うどん巫女

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7/24/2023, 8:04:06 AM

花咲いて(2023.7.23)

記憶の中のあの子は、いつも校舎裏の花壇にいた。
「ねぇ、何してるの?」
初めはただ遠くから見つめるだけだったけれど、ある日、ふと声をかけてみた。すると、今まで作業に夢中になっていたのか、顔を上げたその子は、はっと目を丸くさせていた。
「……花の世話」
長いこと話していなかったような、か細い声だった。
「ふーん…何の花?」
私は花というよりその子自身に興味があったけれど、そんな素振りを見せないように話を続けた。
「…咲いたら、わかる。多分、来年の夏には、きっと咲いてる」
「へぇ…」
結局何の花なのかわからなくて残念な気持ちと、思っていたよりも長くかかるんだなという驚きから声が出た。
それきり私が何も言わないので、彼女はそろそろと作業に戻って、つとめて私の方を見ないようにしているようだった。私も、その後しばらくしてその場を去った。

次の年の7月、あの子が死んだ。自殺だったらしい。
私はあの子に近しいわけではなく、たまに花壇で見かける程度の関係性だったから、人伝にそのことを知った。去年から、クラスで孤立して、いじめを受けていたらしい。まぁ、よくある話か…。
もう花壇であの子を見ることはないんだな、と思うと寂しくなって、ふと、あの子の言葉を思い出した。ちょうど、今頃に、あの子が育てていた花が咲く頃じゃないだろうか。
私は校舎裏の花壇へと急いだ。
花壇に近づくにつれて、ふぅわりと、花の香りが漂っていた。白い、白い百合の花だった。
そのとき、あの子はきっと、全てわかっていたんだなと悟った。
風の中で、白百合が寂しげに、けれど頷くように、ゆらりと揺れた。

7/23/2023, 3:22:53 AM

もしもタイムマシンがあったなら(2023.7.22)

期末テスト最終日の最後、英語の試験が終わり、教室には安堵のような解放感ような、少し浮ついた空気が流れている。
「あー!やっとテスト終わったぁ!」
「いや、今回の英語マジむずかったわ…英作文の1問目、解けた?もう時間なくて飛ばしたんだけど」
「あー、あれだろ?『問一、「もしもタイムマシンがあったなら」というテーマで、50語以上の英文を書きなさい』みたいな」
「問題文暗記してるのきしょいわー…多分仮定法使って書くんだろうな、って思ったけど、普通に書く時間なかったわ」
「えー、あれさ、普通に日本語で書くなら何て書く?」
「うーん…とりあえず、テストの記憶もったままテスト初日に戻って満点取りに行くわ」
「え、天才か?」
「いやでも、過去を変えると今の自分が存在しなくなる、みたいな話、SFであるしなぁ…タイムパラドックスだっけ?ま、過去の自分あってこその今の自分だしなぁ」
「うわ、哲学じゃん。深いわぁ」
「いや、浅いだろ。そう言うお前はタイムマシンがあったら何する?」
「ふっふっふ…俺も天才かもしれん。『タイムマシンがあったら』なんて問題が出されるのは、まだタイムマシンが存在していない時代だけ!つまり!タイムマシンが普通に存在している時代に行けばいい!」
「いや、自分がタイムマシンに乗れる時点で、タイムマシン普及してるだろ」
「あっ…なんてこった。タイムマシンなんて何の役にも立たないじゃないか!」
「少なくとも、タイムマシンは馬鹿に与えるには過ぎた代物ってことだな」
「馬鹿じゃねえし!!」
とある時代の、他愛もない会話。

7/22/2023, 1:06:37 AM

今一番欲しいもの(2023.7.21)

●12がつ5にち(どようび)
ほしいもの:あたらしいじてんしゃ
きょうから、ほしいものにっきをかく。おかあさんが、「ほしいものとか、もくひょうをかいておくといいよ」っていって、このノートをくれた。このノートにかいておけば、クリスマスにサンタさんもまちがえないでしょって。ぼくはあたらしいかっこいいじてんしゃがほしいです。サンタさん、おねがいします。

●5月12日(水ようび)
ほしいもの:ゲームき
もうすぐ、ぼくのたん生日がくる。お父さんは、ゲームばっかりしてたらだめだって言うけど、クラスのみんなもってるのに、ぼくだけもってなかったらあそべなくてかなしい。お父さん、買ってくれるかな。

●10月20日(金曜日)
なりたいもの:飛行きのパイロット
今日は、学校で「しょう来なりたいもの」について考えるじゅ業があった。ぼくは飛行きが大好きだから、大きくなったらパイロットになりたい。大人になってからこのノートをみかえして、ゆめがかなってたらいいなと思う。

●7月10日(水)
欲しいもの:優しい母親
今日返ってきたテストはさんざんだった。数学は赤点ギリギリだし、英語なんて平均よりめちゃくちゃ低かった。怒った母さんは鬼みたいだった。これでも部活と両立して勉強してたんだけど。まぁ、俺の頭が良くないのは今更なんだから、もっと優しくしてくれてもいいのにな。

●1月1日(月)
欲しいもの:内定
今時高卒なんてなかなか雇ってもらえないのはわかってるけど、そろそろ10社目で心が折れそう。頼むからどこか一つでも受かっててくれ…。

●5月17日(金)
欲しい物:有給
休みたい。帰れない。今日も明日も出勤して残業。

●6月4日(月)
欲しい物:ロープ、睡眠薬
ネットで調べたら、これだけあれば十分らしい。案外お手軽なんだな。

●6月5日(火)
欲しかった物:幸せ
さよなら。

7/21/2023, 8:13:17 AM

私の名前(2023.7.20)

私の名前は、私を何より象徴するものだけれど、私が名付けたものではない。きっと、多くの人は、親なりなんなり、自分ではない人に名付けられるだろう。
多くの親は、名付ける時、「こんな子に育ってほしい」と考えながら、名前を選ぶそうだ。それは、ある意味一番初めの親の「愛」であり、子供の運命をがんじがらめにしようとする、一番初めの「呪い」である。
まぁ、名前なんてひとつの記号でしかないわけだから、大して気にせず生きていこうという、若造の主張である。

7/20/2023, 7:49:38 AM

視線の先には(2023.7.19)

最近、幼馴染のカオルの様子が、なんだかヘンだ。
いや、別に普段から完璧な優等生というわけでは全くないし、怪我とか病気とかそういう類ではないと思うけれど、何か後ろめたそうな態度をとるのだ。
「ねぇ、カオル、聞いてる?」
「…お、おう。なんだよ?」
今だってそうだ。いつもだったら馬鹿みたいに元気そうなくせして、今はなんとなく気まずげな様子だから、余計気になる。私がじっと見つめると、必ずふいっと視線を逸らすのだ。これは、何か隠しているに違いない。
ふと、カオルの逸らした視線の先を見てみると、合点がいった。クラス一の美少女、花山さんだ。なるほど、カオルは私に意中の女の子を知られたくなかったというわけか。
納得がいった私は、生暖かい笑みを浮かべて、
「ま、頑張れよっ!」
と言って、カオルの背中を軽くたたいた。
カオルはなんだか困惑したような顔をして、大きくため息をついたけれど、そんなに知られたくなかったなら、もっと隠す努力をするべきだ。なにせ、幼馴染様には全てお見通しなのだから。

*****

最近、幼馴染のサキの様子がなんだかおかしい。
いや、別にアイツは昔からそそっかしいやつだし、そんなところもかわい…いや、そんなことはどうでもいいのだが、なぜだかときどき俺の方を見ると、にんまりと笑ってサムズアップするようになったのだ。全く意味がわからない。こっちは、そんな笑顔を真正面から見てしまって胸の高鳴りを抑えるのに四苦八苦しているというのに。
全く、幼馴染様は理解不能だ。

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