甘酸っぱくてクリーミィでパリッと何層も重なる、いちごカスタードパイのような日々をひとしきり送っていた。
振り返ると、胸にトゥルンと響く音が聞こえた。
パリパリのパイが、とろとろのクリームに呑み込まれてしまわぬように、繊細にフォークを運ばなきゃいけないんだ。
優しさだけを求めていたら気持ちが薄れてしまうこともある。
だから言葉のエッジを深めて、君という存在を探し続けたいんだ。
モーツァルトが流れるカフェで、シューベルト好きの誰かを待ち続けるようなものだ。
「やさしくしないで」
想いを綴った手紙は、夜風に乗ってどこか遠くへ飛んで行った。
宛先も差出人も記されていない手紙。
それは秘密の断片さ。
14の僕は、初恋を隠して涙を流した。
あの頃、君も同じ星を眺めていたのだろうか。
「隠された手紙」
フィノンは、黄金の巨人の肩に腰掛けて広い世界を見つめながら、巨人と一緒にゴールドをせっせと集めていた。
巨人は休むことを知らないので、フィノンの生活もゴールド集め以外何もないような日々だった。
ある日、フィノンは深い海の中に、世界からゴールドを釣り上げることができる特別な網を見つけた。
そこで、彼は黄金の巨人にバイバイを告げ肩から降りる決心をした。
その後、彼は網を操りゴールドを集め始めた。
まず仲間を集めた。
仲間が出来て、彼は友達ができたかのような感覚を味わった。
一緒にグルメ体験や旅行を楽しみながら、ゴールドを集めていった。
そして、その集めたゴールドを仲間たちに分け与えることを忘れなかった。
「バイバイ」
僕はリフレッシュするために旅に出ると決めている。
その旅の中で、日常の些細なことが少しずつ色を変えていくのを感じるんだ。
まるでキャンバスに新たに鮮やかな色が塗られていくように。
世界が次第に開かれていく感覚は、何とも言えない喜びなんだ。
考えてみると、人生そのものも一つの壮大な旅であることに気づく。
毎日がその旅の途中だから。
誰かと出会い、別れ、振り返り、時には立ち止まることもある。先の予定を思い描くことも。
確かなのは、視野は新たに広がり、価値観は常に変化していくということさ。
「旅の途中」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ぺ子さんは、健康的な生活なんてつまらないと思っている。
彼女はヘルシーなお食事や適度な運動を完全無視して、食べ物に恋してるように毎日ずうっと食べ続けているんだ。
朝ごはんは、お砂糖たっぷりの甘いクリームをどっさり盛ったパンケーキをなんと10人前。カロリーの暴走車両さ。
お昼ごはんは、2キロのチャーシューラーメンをまたまた10人前。ラーメン屋さんもびっくりの注文だね。
そして夜ごはんはビールと焼酎、さらに餃子、唐揚げ、ピザ、ポテトフライが10人前。
ひとりパーティだよ。
虫歯で奥歯が抜けても前歯が抜けても頬がブルドッグみたいになっても、彼女は食べるのをやめないんだ。
ぺ子さんの健康が心配になるけど、もしかしたら僕が間違っているのかもしれない。
だって僕はぺ子さんの本当のことを知らないし、この生活が彼女にとっては幸せで正しいのかもしれない。
食べ物界のスーパーヒロインなのかもかもしれないし、ぺ子さんの食欲を考えるのはもうよそう。
「まだ知らない君」
エメラルド色の瞳をもつ賢い猫の住むジェルブロワ村は、「薔薇の里」と呼ばれている。
村は、春から夏にかけて色とりどりの薔薇の花が咲き誇り世界一美しい景色が広がる。
でも今は花が咲かない冬。
村は雪に覆われ静まり返っている。
観光客も少なく冬の寒さの中、妖精たちも踊りに来てくれない。
賢い猫は、この静寂の季節、透けるカーテン越しに春の訪れを穏やかな目で待っていた。
春に芽吹く薔薇たちの香りと、妖精たちの楽しい舞踏の音色を思い描きながら。
「日陰」