欠けても、ヒビが入っても、柄が薄れても
ずっと大事にしてたんだけど
貴方はそうじゃなかったみたい
お揃いだったそれは片方を失って
まるで私達の心みたいね
#マグカップ
笑うと弾む明るい音
泣くと沈むくぐもった音
怒ると重めの低い音
流れるような穏やかな音
快活な音、吠える音、小さな音、掠れた音
今日はどんなメロディーを奏でてくれるのだろうか
ワクワクしながらそっと息を吹き込んだ
うん、とっても楽しそうな跳ねる音!
これは自分だけの音である
#君だけのメロディー
たまには杖じゃなくてこういうのも良いでしょ?と
二人で相合傘しながら歩いたデートの帰り道
傘を持つおねえさまの手に自分の手を添えてみる
少しひんやりした手
触れ合った肩から伝わる体温
おねえさまはふわりと微笑んでちょっと傘を傾けた
そして壊れ物を扱うかのように優しく重なった唇
ひんやりした外気に反して甘い熱がじんわりと伝う
雨音に閉じ込められた二人だけの秘め事
#傘の中の秘密 HPMA side.C
キィィィィーーーーン……
その時、強い耳鳴りがなった。
ズキズキと痛む頭を手で抑え、思わず呻き声を漏らす。
息が、苦しい。
気づけばまるで、過呼吸を起こしたような浅い呼吸を繰り返していた。
あれ、……?俺、今、何やって……
と、ぼんやり思考を動かそうとした途端、噎せ返る程の血の臭いが鼻腔を突き刺した。
目の前にはおびただしい量の赤、赤、赤───。
「……ッ、うっ、なんだこれ…………!?」
ふらりと後ずさる。気持ち悪い。気味が悪い。
この血の量……人ひとり死んでてもおかしくないな…と、どこか他人事の様な感想が浮かんで消える。
そこでふと違和感を感じた。
「…ん、…ひとり……?あれ?一人って何?俺一人で行動してたっけ……??」
本当に一人だったのだろうか…?確かに他の奴らとははぐれてしまったけど……、
いや違う、違う違う…!俺は確かに一人じゃなかった。じゃあ誰と?誰?誰だった?
上手く頭が回らず、自問自答を繰り返す。
目が覚めたら俺たちはこの異空間という名の廃校に飛ばされていた。
閉じ込められて、出られなくなって、化け物に追い回されて、皆バラバラになって…。
そうだ、一人じゃなかったはずなのに、思い出せない、何処に行ったんだよ、!!一体何処に…、
ぐるぐると記憶を巡らせ、はたと気づいた。
…いや、待て……人ひとり…死んだ、くらいの……血の量……?
「…なぁ、…………もしかして、“お前”……、俺の…」
血溜まりに目を向け、震える声を絞り出す。
“此処で死んだ人はね、その存在を消されるの。初めから誰の記憶にも存在しなかったように、何も残らない。”
あの女子生徒の幽霊が言っていた事が本当だとするならば。
「…俺の、目の前で……?」
必ず、守ると決めたのに。
皆で脱出しようって、確かにあの時約束したのに。
「〜〜〜〜ッう、あぁ、ぁ、ごめん、守れなくて、……
...ごめん……っ…」
ただひたすらに謝罪を繰り返す。
失った仲間が、誰なのかも分からないまま。
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┈┈┈┈┈┈
……××回目、理科室前にて××死亡……
そう書き残し、パタリと本を閉じる。
??「次は...次こそはきっと.........」
物語はまだ終わらない。
#まだ続く物語 とあるホラゲのワンシーン
名前…名前は…何がいいかな……?
うんうんと悩んで数時間。
目の前の“もふもふ”を見つめて、あぁでもないこうでもないと名前を考える。
「……ピィーゥ。」
「あぁ…分かってるよ、そんな呆れた声出さないでも……」
相棒であるメガネフクロウの名前。
今まではこの子だとか、もふもふだとか、うちのフクロウ、だとか……
その場しのぎで名前を呼ばずにいたけど、そろそろちゃんとした名前をつけてあげた方がいいんじゃないかと思い立ったのが数時間前。
「…ねぇ、君はなんて名前がいい?」
「………ピィ。」
直接尋ねてみるもジト目で見つめ返される。
茶色いから、安直に“ブラン”とか?
フクロウは森の賢者とも呼ばれてるから、“ウィズ”とか?
ラテン語で夜って意味の“ノクス”とかもかっこよくていいかもしれない。
あれやこれや考え始めるとキリが無く、どの名前も悪くは無いがこの相棒にはどれもしっくりこないものばかりだった。
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結局、うんうんと唸っていても良い名前は思いつきそうになかったので気晴らしに黒い湖の畔へと散歩に出かけた。
もちろんフクロウも一緒である。
一度鳥籠へ入れようとしたが彼は肩に乗っかってる方が良いらしく、離れようとしなかった為そのまま外へと出てきた。
例え彼がどこかへ飛んでいったとしても、きちんと帰って来る事が分かっているから僕も割と彼の好きにさせている。
穏やかな湖の水面をのんびり眺めながら、小さい頃も悩んだ時はよく近くの川を眺めに行ったな…と思い出していた。
まだ魔法界を知らなかった頃、魔法という名の“不思議な力”を使う僕は周りから恐れられたり奇怪な対象として見られたり、除け者にされる事が日常茶飯事だった。
そんな時は川辺に行ってさらさらと流れていく水の流れを見ているだけで、自分のちっぽけな悩みなど、どうでも良く感じれたのだった。
…そういや、あの川の名前はなんだっけ、確か…
そこでふと思い浮かんだ………“テムズ”。
隣を振り返り、相棒であるフクロウを見つめる。
彼も僕をじっと見つめてくる。
「……君の名前は、“テムズ”。」
口に出すと、すっと馴染む様な気がした。
目を見てそう呼びかけると、彼はゆっくり瞬きをしてから大きく羽を広げ答えてくれた。
「これからもよろしくね、テムズ。」
「ピィーッ!」
#君の名前を呼んだ日 HPMA side.S