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3/17/2025, 4:33:30 PM

No.38:『叶わぬ夢』

叶う方が珍しいじゃん?

それでも あたしは アリスになりたかったよ

3/16/2025, 8:03:06 PM

No.37:『花の香りと共に』

 地元の大学に合格した。うちの高校半数以上が進学する定番コースで、俺も先生にのせられたくちだ。
偏差値。安全圏。判定。
今思えば、本気じゃなかった。
大人の顔色だけを頼りに、なんとなくこの辺でいいか…と自分の未来を選んでいた。
この先、スティックでカウントを取ることも、ドラムセットの前に座ることもないだろう。
半年以上穴が開くと、どうでもよくなった。

 コンノは、俺のそんな態度を見透かしていたのかもしれない。
地元に残ると告げたら、彼女は携帯用の櫛で髪を梳かす手を止めて、怪訝そうな顔で俺を睨んだ。

「ハザクラ先輩って夢追いかけるタイプだと思ってた」

夢を追う。聞こえはいいけど、一歩間違えば明日どうなってるかわからない暮らしだ。
返事に困って、コンノの髪をわしゃわしゃ撫でた。
彼女は眉を顰めたままだった。

 進学は夢から逃げる手段でしかない。
校庭の桜を見下ろし、ひとりで机の中を整理する。
コンノは今日、俺の元には寄らずに帰ったんだろう。
高校生活の終わりに彼女に振られる形になるっつーのも、まあ悲しい。
でも、仕方ないよな。
コンノにはコンノの考えがあるんだろうし。
俺があいつの前髪を乱した時に、ふわっと香ってたの、何の匂いだったかな。
確か薄いピンクっぽいヘアコロン使ってたはずだけど…。

桜の細い枝が春風に煽られて、大きくしなる。
桜にも香りがあるんだって俺は今ようやく気がついた。
東京に行くのが正解かはわからない。でも、俺なりに桜を見つけ出そう。

3/15/2025, 5:19:39 PM

No.36:『ざわめく心』


ハザクラ先輩、東京行くって。
昨日の放課後に聞こえてきた噂が、あたしの心を打ち砕いた。

先輩はこの間まで、地元に残ると言っていた。
たまにあたしと遊んでもいいと約束してくれた。
でも……東京は夜行バスじゃなきゃ無理。

「コンノも来年は同じ境遇だからなー、頼むぞ」
無理して笑ってた姿が蘇ってくる。
あの日、先輩がわしゃわしゃした前髪に櫛をいれて、めちゃくちゃ梳かす。
真っ直ぐに整えて、頑張って分け目をきれいにして、だけど先輩そんなことには目もくれない。

いいや。もう。櫛をポケットに入れて、あたしは女子トイレを出た。
先輩の気持ちが変わることを責めたりはしない。
あたしがいちいち流されずに、笑って受け止めてればとりあえずは平和だし。
ハザクラ先輩は東京へ、あたしは三年の教室へ移動して、その生活に染まりきって忘れちゃえば、もっと平和。

ざわめく心を失くして、あたしたちは穏やかな毎日を過ごせばいい。
短くしたスカートに、窓の隙間から入り込んだ春風が容赦なく吹きつける。寒いから早く帰ろ。
先輩の教室に顔を出さなければ、歩いて10分で駅に着くでしょ。

3/14/2025, 7:43:41 PM

No.35:『君を探して -舞踏会の靴跡-』

十二時の鐘に急かされて どこへ行くんだ?外へ出るのは危ない

闇夜に臥す ガラスの靴を捕まえるも 君はとっくに消えていた

さようならも言わず 馬車に飛び乗った人を目にしてから 眠れない

この靴を手がかりにしてまた会えるのか…と 思いわずらい日が昇る

3/13/2025, 10:16:05 AM

No.34:『透明 -舞踏会の靴跡-』

透明すぎる靴を脱いで あなたの前からいなくなろうと決めた

真夜中に姿をみせたネズミとトカゲと 裸足で急ぐ帰り道

朝靄にかすむお城で あなたの瞼は 眠りにつくのでしょう

さようなら ワルツを踊り明かした夢が ちゃちなかまどで燃え尽きる

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