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2/25/2025, 12:37:59 PM

no.19:さぁ冒険だ


「タンクトップとジーンズ。それからスタジャンにペンシルスカート」
チカは僕のノートをすぐさまメモ代わりにした。ラフなタッチの絵なのに、何が描いてあるか一発でわかる。チカにも充分魔法使いというカテゴリに入ると思う。

「月世界に行く時、どちらが映えるかな?あ、光もののビジューパーツがついた服はやめた方がいいんだっけ?」

他人のためだけでなく、時々は自分のために魔法を使う。チカはそうやって何度も危ない場面を切り抜けてきたのだろう。
異様に迷子になりたがるのも、次々に新たな冒険を提案するのも…チカの防衛術のひとつなのかもしれない。

2/24/2025, 10:02:32 PM

no.18:『一輪の花』

綿毛 クローバー 子兎

生まれたばかりのいのちで

いっぱいの野原を 眺める

坂の下の チューリップ

鉢植えにひとり座って

腰は 日に日に曲がりだす


昼ののんきな日差しにさえ

たどり着けない日曜日

ハラハラ 花びら散っていた

2/23/2025, 2:20:43 PM

no.17:魔法


チカは階段を下り続けた。地下道の暗闇はまだ見えない。

「魔法をかけるためには才能が必要。でも、魔法にかかる才能もあると思う」

チカは手摺の上に手を置いても決して触れようとはしない。コーヒーを無理やり流し込む時のぶっきらぼうな態度で、パンプスの爪先を地下道に向けている。
それは天邪鬼というより、ささやかな抵抗に近いと感じた。

「サトルみたいに両方持ってる人は希少価値が高いってこと、いい加減気づいたら。自分の才能認めて腹を括ってみなよ」

チコはそれきり黙って、黙々と階段を降りていった。
僕もチコの3歩後を歩くだけだ。
コーヒーブレイクと同じ原理で、僕には突っかかってくるけれど、チカなりに気を遣ってはいる。照れ臭さをごまかしたくて、今も口を噤むしかないのだ。

チカの心が少し顔を覗かせた。でも、その相手が何故僕なのか……どうしてもはっきりしない。

2/22/2025, 11:17:16 AM

no.16:『君と見た虹』

七色絹地の帯締めて
朱塗りの雪下駄 黒くして
路面電車の窓際に
立っていらした 娘さん

外国生まれの傘を持ち
さっととりだす手巾には
金糸の刺繍 薔薇の園

電車の外は雪景色
急ブレーキで
よろめく 娘さん
飢えたひとびと眺めては
床の羽目板 数えるように
まつ毛を伏せた 宵の如月

君想へばこそ 我忘るべからず


……祖父の日記はこの頁で終わっていました。後の頁はすべて破り捨てられています。いまやその内容を知る者は誰もいません。

2/21/2025, 1:51:53 PM

no.15:『夜空を駆ける』

とめどなく 降り注ぐ
きれいすぎる言葉

ふらりと 突き動かされるほど
ヤワじゃないんだ 僕らはね


ひとり立ちした冥王星
追いかけてどこまでも走っていけると信じていた
この間までのふたり


はらはら 落ちる涙を 拭いもせずに
行けるところまでは 全速力で
立ち止まっても 振り返らずに

朝の光を 迎えに行こうか

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