No.43:『bye bye…』
「卒業式終わっても、感動とかしないタイプなんだよね」
ユウは卒業証書が入った筒を外階段の手すりにがんがんぶつけた。
そうだろうな、とは思った。
学校をサボり続けたユウの嗅覚は伊達じゃない。ギリギリの単位を狙って授業に出なかった奴は、他にも何人かいたのだと言い当てた。
「みんなハルんとこ来て、暇つぶししてた子ばっかじゃん」
「あいつらなー。この前よく振ったコーラ貰って、泡まみれになったわ」
仏頂面だったユウが途端に笑い出す。
別に泣かなかったことが悪いとは思わない。
てか、何が正解とかないんじゃね?
俺は刷毛をペンキに浸して、壁の絵の仕上げにとりかかった。
「この黒猫って何を見上げてんの?人?空?」
ユウが黒猫の目線を追って、隣のビルの窓を凝視する。
俺の落書きをちゃんと見てんのは、コイツだけだ。
この絵が完成したら、ユウも俺も街を出る。
他人になるんだ。お互いに。
No.42:『君と見た景色』
雑居ビルの裏口を素通りして、ハルんとこに行った。
猫の足跡を踏まないように。
結構苦労した。ペンキまだ乾いてないっぽいし。
外階段の踊り場で、ハルは真剣な顔つきになっていた。
刷毛を握りしめたまま、微動だにしない。
「進んでんの?」
「んー?まあ、休み休みやってる」
ハルの手がける騙し絵みたいな落書きは、仲間内ではウケがいい。大人からはよく思われてない。
あたしは壁の絵を眺めて、鼻を鳴らす。
大きな黒猫が爪を研いでる。ハルの頭から引っ張り出したイメージ。そこには、ルールなんてない。
「猫の目が…しゅっとしてこないんだよ」
ハルはぼんやり呟いて、目を閉じた。自分のイメージと格闘しているみたいだ。刷毛の先からインクが落ちる。
今日はもう引き上げた方がいい。
最近この辺見回り増えてるし。
「また明日来ればいいじゃん。ハル、帰ろ」
あたしはハルの手を引いた。けどハルは、完成途中の絵の前でじっと目を瞑ったままだった。
No.41:『手を繋いで』
手を繋いで逃げようとした。死んだ街に降り注ぐ光は夕日だけだった。
手を離して生きるしかなかった。僕は君とはぐれて、ひとり。
手を伸ばして追いかける。面影を失うビルの森の中で、うなだれる子犬の声。
手を合わせて願いごと。明日の雨を凌げますように。
手を叩いて送り出す。蝋でできた桜は、いつまでも狂い咲き。
だからもう一度、手を繋いで 君の手をしっかり握って はじまりに戻ろう。
No.40:『どこ?』
「えっとねー今地球と宇宙の間。あ、ほら…側に流…星が見え……だけどー…」
「え、待って、何?電波悪くない?」
「なんかさあ、オゾン層がちょっと薄くて穴が開いてる部分?わかる?あそこの近く」
「逆逆ー、そっち南極じゃん。うちらが行くの北極」
「まじかー。じゃあすぐ移動するわ」
No.39:『大好き』
尻尾がついて 犬好き
線引きを意識する 人好き
一線超えた関係だから 夫好き