パリの18区にひっそりと佇む美術館は、時が止まったかのような静けさだ。ギシギシと音を立てる古びた床は、歴史を語るように足音をたてる。
そこに展示されているスペイン画家ゴーシュルレの名画「幻の女」は、どの角度から眺めても、決して目が合うことがない。
その絵の魅力は、見る者に朧げな影を思い起こさせるところにある。
ゴーシュルレは、ある女性と目が合ったとたん、運命的に一目惚れをしたと言われている。しかし、その情熱は叶わぬ恋として彼をさいなみ続けた。
絵画の中の女性の微笑みには、ゴーシュルレの苦悩が宿っている。
彼女との距離は決して縮めることは出来ずに永遠の美しさと共にその恋を封じ込めた。
誰もがその絵に触れれば、胸の奥で哀しみの詩を聴くことになる。
「幻の女」は、恋の痛みとその美しさを語りかけるのだ。
「すれ違う瞳」
☆ゴーシュルレという画家は、創作であり実在しません
見渡せば、青空が無限に広がり、海の果てまでが溶け込んでいく。北極と南極では、白クマたちがペンギンたちと共に、メレンゲのような雲を浮遊させて、楽しげにキャッチボールをしている。ここは、いつもより遥か遠い、夢の世界だ。
そんな中で、僕は彼らの姿を思い描いていた。アビーと、永遠の鳥のことを。
アビーは古文書を丁寧に紐解きながら、ゴンドラを穏やかに漕いで人生の大切な宝物を運んでいる。彼の思いは、幸福をもたらすために。
永遠の鳥は、難解な数式を紡ぎながら、宇宙の神秘を解き明かしている。その姿は、人々を満たすための道しるべとなる。
彼らは昔から今も変わらない。
だから僕は安心して、この青い世界で揺られ、ほんのひととき、夢の中へと身を委ねる。
「青い、青い」
ここは世界一お菓子が飛び交う空港。この混み合った広い空港内を歩くと甘い香りがあちらこちらで漂い、なんだかお菓子の国に迷い込んだような気分になる。
僕は目当ての甘い香りのお店にたどり着いた。長い行列ができていて、そこで待っている人々は何かしらの思いを巡らしている。
「すごい行列だな、お菓子を買うのは諦めよう」
と思っていると、店員がこちらを向いた。
彼女はとびきりの笑顔を浮かべ、試食の一片を差し出してきた。
僕もその程よい甘さに自然と笑顔になった。
結局、すぐに長い行列の仲間入りしてしまう。
僕は君との甘い夢を思いながら順番を待った。
「sweet memeries」
雲を渡り、僕は風の町へ舞い飛んだ。
カランカランという風の音がする。
その昔、教会のステンドグラスが海に流されこの町に運ばれて来たという。
風はその神々しいグラスを優しく撫でて清らかな音色を奏でる。
風とグラスのリズム音に合わて、僕はどこまでも歩き続ける。
疲れて見上げれば、風で飛ばされた帽子が雲の上から微笑んでいた。
「風と」