君に会いたくて
久しぶりの実家、変わらない空気。
といっても、三カ月に一回は帰るんだけど、やっぱり落ち着く。
「学校はちゃんと行けてる?」
「うん、」
「よかった、あなたマイペースだから」
しずかに笑う母に、自分もしずかに笑って返した
久しぶりに食べた母の手料理。変わらないなぁ。けど、ちょっと今日は豪華な気がする。
「そうだ、おじいちゃんから野菜が届いたのよ」
「じいちゃん家、この間行ったばかりだよ」
「じゃあお向かいさん家に持っていってちょうだい」
「⋯自分で行けばいいじゃん。おばさんと仲良しでしょ」
「いいから、お母さんは忙しいのよ」
はぁとため息を吐く。野菜でいっぱいの段ボールを持って玄関を出た。
斜め向かいの家のインターホンを肩で押すと、聞き慣れたいつもの声が聞こえる。
「わ、どうしたの」
「母さんが、野菜届けろってさ」
「この間、お祖父様の家に行ったばかりなのに、またすごい量だね」
「入ってもいい?」
「いいよ、あ、野菜は玄関に置いておいて!」
「うん」
段ボールを、広い玄関の一角に置いた。
リビングのソファに腰をかける。
「今母さん、父さんと買い物中なんだ!これ、父さんがお土産でくれたお菓子!一緒に食べよ!」
丁寧にお皿にお菓子を並べて食べる君の姿を見てふと気づく。
ああ、もう君に会いたくてしょうがないこと、母さんは気づいていたんだなぁ。
木枯らし
今日は講義が早く終わった。
大学からの少し近い公園へ向かう。
木々がミシミシとなっていた。今日は風が強い。
ベンチに座っている人なんていない。座りたい放題だ。
スマホをいじりながら君を待つ。
「おまたせ〜」
「おつかれさま」
「わっ」
木枯らしが君をおいかける。
巻き上げられた枯れ葉を髪やら服やらにくっつけて不機嫌そうだ。
「もう、せっかく髪の毛崩れてなかったのに」
「あはは、自然のほうが強かったね」
そうぶつくさとこぼしながら髪を整える。
隣に座った君の頭に、綺麗な枯れ葉を一枚、置いてみる。
「なんだかタヌキみたい」
「⋯⋯⋯」
「あ、」
けれどすぐに、木枯らしが綺麗な枯れ葉を持っていってしまった。
この世界は
朝起きて、顔を洗う。
特に何もすることもないけれど、いつも通りの時間に起きた。
あぁ、嘘。大学のレポートをやらなきゃいけなかった。
「おはよう!!」
リビングのドアを開けると、自分のテンションとは真逆の声の挨拶が聞こえる。少し間をおいて、おはようと挨拶を返した。
「朝何か食べる?」
「なんかあったかな、あ、パンでいいや。ジャムあったっけ」
「りんごと、ラズベリーのジャムなら少しあるよ」
「じゃあラズベリーにしよう」
四角いパンにジャムを塗ってもう一枚で挟んだ。そのままお皿にのせて出来上がり。
袋の中に一枚だけパンが残る。
そんなに食べたくはないんだよなぁ、と少し考えて、その一枚のパンを2つに切り、りんごのジャムを塗って挟む。最初に作ったジャムパンも、半分に切った。
「一緒に食べよ」
「んー、さっきご飯食べちゃった」
「少しなら入るでしょ」
「じゃあ一つもらおうかな」
ソファーに腰をかける。
ついでに、と入れてくれたコーヒーを一口すすった。
朝のゆっくりとした時間が流れる。
この世界は今日も、変わらず平和だ。
ずっとこのまま
「はぁー!楽しかった!」
「そうだね」
少し大きいショッピングモールからの帰り、電車に揺られていた。
乗ったときはあまり電車は混んでいなかったが、最寄りが近づくにつれて人が混み始めた。
「電車混み始めたね」
「そうだね、はい、こっち詰めて」
席を譲る雰囲気を察するのも億劫で、なんとなく席を立つ。
「え?じゃあ自分も、」
「いいよ、朝早かったでしょ。それに人に流されちゃうよ」
「じゃあ荷物持つよ」
「ん、ありがとう」
真っ暗な地下鉄。窓に映る自分と目が合う。
視線を下へ落とすと、抱えた荷物に顔を乗せて、眠そうにしている顔が見えた。
どうにかフラフラしないように、荷物に顔を乗せているんだろう。
しばらくすると、静かな寝息が聞こえ始める。
綺麗に手入れされた長いまつげ、寝息と共に揺れる肩、力が抜けて開きそうな膝を、自分の膝で止めてあげる。
大きな駅でだいぶ人がおり、また隣に座り直す。
「⋯今どこ」
「まだあと30分はかかるよ」
「そっか、寝てた」
「寝てなよ。起こしてあげるから」
「うん、ありがとう」
また荷物に顔を埋めようとした為、少し頭をこちらに寄せる。
そのまま、また静かに寝息を立て始めた。
あぁ、今はずっとこのままでもいいんだけど、
でも、ずっとこのままじゃ、ありませんように。
でも今はまだ、気づきませんように。
寒さが身にしみて
今日は風がつよい。
日は出ているが暖めてくれるのは頭頂部と背中だけで指先までは届かない。
少し道路に残った雪から、寒さが足を伝って、ジワジワと身体にしみていく。
指先のヒリつきを、両手をこすって紛らわせた。
温い(ぬるい)息だけでは温めきれない。
「言われた通り、カイロを持ってくればよかった⋯」
朝、言われたことを思い出す。
帰ったらきっと、また色々言われてしまうなぁ。