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雲の橋を渡って、
金色の鯉が泳ぐ泉を越える。

仰げば白桃色と白群の混ざり合った空。
見下ろせば白桃色と白群の混ざり合った地。
境界線がない。

「ここはどこ?」

誰も答えてくはくれない。
けれど気付けばそこには看板が一つ。

「理想郷」

看板に向かって話しかける。
「君は生きてるの?」
看板の貼り紙が貼り変わる。
「望まれれば生きる」
「じゃあ生きて」

看板は看板ではなくなり、されど人間とは言い難い、
見知らぬ生命体へと姿を変える。

「君に望まれたから僕は生命体になったよ」
「ああ、嬉しいよ。こんな幻想的な場所、1人で過ごすには寂しすぎる」
「ここは理想郷。君が望む世界に形を変える。君がこの世界の創始者になるんだ」
「随分な大役だ」
「そうかな」
「そうだよ」
「創始者になった君は何を望むの?」

「そうだねまずは空と地に境目をつけよう」

創始者となった彼は、空と地を分けた。
太陽を月を星を吊り下げ、川を泉を海を水を流した。
創始者が描いた生命体は形を様々に変え、
あらゆる個体として理想郷での役割を得た。

「随分と賑やかになったね」
「ああ。あとは彼らが勝手に賑やかにしてくれるさ」
「これが君の望んだ理想郷?」
「ああ。初めてここに訪れた時、ひどく寂しさを覚えたよ。ここで生きる全ての生命にそんな思いはさせたくない」
「随分と創始者みたいになったね」
「僕が、この世界の創始者だからね」
「そっか」

創始者に望まれて生命体へと変化した元看板は、
何故か悲しそうに笑った。

目を瞑って、もう一度開く。
その一瞬で創始者の造った世界は消えた。
創始者すらも消えて、全てが無になった。
元看板にとってそれは特別なことでも何でもない。


元看板は看板へと姿を戻す。
「また上手くいかなかったなぁ、僕の理想郷」


11/1/2024, 4:41:05 AM