしていようが
壁は変わらずそこにあった
なのに
いつからだろうか
そこにあったはずの壁が無くなっていたのは
いつからだろう
弱さを見せてもいいだなんて、思い始めたのは
不思議だね
きっと君は変わらず手を差し伸べてくれるのだろう
だったらもういっそ弱さも不安も全部
#あなたに届けたい
そう思ったんだよ
今日も優しくいられただろうか
今日も優しさを持てていただろうか
誰かに、自分に、優しく出来ただろうか
そう考えてしまうほど
少しずつ、少しずつ、何かが削れていくのが分かる
優しくありたい
#優しさ
目が覚めると、古びた小屋の中で倒れていた。
朽ちた木の匂い。薄暗い闇に揺らめくロウソクの光に意識がはっきりしていく。
ここは…どこだ…?
思い出そうとするが記憶は霞がかったように曖昧だった。
近くに落ちていたスマホが光っている。
拾い上げると画面にはこう書かれていた。
【お前は一週間この村から出ることが出来ない】
言い様のない不気味さを感じると同時にスマホはプツリと電源が落ちてしまった。
うんともすんとも言わない。
幸い身体が縛られている訳でも、見張りがいる訳でも無さそうだったのでひとまず小屋から出て外の様子を伺おうとそっと扉に手をかけた。
──────────────
───────
……そこは、深い緑に包まれた森の中の小さな集落だった。
いくつかの家がある。村人もちらほらいた。
だが村の出口は見当たらない。
少し警戒しながら散策していると、村の外れで洞窟を見つけた。
穴の中から風が吹き込んでくる。洞窟へと足を踏み出そうとしたその時。
「お兄さん、今日はそれ以上進んじゃダメだよ。」
突然、背後から女の子に声をかけられた。
驚いて振り返ると、そこには村の少女が居た。
「……ごめん、でも僕は帰らなきゃ行けないんだ。」
目の前には洞窟がある。
何となくこの先に行けば元の世界に帰れる気がした。
「ダメだよ、今日は新月じゃないから。」
すかさず少女は抗議してくる。
「新月?」
「そう。新月じゃないとここは通れない。月が出てる内は村人が見てる。皆、貴方を見てるよ。だから今は通れない。」
そうじっと見つめられて、思わず背筋がゾクリとした。
分かったよ、としぶしぶ言う通りに引き返すことにしたその瞬間、
ヒュッと風を切る音が聞こえ、目の前の少女の心臓を槍のような物が貫いていた。
スローモーションのように世界が流れていく。ゆっくりと倒れる少女に手を伸ばしギュッと目を閉じた。
体感約二秒間。
ハッと瞬きすると女の子はまだ目の前に立っていた。
何が起こったんだと脳が理解するよりも早く身体が反射的に動く。
そして少女の腕を掴むと一気にこちらへと引っ張った。
───次の瞬間、先程幻覚で少女を貫いていた槍が自らの胸に刺さる。
灼熱のような鋭い痛み。痛い、上手く息ができない。
呻きながら、無理矢理刺さった槍を引き抜こうとした。
が、何故か槍は既に胸から消えていた。
おかしい。慌てて刺さった箇所を確認するも血は流れていない。しかし確かな傷跡とジクジクする痛みがずっと残っていた。
(その後の記憶はもう残っていない)
〜暗転〜
洞窟を進む。
息を殺しながら影に溶けるように進み、村の境界を目指す。背中を冷たい汗が流れた。どうか見つかりませんように、見つかりませんようにと祈るように進んでいくと不意に大きな扉が目の前に現れた。
遠くの後方で叫び声が聞こえた。
村から抜け出した事がバレたのか。
もう振り返っている余裕は無い。
全力で扉を押していく。あと少し、もう少しで……
───────……
…気づくとそこには見覚えのある景色が広がっていた。
心臓が尋常じゃないスピードで鼓動している。
あぁ…現実に戻ってきたのか、とスマホを確認すると
あの日からきっちり一週間が過ぎていた。
#こんな夢を見た
夢日記No.1 山奥の村で軟禁生活