「きれいだね」
なんて君がつぶやいたらから、隣にいた自分は、そうだね、と頷いた。それは反射に等しい。
だって、そうだろう。君がそういうならそれはきれいなものなんだ。
やや強くなってきた陽射しの中をひらひらと舞いながら遠ざかっていく小さなそれに、ちらりと視線を向けたが直視はできずに、隣の肩先を見つめる。
陽を受けた白いシャツがあまりにも眩しく見えて、そこからも視線を外してしまった。
彷徨わせた視線は、結局、自分の上履きの先で止まってしまう。
嫌いなものも、好きなものも、似ているのかも知れない。
どちらにしたって、見つめ続けることなんて、できやしない。
「行こっか」
「ん」
歩き出した背中はやはり眩しくて、逸らした視線を向けた陽は、さらに目を焼いた気がした。
『モンシロチョウ』
真っ先に思い浮かんだのは、あなた。
過去をどれほど探ってみたところで、こんなに心を持っていかれて占めてしまう存在は他にいるはずもない。
唯一であり続けるんだろう。
未来という、まだ見ぬ世界でどんなものに出逢って心動かされたとしても、きっとこの想いを超えることはない。
すでに巡り逢ってしまったあなたは、私の魂ごとすくい上げて、守ってくれた。
過ぎた時の中から決して出てくることは叶わないけれど、一緒に過ごした年月は確かにそこにあって、そこへ手を伸ばせばいつだってまた私の中で出逢えるのだ。
それは、糧だ。
どこまでも弱い私をいまだに守り支えてくれている。
一目見た瞬間に止まらなくなった涙が運命だと教えてくれた日を、忘れる日は来ない。
大好きだよ。いつまでも。
『忘れられない、いつまでも。』
いつ来るかわからなかったそのときを、迎えてしまったあの瞬間。そこまでに続く日々。
変化の兆しを見逃し続けたのは、無意識だったか、故意だったか。
ただ、ただ、怖かった。
急速に細く軽くなっていく身体を抱きかかえ、昼も夜もぐちゃぐちゃになった意識の中、何度も名前を口にする。
包んだ毛布ごと抱きしめて庭の木々の葉へ鼻先を近づける。乾いたそれは以前のように動くことはなく、ただ虚空を漂う視線は、もう、私を認識してくれない。
こんな日がくるなんて、想像もしていなかった。いや、したくなかった。ありえない。
あなたがいない日々が始まるなんてありえない。それは、すべての終わりの日だ。
まだ、何も返せていない。あなたにもらった救いを、恵まれた日々を、心あたたかく安らげた時間を、その感謝を伝えきれていない。
もっと先の未来まで続くと思っていた時間は、二度と重なることはない。
あなたを亡くしてからの日々は、長く辛く、空虚だ。
きっとこれから先も、この虚が埋まることない。
埋める必要もない。
あなただけのために、開けたままにしておきたいんだ。
そうすることでしか、これから先のあなたとの時間を重ねることはできないと知っているから。
『一年前』
ぼんやりとした、霞がかったような曖昧な記憶。
それの境目はどこにあったのか。
いまとなっては思い出せる気もしない。
けれど、確かにそれはあって、通過してしまったいくつかの記憶にも経験にも重ならない、判然としないもののはずなのに、自分の中に残っているのだ。
きっとこれからも残り続ける。淡く、拙く、想いを馳せれば、鼻の奥が、つん、と鳴いてしまうような、懐かしさを引き連れて。
自覚よりもっと以前に、落ちていた。
いつの間にか、始まっていた。
きっと、そんなものなのだ。
『初恋の日』
散々悩んだんだ。
何を求めているのか、何が必要なのか。大切なことは何だったのか。
他の選択肢もあった。それでも君を選んだんだ。
10年以上になるだろう空白の時間を止め、新たな一歩を踏み出すためのキーになる。それが君なんだ。
手酷く失い枯渇したものはもう探さない。絶望に呑まれ髪の先まで浸る時間は、終わった。
これからの未来をともに進む力を、その術を分け与えてくれる君とともに、私はまた、今日から始める。
きゅうぅ、と高鳴る切なさに似た感情を生み出し解き放つために、相棒となって欲しい。
初めまして、iPad Air 6。2026年初夏、お互い2度目の産声を上げよう。
『君と出逢って、』