目の前に、モヤモヤした生物がいた。
悪魔? それとも妖怪?
事の発端は、古書店で見つけた怪しげな古書だった。
たどたどしく文字を調べながら声に出して読み上げたら、このモヤモヤがいつのまにか目の前にいたという訳だ。
モヤモヤは僕の心に語りかけた。
(きみは何を望む?)
僕は......僕は、ためらいながら、好きな子への想いを叶えたいと答えた。
(契約成立だ)
モヤモヤは僕の両目をえぐり出した。
僕は失明した。白杖にすがる日々が始まった。
そして僕の思い人は、いつしか僕の介護士になっていたんだ。
今の僕は、目は見えないけれど、幸せだ。
【見えない未来へ】
大きくなったら、何になりたい?
「ねこ!」
ねこになるのが夢だった。
だって殴られないし、撫でて貰えるし。
何より、愛されたかったし。
進路相談は、最初は中学受験の時。
親にこう言えと言われた通りに面接で言って、理由に詰まった。まさか親が怖くて、とは親の前だし言えなかった。
中高一貫校に進み、大学受験期が到来した。
わたしは夢のために専門学校に行きたかった。
自分で幾つか選んで、学校見学もした。
でも親はわたしの夢を全て揉み潰した。
四大卒しか認めない、有名校へ行けと言われた。
お前より世間体が大事だとはっきり言われた。
わたしは夢を、自分の人生を諦めた。
親の言いなりに生きるしかなかった。
心を冷たい風が吹き抜けた。
【吹き抜ける風】
記憶なんて、燃えて周囲を明るく照らす光になれば良い。僕にはイラナイ。
僕は日記を一枚ずつ破いては、ランタンの火で燃やしていた。炭がたまっていくので、刷毛で払いながら。
このランタンは古道具屋で買った。
アルコールランプをシェードで覆った感じのものだ。
僕の日記が燃えていく。過去なんて、イラナイ。
そう思って日記を焼いていたはずだった。
ふと我に返ると、自分が何をしていたのか、わからない。手にはもう白紙のページしか残されていないノート、反対側の手には刷毛。古めかしいランタンが明るく燃えていて、煤がいっぱい周囲に積まれている。
そう、僕は自分の記憶を焼いてしまったんだ。
今の僕には、自分が誰かすら分からない。
【記憶のランタン】
鳥が空を飛ぶ。
群れをなして飛ぶ。
そして旋回して、川に降りたつ。
ここは湖みたいに浅瀬が広がった川の一部。
白鳥が大勢やってきた。
鴨や水鳥と共に、餌をねだる。
餌をあげられる時間は決まっている。
お金を払って、餌を買って、許可された時間を待つ。
白鳥は口を開けて待っている。
そこには威厳も美もない。生存競争が待っている。
そんな光景が、季節の移ろいを教えてくれる。
ほら、今年も、鳥の群れが空に。
【冬へ】
僕は知っている。
君が昔から読書が好きだったことを。
家族が寝静まった夜、そっと起き出して、天窓から覗く月の光で本を読み続けたことを。
そのせいで夜目は効くようになったけれど、目を悪くしたこともね。
何故知っているのかって?
だって僕は、君を照らしていた月だからだよ。
君が本の世界に没頭して、現実を忘れたいと思っていたことも、君の家の事情も、全部知っているんだ。
時々は夜空を見上げて、僕のことを思い出して欲しいな。大人になった君は俯いて、地面ばかり見ているからね。
【君を照らす月】