記憶なんて、燃えて周囲を明るく照らす光になれば良い。僕にはイラナイ。
僕は日記を一枚ずつ破いては、ランタンの火で燃やしていた。炭がたまっていくので、刷毛で払いながら。
このランタンは古道具屋で買った。
アルコールランプをシェードで覆った感じのものだ。
僕の日記が燃えていく。過去なんて、イラナイ。
そう思って日記を焼いていたはずだった。
ふと我に返ると、自分が何をしていたのか、わからない。手にはもう白紙のページしか残されていないノート、反対側の手には刷毛。古めかしいランタンが明るく燃えていて、煤がいっぱい周囲に積まれている。
そう、僕は自分の記憶を焼いてしまったんだ。
今の僕には、自分が誰かすら分からない。
【記憶のランタン】
鳥が空を飛ぶ。
群れをなして飛ぶ。
そして旋回して、川に降りたつ。
ここは湖みたいに浅瀬が広がった川の一部。
白鳥が大勢やってきた。
鴨や水鳥と共に、餌をねだる。
餌をあげられる時間は決まっている。
お金を払って、餌を買って、許可された時間を待つ。
白鳥は口を開けて待っている。
そこには威厳も美もない。生存競争が待っている。
そんな光景が、季節の移ろいを教えてくれる。
ほら、今年も、鳥の群れが空に。
【冬へ】
僕は知っている。
君が昔から読書が好きだったことを。
家族が寝静まった夜、そっと起き出して、天窓から覗く月の光で本を読み続けたことを。
そのせいで夜目は効くようになったけれど、目を悪くしたこともね。
何故知っているのかって?
だって僕は、君を照らしていた月だからだよ。
君が本の世界に没頭して、現実を忘れたいと思っていたことも、君の家の事情も、全部知っているんだ。
時々は夜空を見上げて、僕のことを思い出して欲しいな。大人になった君は俯いて、地面ばかり見ているからね。
【君を照らす月】
彼女は僕の同期だった。
木漏れ日のさすベンチに座って、二人で話が弾んだ夏。公園は人がまばらで、たまに犬が飼い主と歩き去るくらい。
こんな暑い夏に、昼間から出かける人は少ないか。
ペットボトルの水を飲みながら、会話は続く。
彼女の楽しそうな笑顔に、話が止まらない。
そして日が傾きかけた頃、彼女は僕を見て笑った。
「ねえ、キミ、まだらに日焼けしてるよ」
帽子を被り、日焼け止めを塗った彼女は白いままだ。
怠った僕は木漏れ日の模様を肌にはりつけていた。
消えるまで数日笑われた思い出。
【木漏れ日の跡】
わたしは守れなかった。
本当にささやかな約束を。
友人づきあいが禁じられていたのは小学生ちょい前くらいからか。勿論、つきあいの悪さを理由にしてイジメにも遭った。
そんな中でこっそり仲良くなった友達。
小二でお母様を亡くした彼女に、手製のお菓子などを学校に持ち込んで密かに振る舞ったりしていた。
その友達に、卒業式にはスカート姿が見たいと言われて、約束した。わたしの服は養母が用意していて、全部ズボンだったから。
卒業式の日、わたしは熱を出して、欠席した。
高校の時、偶然駅で再会し、あの時の約束忘れてないからね、と言われた。お陰で、数年越しに、わたしは約束を守ることが出来たのだった。
【ささやかな約束】