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11/17/2024, 11:26:55 AM

 前略

冬になったら銀化粧に沈んでみようと思います。

あなたの温度を知れる気がして。
あなたの影を見れる気がして。
あなたの後を追える気がして。

その時はどうか、私の手を離さないでくれると嬉しいです。
道に迷うといけませんから。
あなたの隣に居れなくては、意味がありませんから。

 草々

冬になったらこうやって僕は意を決するが、
その度に星が煌めいて、月が明るく夜を照らす。

こんな静かな夜が醒めたとき、
僕なんかのせいで静寂を崩すわけにはいかないと、
言い訳を見つけては部屋でひとり眠りにつく。

ああこうやって、
冬になったら僕はあなたを恋しく思う。
春よりも夏よりも秋よりも、
冬になったら僕はあなたに会いたいと思う。

その度にまだ会えないことをつくづく実感して、
生きてることを実感して、
そこに愛を感じて、
そこに哀を感じて、
悲しくも悲しくも、あなたの笑顔が浮かぶのです。
銀化粧の空の下で一等美しく微笑む愛おしいあなたが。

11/1/2024, 2:03:44 PM

天使は悪魔に恋をした。
悪魔も天使に恋をした。

天使は悪魔になって悪魔を探した。
けれどどうだろう、
同じ場所まで辿り着いたのに探していた悪魔は見つからない。

悪魔は天使になって天使を探した。
けれどどうだろう、
同じ場所まで辿り着いたのに探していた天使は見つからない。

そして、
天使になった悪魔は、
悪魔になった天使は、
互いの存在に恋をする。

永遠に交わることのない2人の心は、
満たされないまま循環するように巡り巡って、
互いの存在に恋をする。

2人の群像劇を不憫に思った神様は、
永遠の存在を消してしまった。

それ以降、
天使が悪魔に恋をすることはなくなったし、
悪魔が天使に恋をすることもなくなった。

でもこれはきっと永遠ではない。
いつかまた、同じことが繰り返される。
だって神様は永遠の存在を消してしまったのだから。

どこか遠くで、
矛盾している、と誰かが嘆いた気がした。

11/1/2024, 4:41:05 AM

雲の橋を渡って、
金色の鯉が泳ぐ泉を越える。

仰げば白桃色と白群の混ざり合った空。
見下ろせば白桃色と白群の混ざり合った地。
境界線がない。

「ここはどこ?」

誰も答えてくはくれない。
けれど気付けばそこには看板が一つ。

「理想郷」

看板に向かって話しかける。
「君は生きてるの?」
看板の貼り紙が貼り変わる。
「望まれれば生きる」
「じゃあ生きて」

看板は看板ではなくなり、されど人間とは言い難い、
見知らぬ生命体へと姿を変える。

「君に望まれたから僕は生命体になったよ」
「ああ、嬉しいよ。こんな幻想的な場所、1人で過ごすには寂しすぎる」
「ここは理想郷。君が望む世界に形を変える。君がこの世界の創始者になるんだ」
「随分な大役だ」
「そうかな」
「そうだよ」
「創始者になった君は何を望むの?」

「そうだねまずは空と地に境目をつけよう」

創始者となった彼は、空と地を分けた。
太陽を月を星を吊り下げ、川を泉を海を水を流した。
創始者が描いた生命体は形を様々に変え、
あらゆる個体として理想郷での役割を得た。

「随分と賑やかになったね」
「ああ。あとは彼らが勝手に賑やかにしてくれるさ」
「これが君の望んだ理想郷?」
「ああ。初めてここに訪れた時、ひどく寂しさを覚えたよ。ここで生きる全ての生命にそんな思いはさせたくない」
「随分と創始者みたいになったね」
「僕が、この世界の創始者だからね」
「そっか」

創始者に望まれて生命体へと変化した元看板は、
何故か悲しそうに笑った。

目を瞑って、もう一度開く。
その一瞬で創始者の造った世界は消えた。
創始者すらも消えて、全てが無になった。
元看板にとってそれは特別なことでも何でもない。


元看板は看板へと姿を戻す。
「また上手くいかなかったなぁ、僕の理想郷」


10/28/2024, 4:47:12 AM

お湯を沸かす。
熱された水は大きな泡をぶくぶくと鳴かせる。
火を止めてポットにお湯を入れ、
それから茶葉を取り出して、ポットに落とす。

茶葉が踊る。
午後の静寂を奏でるように、
静かに、曲線を描いて、くるくると踊る。
透明なお湯に色が着く。
赤のような、茶のような、橙のような、
茶葉がくるくると踊りあって混ざり合った色。

静かになった舞台をくるりとひと回しすれば、
再び茶葉は踊り出す。
透明な場所はどこにも無くなって、
溢れた色は香りとなって踊り続ける。

目を瞑って呼吸をする。
鼻をくすぐる紅茶の香り。

あなた方の踊りに、
わたしの心も踊るのです。



10/27/2024, 7:41:53 AM

木漏れ日が暖かいこのカフェは、
人と人とが巡り合う場所。
そんな巡り合いを見届ける事ができる
このカウンターの内側を私は気に入っている。

木が軋む音と鈴の音。お客様のご来店だ。

「いらっしゃいませ」

1人のスタッフが制服を着た女子高生らしき2人組を案内した。
その間に私はお冷とカトラリー、
それから飲食店らしからぬ紙とペンを用意して席へと向かう。

「失礼します。こちらに紙とペンを置かせて頂きますね。ご記入頂きましたらスタッフにお声がけください」

女子高生らしき2人組は愛らしい表情で返事をくれた。
この2人も恋をしているんだな、と思った。

このカフェは何故か恋愛成就で有名だ。
始まりは、スタッフのしまい忘れた紙とペンを、
席に常備されたものと勘違いしたお客様が、
その紙とペンで愛を綴り相手に渡したところ、見事恋が実った、なんて出来事だった。

噂はたちまち街へ広がり、いつからか恋愛成就カフェなんて異名がついていた。

「すみません」
「お伺いします」

声をかけられ席へ向かう。女子高生らしき2人組の席だ。

「記入できました」
「ふふ、ありがとうございます。店内の結び木に結ばれますか?それともお持ち帰りされますか?」

恋愛成就カフェに乗り気オーナーは店内に結び木まで用意したのだ。愉快なオーナーだ。

2人は「どうしよっか」「どうしようね」なんて少しのアイコンタクトをとったあとで、持ち帰ることを選択した。

「かしこまりました。そうしましたらここからお好きな封筒をお選びください」
「はーい」

恋をしている2人の女子高生が愛らしくていつもより笑みが溢れてしまう。
1人は淡いピンクの封筒を、もう1人は静かな水色の封筒を選んでいた。

ケーキと紅茶をお供に2人は小声で興奮気味に会話を続けていた。耳を澄ませて見たけれど内容が聞き取れなかったのが残念だ。

日が沈む前に2人はお会計を済ませた。

「お忘れ物はございませんか?」
「はい!ケーキ美味しかったです」

手には封筒がきちんと握られている。
私は扉を開けて2人を見送った。

2人の恋もどうか実りますように。

「ありがとうございました。
カフェあいことば、またのご来店をお待ちしております」

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