-ざわめく心
ハザクラ先輩、東京行くって。
昨日の放課後に聞こえてきた噂が、あたしの心を打ち砕いた。
先輩はこの間まで、地元に残ると言っていた。
たまにあたしと遊んでもいいと約束してくれた。
でも……東京は夜行バスじゃなきゃ無理。
「コンノも来年は同じ境遇だからなー、頼むぞ」
無理して笑ってた姿が蘇ってくる。
あの日、先輩がわしゃわしゃした前髪に櫛をいれて、めちゃくちゃ梳かす。
真っ直ぐに整えて、頑張って分け目をきれいにして、だけど先輩そんなことには目もくれない。
いいや。もう。櫛をポケットに入れて、あたしは女子トイレを出た。
先輩の気持ちが変わることを責めたりはしない。
あたしがいちいち流されずに、笑って受け止めてればとりあえずは平和だし。
ハザクラ先輩は東京へ、あたしは三年の教室へ移動して、その生活に染まりきって忘れちゃえば、もっと平和。
ざわめく心を失くして、あたしたちは穏やかな毎日を過ごせばいい。
短くしたスカートに、窓の隙間から入り込んだ春風が容赦なく吹きつける。寒いから早く帰ろ。
先輩の教室に顔を出さなければ、歩いて10分で駅に着くでしょ。
3/15/2025, 5:19:39 PM