うどん巫女

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花咲いて(2023.7.23)

記憶の中のあの子は、いつも校舎裏の花壇にいた。
「ねぇ、何してるの?」
初めはただ遠くから見つめるだけだったけれど、ある日、ふと声をかけてみた。すると、今まで作業に夢中になっていたのか、顔を上げたその子は、はっと目を丸くさせていた。
「……花の世話」
長いこと話していなかったような、か細い声だった。
「ふーん…何の花?」
私は花というよりその子自身に興味があったけれど、そんな素振りを見せないように話を続けた。
「…咲いたら、わかる。多分、来年の夏には、きっと咲いてる」
「へぇ…」
結局何の花なのかわからなくて残念な気持ちと、思っていたよりも長くかかるんだなという驚きから声が出た。
それきり私が何も言わないので、彼女はそろそろと作業に戻って、つとめて私の方を見ないようにしているようだった。私も、その後しばらくしてその場を去った。

次の年の7月、あの子が死んだ。自殺だったらしい。
私はあの子に近しいわけではなく、たまに花壇で見かける程度の関係性だったから、人伝にそのことを知った。去年から、クラスで孤立して、いじめを受けていたらしい。まぁ、よくある話か…。
もう花壇であの子を見ることはないんだな、と思うと寂しくなって、ふと、あの子の言葉を思い出した。ちょうど、今頃に、あの子が育てていた花が咲く頃じゃないだろうか。
私は校舎裏の花壇へと急いだ。
花壇に近づくにつれて、ふぅわりと、花の香りが漂っていた。白い、白い百合の花だった。
そのとき、あの子はきっと、全てわかっていたんだなと悟った。
風の中で、白百合が寂しげに、けれど頷くように、ゆらりと揺れた。

7/24/2023, 8:04:06 AM