彼女は僕の同期だった。
木漏れ日のさすベンチに座って、二人で話が弾んだ夏。公園は人がまばらで、たまに犬が飼い主と歩き去るくらい。
こんな暑い夏に、昼間から出かける人は少ないか。
ペットボトルの水を飲みながら、会話は続く。
彼女の楽しそうな笑顔に、話が止まらない。
そして日が傾きかけた頃、彼女は僕を見て笑った。
「ねえ、キミ、まだらに日焼けしてるよ」
帽子を被り、日焼け止めを塗った彼女は白いままだ。
怠った僕は木漏れ日の模様を肌にはりつけていた。
消えるまで数日笑われた思い出。
【木漏れ日の跡】
わたしは守れなかった。
本当にささやかな約束を。
友人づきあいが禁じられていたのは小学生ちょい前くらいからか。勿論、つきあいの悪さを理由にしてイジメにも遭った。
そんな中でこっそり仲良くなった友達。
小二でお母様を亡くした彼女に、手製のお菓子などを学校に持ち込んで密かに振る舞ったりしていた。
その友達に、卒業式にはスカート姿が見たいと言われて、約束した。わたしの服は養母が用意していて、全部ズボンだったから。
卒業式の日、わたしは熱を出して、欠席した。
高校の時、偶然駅で再会し、あの時の約束忘れてないからね、と言われた。お陰で、数年越しに、わたしは約束を守ることが出来たのだった。
【ささやかな約束】
どうかどうか、神様がいたら、叶えてください。
父がお酒を飲んで怒鳴らない夜をください。
お兄ちゃんが殴られない夜をください。
何時間も何時間も、地獄が続くのを止めてください。
小学生のわたしは毎日日記に記録しながら祈っていた。
今日もお兄ちゃんは殴られた。
今日も。
今日も......。
祈りはおまじないにカタチを変えた。
小さい子向けのおまじないブックを睨んだ。
でもおまじないは効かない。
母は父を止めない。
わたしはお兄ちゃんを助けられない。
祈りの果てに、諦めることを覚えた、小学生の頃。
【祈りの果て】
わたしに反抗期はなかった。
今は天国にいる父の支配下で、恐怖に怯えながら生きてきた。
だから心が迷うことはなかった。
だって、わたしの趣味も、希望も、夢も、進路も、全部全部、父が決めるんだから。
わたしは言いなりになって、良い成績をとって、顔色を窺って生きてきた。
「それ、おかしいよ」
大学時代の級友が教えてくれた。
「あなたの人生はあなたのものだよ。支配される言われはないよ」
わたしは初めて迷った。結果、家出をした。
父から大学だけは出てくれと言われて学費と仕送りは貰えた(バイトは許されなかった)。
一人で暮らして、レタスすら買い方を知らない自分にようやく気づけたのだ。
【心の迷路】
僕のお気に入りのティーカップは、とても素敵な、例えるとアール・ヌーヴォーな感じの柄で、そこそこ良いものらしい。勿論ソーサーとセットだ。更に、カップに合うデザインの金色のスプーンまでついている。
お祝いごとの引き出物で頂いたので、一人暮らしなのに二脚あるけどね。
あるけれど、訪ねてくる人のあてが無くて、一脚は棚の奥にしまいっぱなしだ。
その封印を解く時が来るとは思っていなかった。
まさか僕に、パートナーが出来るなんて。
使い込んだ僕のカップを、重曹で洗う彼女。こうすると茶渋が落ちるのよ、と、新品のようにピカピカにしてくれる。
その後二人で頂いた紅茶はとても美味しかった。
彼女の焼いてくれたクッキーもサクサクで、紅茶も良い香りで、僕は胸いっぱいに幸せを噛み締めていた。
【ティーカップ】