虹のはじまりを探して
虹はどこから発生しているのだろうか。その根を見るには、どうすればいいだろうか。
例えば、足の速い仲間ならば。捕まえることは出来るだろうか。……問えば、彼は否という。
人より疾く駆ける獣ならば、その眼に写すことが適うだろうか。……仲間の相棒である雪豹は、不思議そうに首を傾げるだけだった。
空を飛ぶことができれば、見ることは適うかだろうか?
…………それならばいっそ、己の手で虹を創り、その根をつぶさに観察するが早いかもしれない。なんて。
オアシス
道行はどこまでもどこまでも、砂だらけ。日差しはかんかん照りで陰一つありゃしない。
だから、それは、干からびかけた頭をよぎったほんの出来心だった。
ちょっとしたオアシス代わりにでもなればいい、なんて。
「なぁ、学者先生。氷結魔法撃ってみてくれよ」
学者先生は訝しげにしながらも、俺の言葉に応じて呪文を紡いだ。
辺りに冷たい風が流れる。宙に生まれた氷の結晶に吹き付き、みるみる内に大きくなっていく。
そして、重くなった氷塊が砂の上に落ちると、ぱりぱりと霜が降りるような音と共に一面が凍っていくーー。
涙の跡
朝一番、窓ガラス越しのツレに、涙の跡を見つけてしまい、俺は大いに動揺した。今は一周回って冷静だ。
……嘘だ。
足元にあった薪を蹴飛ばしてしまい、派手な音を立てて転がった。世辞にも盗賊の風上にも置けない。だがいまはそれどころじゃない。
息は詰まり、動悸ばかりが激しく胸を叩く。
「いったい、どうしーー」
「やぁ、徹夜明けの朝日は目に染みるね……」
そう言って、ツレは隈をこさえた目元を拭った。
「……………寝ろ」
俺はそう声を絞り出すことしかできなかった。
半袖
「あなたたち、その格好暑くない?」
太陽燦々。他の仲間たちがみな各々袖を折り、手や帽子で仰いで風を作る中、肌を晒さないふたりの仲間に、踊子が二人に問いかける。ーー彼女は半袖通り越して隠れている肌の方が少ない、これ以上脱ぐことが難しい繊細な服だーー。
「……別に」
踊子の問いに、盗賊は素っ気なく言った。上半身のシルエットを隠すポンチョは見るからに暑苦しい。
「ふぅん?」
踊子の視線はもう一人の、ぞろりとした黒のローブ、白いシャツとこれまた通気性などまるでなさそうな服の学者の方へ。
困ったように微笑むばかりのその頬に伝う汗ひとつぶ。
もしも過去へと行けるなら
「多くはおそらくこう答えるだろう。『あの過ちを、悲劇を、回避する』。しかし、『過ち』をなかったことにすれば、その時の教訓や感情をも知らなかったことになるだろう。それは、どんなにつらくとも悲しくとも、根本的な解決とはいえない。我々は今を生きるしかないのだから」
珍しく真面目くさって教師らしい言を述べる黒髪の男の目の前には、男自身が勢い余って凍らせてしまった吊り橋があった。
そんな男を半目で睨みつけ、白髪の男は言う。
「ご高説どーも。……で? どうやって向こう側に渡るつもりだ?」