20歳
新年が明けてしばらく経ち、いつも通りの休日。
近くの市民会館を通ると、綺麗な衣装がたくさん、目を引いた。
振袖、袴、スーツ、ドレス
楽しそうな声で溢れている。
「いいな、早く20歳になりたい」
「なんで?別にスーツやドレス、着物だって今でも、いつでも着れるよ」
「そうなんだけど〜」
その後も、会場へ向かう新成人を見ながら、あれがかわいい、これがかっこいい、とつぶやくのをはいはい、と軽く返事しながら聞いていた。
「20歳かぁ、お酒飲めるようになるのが1番楽しみかも」
なんとなく呟いた。
「えー?なんで?」
「⋯お店で美味しいお酒、飲んでみたくない?」
「確かに!ワインとか、日本酒とか」
「そうそう」
君の顔が真っ赤になっているところが見てみたいから、
なんて言ったら怒るんだろうなぁ。
「楽しみだね」
「そうだね」
20歳は特別だ。大人になって、きっと世界も、可能性も広がる。
2人で見える景色も、もっと広がればいいな。
なんて思ってしまった。
三日月
澄んで冷えた夜の中、コンビニからの帰り道、小さな袋をカサカサと揺らしながら歩いていた。
「あ、」
ふと目に入った細い月に、思ったよりも声が漏れた。
「なに?忘れもの?」
「ちがうちがう、見て」
「⋯?空がどうしたの?」
「ずいぶんと細い月だなぁと思ってさ」
思わず声が出ちゃった、と首を傾げてみせると、「もう、びっくりさせないで」と呆れたように返されてしまった。
普段ならなんの気にもとめない。
満月ならまだしも、満ち欠けですらない、半月でもない三日月なんて見ようとも思わない。
数日前に見た丸い月が、少しずつ消えて、また再び生まれてきた。また少しずつ満ちて丸になる。
「満月ばかり見てきたけど、なんだか三日月のほうがオシャレかも」
「そうだね、さっき買ったおつまみ菓子みたいな形だしね」
「⋯うーん、あんまりオシャレじゃない」
「え、」
なんていうのが正解なんだろうなぁ、と再び空を見あげた。
自分にはあまり感性がないのかもしれないなぁ、と思いつつ"三日月がオシャレ"はなんとなくわかる気がした。
色とりどり
「みて、かわいいでしょう」
ニコニコしながら両手ほどの大きさの箱の中、綺麗に並べられた小さな色とりどりのマカロンを見せてきた。
「あれ、何かの記念日だっけ、」
「ちがう、綺麗だから買ってきただけ」
そう言って、少し薄い紫色の、かわいいマカロンを一つ、手に乗せてくれた。ありがとう、と優しく指でつかみ、少し眺める。あいだに挟まれたクリームが光を当てるとキラキラと光っていた。
「紫色が似合うと思って、これをあげたかったんだ」
「そう?ありがとう。クリームがキラキラしているね」
「アラザンかな。宝石みたい」
そう言うと、桃色のマカロンを一口かじった。なんだか、目をそらすのがもったいなくて、美味しそうに食べるその顔をジッと見てしまった。
「紫色のマカロンは何の味?」
「あ、まだ食べてなかった」
「ふふふ、桃色のはなんとなく桃の味だった」
「そうなんだ」
手の中にある薄い紫色のマカロンを一口かじる。口の中には砂糖のあまさが広がった。なんの味かは、自分にはわからなかった。
「次はどれにする?」
「好きなのを食べればいいよ」
「これとかどう?似合う?」
「その色も可愛いね」
色とりどりのマカロンを、ワクワクしながら選ぶその表情がコロコロ変わるのが面白くて、結局薄い紫色のマカロンしか食べられなかった。
雪
「あ、雪だ」
寒さが激しくなり、カーテンを閉めようと窓の外を覗くと、パラパラと大粒の雪が降はじめていた。
大粒の雪は間隔をあけて、ベランダのサッシに着地するとすぐに水になって流れてしまう。
「これは積もらないね」
「わからないよ、長い時間降れば積もりそう」
しばらく二人は、パラパラと静かに降る雪を観察していた。
少しずつ雪が速度を上げて降り始める。
サッシに着地した雪同士が重なった。その雪は解ける間も与えられず、上からふわふわと雪が積もり始める。
「本当だ、積もるかも」
「でしょ、今のうちにダッフルコートを出しておこうっと」
「手袋ってあったっけ」
まだ雪は積もっていないのに、二人はワクワクしながら雪遊びの支度を始めた。