誇らしさ(2023.8.16)
「誇りをもつ」という表現は、時折、標語などの目標に対する態度に用いられたりするが、じゃあ一体どんな意味なのか、と問われた時、どう答えれば的確なのだろうか。なかなか言語化の難しい概念であるように思われる。
手頃な辞書で「誇り」という言葉を引いてみると、「誇ること、自らそれを名誉とする感情」と出た。それでは「名誉」とは、と調べてみると、「人の才能や努力の結果などに関する輝かしい評価、その光栄、ほまれ」だそうだ。つまりは、「誇り」とは「自分への評価」なのである。それが相対評価なのか、絶対評価なのかは各人によりけりであろうが、どちらにしても何らかのリスクを孕んでいるように思われる。
相対評価ならば、おそらくその「誇り」は周囲の人々に比べて自身の能力の程度が高い、という自負なのであろう。だが、下には下がいるのと同じように、上には上がいる。ある日彗星の如く現れた麒麟児に鼻っ柱をポッキリとやられて、そのまま立ち直れない…なんてこともあるかもしれない。
逆に、絶対評価ならばどうだろうか。他の何者の手出しも受けない強い精神。それを持った上での「誇り」はさぞかし美しく素晴らしいもののように思える。しかし、だ。誰の忠告も受け入れない独りよがりの「誇り」は、時に他人を傷つけてしまうことがある。何者にも揺るがされないことは、常に好ましいとは限らないのだ。
つまりは、泰然自若にして臨機応変。この一見相反する態度を持ち合わせたものだけが、誇らしさを感じることが初めて許されるのではないかと、私は思うのである。
夜の海(2023.8.15)
夜の海を眺める
黒く、静かに、さざめく波
白く、冷たく、浮かぶ月
足を踏み出せば、波の上を歩いて、手が届きそうだ
そう思ったわたしを、私はあの海に置いてきてしまったのだろうか
自転車に乗って(2023.8.14)
「あぁ〜あっっつぅ〜…」
騒がしい蝉の声に耳鳴りを感じながら、自転車置き場までのろのろと歩く。全く、どうして土曜日なのにわざわざ学校に来て、面倒くさい模試なんぞを受けなければならないのか。
こういう、気分がくさくさしているときは、何か気晴らしが必要だ。それも、とびきり爽快な。
「…よし」
置いてあった自転車に素早くキーを差して、荷物を適当に前カゴに放り込むと、力強くペダルを漕ぎ出した。
あっという間に遠ざかる校門、見慣れた景色、山、田畑、鉄塔…。
歩いている時は突き刺すように感じた強い太陽の光も、風を切って進む自転車に乗っていれば全く気にならない。誰も周りにいないのをいいことに、大声で歌い出したい気分だ。
少し息を切らせながら、緩やかな傾斜を上る。頂上について、ブレーキを握って一息ついてから、眼下の光景を眺めると、まぁなんとも長閑な田舎町である。
きっと、自分が生まれた頃から大して変わっていないであろう、そして、この先もきっとそう変わらないであろう風景。普段ならその刺激のなさに嘆息するところだが、ちょうど今のような、何か悩みごとがあるとき、不安なことがあるときにここにくると、その泰然とした様子に安心させられるのだ。
再びペダルを踏み込む。帰りは少し急な坂道だ。ブレーキをきかせるなんて日和ったことはしない。時折小石に乗り上げてひやっとするが、それもまた一興だ。ただただ、体全体を風が流れるのを感じた。
こういう青春もいいもんだよな、なんて、かっこつけて終わらさせてほしい。
君の奏でる音楽(2023.8.12)
パタ…パタ…
騒がしい雑踏の中でも、なぜかその足音が耳に届く。少しくたびれたスニーカーで、小さな歩幅で歩くその音。
カリ…カリ…
たくさんの人が静かに勉強する自習室。やっぱり君のシャーペンの音は、なんだか耳に残ってしまう。
ふふ…あはは…
廊下の少し遠くからでも、君の笑い声はわかってしまう。けして大きな声ではなく、どちらかというと忍び笑いのような、密やかな微笑み。
「君の音ならすぐにわかるよ」って言ったとき、きっと君はピアノか何かの話かと思っただろう。けれど、僕の世界は、こんなにも君が奏でる音楽に満ちていて、こんなにも素晴らしいんだってことを、きっと君は知らない。
心の健康(2023.8.13)
『元気ないときは、なんか美味しいもんでも食べとき!それで大体、体も心も元気になるから!!』
いつだったか、母さんが言っていた言葉が頭をよぎった。
でもさ、母さん。心が疲れちゃうと、美味しいものを美味しいって感じられなくなっちゃうんだ。なんにも、感じられなくなっちゃうんだ。
あぁ、最後にもう一度、母さんの肉じゃが食べたかったなぁ。
麦わら帽子(2023.8.11)
僕は、麦わら帽子が嫌いだ。
被った時にチクチクするし、なんだか田舎っぽくてダサい。
それに、麦わら帽子を見ると、君のことを思い出してしまうから。
麦わら帽子の下で、向日葵みたいな笑顔を弾けさせて、そして、そのまま…波間に消えた君。
夏も、入道雲も、向日葵も、麦わら帽子も…もう会えない君を思い出させるもの、すべてが、愛おしくて、憎らしい。