もしも過去へと行けるなら
「多くはおそらくこう答えるだろう。『あの過ちを、悲劇を、回避する』。しかし、『過ち』をなかったことにすれば、その時の教訓や感情をも知らなかったことになるだろう。それは、どんなにつらくとも悲しくとも、根本的な解決とはいえない。我々は今を生きるしかないのだから」
珍しく真面目くさって教師らしい言を述べる黒髪の男の目の前には、男自身が勢い余って凍らせてしまった吊り橋があった。
そんな男を半目で睨みつけ、白髪の男は言う。
「ご高説どーも。……で? どうやって向こう側に渡るつもりだ?」
True Love
地面に転がった真っ赤な林檎を拾い上げる。
滴る赤い雫を舌で掬ってみた。口の中に塩からさと鉄くささが広がって、息が詰まる。
真実の愛だろうが、憎悪の復讐だろうが、もはや届く相手の居なくなった想いにいったい何の意味があるというのだろうか。
またいつか
「着いたぞ、あんたの故郷だ」
「長いようで短い旅だったような気がするよ」
学者の月並みな言葉に盗賊は肩をすくめた。
「キミはまたあてのない旅を?」
「まぁな。顔見知りがいるんじゃ仕事もしづらいんでね」
「次はどこへ向かうのか、決めているのかい?」
盗賊はひらひらと手を振った。
「さてな。当ててみせろよ」
「ふむ、我々は北から南下してきた。そのまま更に海沿いを進むか……または来た道を戻るのか。北東へ向かうということもあるか」
「選択肢を並べただけじゃないか」
「そう、だね」
学者は言葉に詰まってしまった。何か言わなければ。そうでなければ「またいつか」そんな朧げな別れの言葉を紡ぐしかないのだから。
降りくる矢が二人の間を裂く。同時に魔物の怒号が辺りに響いた。
別方向へと身を翻し、視線が交えた――刹那。
僅かな時だが十分だった。
それだけで、互いの考えることは手に取るようにわかるのだから。
『上は頼んだよ』
『さっさと足場を作れ』
目元に浮かぶ微笑みはただの強がりなどではなく信頼の証だ。