kamo

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5/1/2023, 10:53:42 AM

16 カラフル

世の中をもっともっと、カラフルにするために。あらゆる差別をなくすために。
そんな理由で、企業でロボットを一定数雇用するように、という法令が施行された。
僕はフツウの人間だけど、今日からロボットとして生きる。法が定めた「ロボット」の定義は「体組織の3割以上が機械であること」だ。
僕は生まれながらに四肢がやや不自由なので、この機会に義肢に替えてもらった。必要な費用はすべて会社から出ている。僕が人間からロボットになることで、会社はしちめんどうくさい研修や大がかりな環境整備をすることなく、国が定めた基準をクリアできるのだ。今日も明日も、社会の風景になんら変化はない。ただただ僕の日常から不便が減り、ラッキーなだけ。
実際にはみんな、カラフルな世界なんてものはそれほど求めていないのかもしれないね。
君はどう思う?
ところで僕の腕、かっこいいでしょ。せっかく会社の金だし、最新の義手にしてもらったよ。ほんと運がいい。生まれは人間だから、これって結構、いいとこどりだよね。
ん?なんでそんな怖い顔してるの?
え?君、ロボットだったの?僕の会社、採用試験受けて落ちたの?
……やだなぁ。そんなに怒らないでよ。ていうか早く言ってよ……いくらロボットが被差別階級だからって、隠さなくても。
ねえ、お願いだから、そのフォークを下ろして。そんなに怒らないで。
ごめんってば。ねえ。まさか刺さないよね?

5/1/2023, 7:28:28 AM

15 楽園

私はこの休み、部屋に小さな楽園を作る。
リストアップした配信外ドラと無料マンガ。
昔の名作ゲームがリメイクされてたから、それも買った。
たっぷり炊いた白飯、買いだめした激辛レトルトカレー、お取り寄せのご当地缶詰め。ポテチにせんべいに、冷凍ピザまん。麦茶はたっぷり作って、コーラも箱で買っておいた。
もちろん布団は、晴れた日にあらかじめ干しておいたからフカフカ。パジャマはいつものを着た切り。ほどよくくったりした生地が気持ちいい。
私はこの5日、楽園から出ない。ひたすらにゲーム、まんが、映画、睡眠だ。
ゴールデンウィーク。なんてステキな響きだろう。
まさに黄金の数日が、始まろうとしていた。

4/29/2023, 1:11:30 PM

14風に乗って

私の父親はくだらない作り話をよくする人で、中でも特別にくだらなかったのは「うちのハムスターは竜巻に乗って飛んできたのを拾った」と言うものだった。ホームセンターで衝動買いか何かしたのを、適当に誤魔化していたのだろう。実際、隣町で小さな竜巻が起こって畑がダメになったという出来事の直後だったので、幼かった私はそのデタラメをすっかり信じた。もう竜巻に飛ばされないようにと大切に育てたハムスターは2年ほどで死に、20年後には父も死んだ。最後の最後までデタラメを言うくせは直らず、病気の進行なども誤魔化して、元気なフリをしながらさっさと入院して、最後の最後まで与太話をしていた。葬儀の日はよく晴れていて、海辺の火葬場から細く昇る煙はまっすぐできれいだった。ふいにその煙が竜巻のように渦を巻いて、ハムスターを連れてくるところを想像した。もちろんそんなことは起こるわけはなく、白い煙はただ昇って消えた。風のない、のどかな水曜日だった。

4/29/2023, 9:59:20 AM

13 刹那

格闘ゲームのワンフレームはだいたい90分の1秒。この一瞬よりも更に短い時間での読み合いが
勝負を分ける。
刹那、という言葉を聞くたびに、筐体に100円玉を積み上げてそんな話をしていた、中学のの友達のことをふと思い出す。
よく対戦していたゲームセンターは、スマホが登場したころに閉店してしまった。友達とも遊ばなくなった。
もともとゲームは他人がしてるのを見てるほうが好きなくらいだったから、もう全然、縁がない。友達の顔も、使ってたキャラも、ゲーセンの空気も、すっかり記憶がおぼろになっている。
だけど90分の1秒がワンフレーム、という言葉だけ、不思議とくっきり覚えている。
わたしにとってはそれが、時間をかぞえる一番短い単位なのだろうと思う。きっと他のことでは一生使わない単位だろうけど。

4/27/2023, 5:59:17 PM

12 生きる意味

 理想の半熟目玉焼きを作るために、私は生きている。
 毎日、朝は必ず目玉焼きだ。ぷるんと満月のように弾む黄身を、限りなく透明に近い膜が包む。
 白身の広がった部分は、くっきりとした白色でしっかりとした二段になっているといい。
 全体に照り照りして、新鮮で、まだまだ生きている、と思わせるような、躍動感あふれる、輝く目玉焼きだ。
 黄身をつつくと、太陽のような濃い黄色がとろりと流れる。
 あくまでも「とろり」だ。さらりとしていてはいけない。
 ほんの少し熱が入ったのだなと分かる、絶妙の火加減。
 理想に近いものができると、今日は絶対いいことがあると思える。
 お皿にあけて、熱いまま思いっきりすすると、大地そのままのうまさが味わえる。その瞬間、まさに私は全力で生きている。
 さあ、今日も目玉焼きを作ろう。熱いフライパンに卵を滑らせて。最高のやつを。

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