たまには杖じゃなくてこういうのも良いでしょ?と
二人で相合傘しながら歩いたデートの帰り道
傘を持つおねえさまの手に自分の手を添えてみる
少しひんやりした手
触れ合った肩から伝わる体温
おねえさまはふわりと微笑んでちょっと傘を傾けた
そして壊れ物を扱うかのように優しく重なった唇
ひんやりした外気に反して甘い熱がじんわりと伝う
雨音に閉じ込められた二人だけの秘め事
#傘の中の秘密 HPMA side.C
キィィィィーーーーン……
その時、強い耳鳴りがなった。
ズキズキと痛む頭を手で抑え、思わず呻き声を漏らす。
息が、苦しい。
気づけばまるで、過呼吸を起こしたような浅い呼吸を繰り返していた。
あれ、……?俺、今、何やって……
と、ぼんやり思考を動かそうとした途端、噎せ返る程の血の臭いが鼻腔を突き刺した。
目の前にはおびただしい量の赤、赤、赤───。
「……ッ、うっ、なんだこれ…………!?」
ふらりと後ずさる。気持ち悪い。気味が悪い。
この血の量……人ひとり死んでてもおかしくないな…と、どこか他人事の様な感想が浮かんで消える。
そこでふと違和感を感じた。
「…ん、…ひとり……?あれ?一人って何?俺一人で行動してたっけ……??」
本当に一人だったのだろうか…?確かに他の奴らとははぐれてしまったけど……、
いや違う、違う違う…!俺は確かに一人じゃなかった。じゃあ誰と?誰?誰だった?
上手く頭が回らず、自問自答を繰り返す。
目が覚めたら俺たちはこの異空間という名の廃校に飛ばされていた。
閉じ込められて、出られなくなって、化け物に追い回されて、皆バラバラになって…。
そうだ、一人じゃなかったはずなのに、思い出せない、何処に行ったんだよ、!!一体何処に…、
ぐるぐると記憶を巡らせ、はたと気づいた。
…いや、待て……人ひとり…死んだ、くらいの……血の量……?
「…なぁ、…………もしかして、“お前”……、俺の…」
血溜まりに目を向け、震える声を絞り出す。
“此処で死んだ人はね、その存在を消されるの。初めから誰の記憶にも存在しなかったように、何も残らない。”
あの女子生徒の幽霊が言っていた事が本当だとするならば。
「…俺の、目の前で……?」
必ず、守ると決めたのに。
皆で脱出しようって、確かにあの時約束したのに。
「〜〜〜〜ッう、あぁ、ぁ、ごめん、守れなくて、……
...ごめん……っ…」
ただひたすらに謝罪を繰り返す。
失った仲間が、誰なのかも分からないまま。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈
……××回目、理科室前にて××死亡……
そう書き残し、パタリと本を閉じる。
??「次は...次こそはきっと.........」
物語はまだ終わらない。
#まだ続く物語 とあるホラゲのワンシーン
名前…名前は…何がいいかな……?
うんうんと悩んで数時間。
目の前の“もふもふ”を見つめて、あぁでもないこうでもないと名前を考える。
「……ピィーゥ。」
「あぁ…分かってるよ、そんな呆れた声出さないでも……」
相棒であるメガネフクロウの名前。
今まではこの子だとか、もふもふだとか、うちのフクロウ、だとか……
その場しのぎで名前を呼ばずにいたけど、そろそろちゃんとした名前をつけてあげた方がいいんじゃないかと思い立ったのが数時間前。
「…ねぇ、君はなんて名前がいい?」
「………ピィ。」
直接尋ねてみるもジト目で見つめ返される。
茶色いから、安直に“ブラン”とか?
フクロウは森の賢者とも呼ばれてるから、“ウィズ”とか?
ラテン語で夜って意味の“ノクス”とかもかっこよくていいかもしれない。
あれやこれや考え始めるとキリが無く、どの名前も悪くは無いがこの相棒にはどれもしっくりこないものばかりだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
結局、うんうんと唸っていても良い名前は思いつきそうになかったので気晴らしに黒い湖の畔へと散歩に出かけた。
もちろんフクロウも一緒である。
一度鳥籠へ入れようとしたが彼は肩に乗っかってる方が良いらしく、離れようとしなかった為そのまま外へと出てきた。
例え彼がどこかへ飛んでいったとしても、きちんと帰って来る事が分かっているから僕も割と彼の好きにさせている。
穏やかな湖の水面をのんびり眺めながら、小さい頃も悩んだ時はよく近くの川を眺めに行ったな…と思い出していた。
まだ魔法界を知らなかった頃、魔法という名の“不思議な力”を使う僕は周りから恐れられたり奇怪な対象として見られたり、除け者にされる事が日常茶飯事だった。
そんな時は川辺に行ってさらさらと流れていく水の流れを見ているだけで、自分のちっぽけな悩みなど、どうでも良く感じれたのだった。
…そういや、あの川の名前はなんだっけ、確か…
そこでふと思い浮かんだ………“テムズ”。
隣を振り返り、相棒であるフクロウを見つめる。
彼も僕をじっと見つめてくる。
「……君の名前は、“テムズ”。」
口に出すと、すっと馴染む様な気がした。
目を見てそう呼びかけると、彼はゆっくり瞬きをしてから大きく羽を広げ答えてくれた。
「これからもよろしくね、テムズ。」
「ピィーッ!」
#君の名前を呼んだ日 HPMA side.S
「……ふぅ、こんなものかな。」
コポコポと音を立てる鍋の火を慎重に調節しながら一息ついた。
調合レシピと睨めっこして約二週間。
ようやく薬の完成にこぎつけたのだった。
─────────────
────────……
「え?フェリックス・フェリシスじゃなくて?」
「そう、その人の無意識的な願いを一つ叶えてくれるっていう魔法薬があるんだって!」
事の発端は数日前、授業の合間の休み時間に幼馴染が“不思議な魔法薬”の話知ってる?と教えてくれたところから始まった。
「無意識的な願いって、例えば意識せずにあれこれしたいなーってふと思った事が叶うって感じ?」
「ん〜実際に飲んだ事ないから分かんないけど、そんな感じかも?」
「なるほど…叶いますようにって思っててもそれは意識的な願いだから叶わなくて、ふとした願い事は叶えてくれるってことか…。」
まだまだこの魔法界には知らない事が沢山ある。
この世界に足を踏み入れてからは毎日が新しい事の発見で、魔法の知識を学ぶというのはとても楽しい事だった。
話している内に、段々とその薬にも興味が湧いてくる。
ふと隣を見やると、少し期待した眼差しを向けてくる幼馴染の姿が。
あ、何となく言いたいこと分かったかも知れない。
「それで…その薬の調合方法って知ってるの?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!」
そう言うと彼女はフクロウのポーチをゴソゴソと漁り、調合レシピが書かれた一枚の羊皮紙を僕に渡してきた。
「ん?なんかこれ…所々少し焦げてない?」
「いやぁ〜……私もせっかくならと思って薬の調合試して見たんだけどね?」
曰く、何日か煮込まないといけないところで通りかかったニーズルに鍋をひっくり返されてしまったらしい。
意気消沈。幼馴染の手はニーズルに引っかかれた後があった。
「うわぁ……それは大変だったね…。分かった、僕も作ってみるよ。」
「うん、上手く出来たら教えてね!」
そうして願いが1つ叶うという“不思議な魔法薬”作りに取りかかる事となった。
──────────────
───────……
これは…なかなか良い出来なんじゃないだろうか?
完成した魔法薬をいくつかの小瓶に入れ、光にかざすと銀色にキラキラと反射していた。
ひとまず無事に完成した事を幼馴染に伝えようと手紙を書く。
そして相棒であるメガネフクロウのテムズを呼び、手紙を渡そうとして気づいた。
完成はしたものの…これ、実際に飲んで効力も試してみないと上手く出来てるかどうか分からないな……。
正直、願いが叶うという効力はずっと気になっていた。
小瓶を一つ手に取り、一気に飲み干す。
少し舌がピリピリしたが、香りはほのかに甘く、とりあえず変な味がしなかった事に安堵した。
「ピィーッ!ピィ、キュルル…」
「ん?どうしたの、大丈夫だよ。」
テムズが心配そうに肩に乗ってきたのでよしよしと柔らかいお腹を撫でてやる。
「ふふ、お前の羽はふわふわだなぁ。」
魔法薬を調合する際、火加減の調節がかなり難しく何日かほとんど徹夜で作業していた為、フクロウを撫でていると急に眠気がやってきた。
「…ふぁぁ…ちょっとだけ、休もうかな……。」
欠伸をしていると、もう撫でてくれないのか?とテムズが顔を覗き込んでくる。
羽がもふもふと顔にあたって少しくすぐったい。
……もしも、テムズがもっと大きかったらふわふわもふもふに包まれて最高かもしれないな…。
寝不足の頭でぼんやりとそんな事を考える。
…すると直後、フクロウの乗っていた肩がズシリと重くなった。
急な重さに耐えられずバランスを崩して倒れ込む……が、何故か倒れた衝撃は無く、代わりに柔らかいものに包まれる感覚があった。
「ホーッ、ホーッ!」
「なっ……て、テムズ……?!」
そこには自分より一回りも二回りも大きくなったフクロウが居た。
一体どうして……と考えるよりも早くテムズが
大きな羽で自分を包み込んでくる。
ふわふわもふもふで暖かい。驚きでどこかへ飛んでいた眠気が急速に戻ってくるのを感じた。
あぁ、まさに最高の状況じゃないか。
「ホホーッ」
心なしかテムズも嬉しそうだ。
…まぁいいか、少しだけこのままで……と睡魔に身を委ね、そのままそっと目を閉じた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その後一日程度で魔法薬の効力は切れ、フクロウのサイズは元に戻った。
薬がバッチリと効力を示す事が分かった幼馴染と僕は、もう一度なんとかもふもふパラダイス(?)を築こうとしたが、無意識に願った事しか叶わない魔法薬がその願いを叶えてくれる事はもう無かったのだった。
#そっと包み込んで HPMA side.S
ぼんやり眺めていた小さな雲も
打ち上がった大きな花火も
誰かがふかした煙草の煙も
空に架かった綺麗な虹も
生まれたばかりのシャボン玉も
ご機嫌な幼子の鼻歌も
手放してしまった風船も
救いようのない退屈な時間も
全部、全部、空に溶けていく
会いたくなって君の名前を呼んでみた
等しく空に溶けて消えた
#空に溶ける