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12/3/2023, 2:15:32 PM

ふと目を覚ますと、私は小さな小屋の中にいた。
体を起こして辺りを見渡すと、そこは四方を壁に囲まれた小さな小部屋だった。四方の壁の一つに小窓があるだけで、あとは私の寝ている寝具が一つ。小窓は格子の枠にガラスがはめ込まれている。
酷く違和感を感じたが、その部屋には扉がないからとその違和感の正体に気づくのにはそこまで時間が掛からなかった。
私はゆっくりと小窓に近づき、両開きの窓を押し出す。
窓の外には小さな小川が流れており、小川の手前には男の子が一人で立っている。
すり減った金属の軋む音で彼はこちらを向いた。
彼は優しく微笑うと、小さく手を振った。
ー 彼はどこかに行ってしまう、行かしてはならない
衝動的にそう思った私は声を上げ、手を伸ばした。
彼は少し悲しそうな顔で小さく首を横に振った。小さく何かを呟くと、小川の方に振り返り歩き出した。裾が水に浸っても彼は構わず歩き続ける。
私は伸ばした手で顔を覆った。
ー 私の方こそありがとう。
私は小さく呟くと、手の隙間から雫がこぼれ落ちた。

さよならは言わないで

12/2/2023, 7:42:00 AM

僕は社会との距離感がわからない。
朝は全然起きられないし、そのせいでよく遅刻をする。会社でもよくミスをして、最初は何度も上司に怒られた。
メモを取るように促され、実践してみたが、人の言う事を聞きながらメモを取ることができず、結局メモは真っ白に。メモに意識を割かれて、内容もあまり覚えてない状態だった。
上司はあきれていったのか、次第に怒鳴られることも少なくなった。
皆が何気にこなしていることが僕には少し難しいようだ。
しかし、だからといって諦めることは出来ない。
人よりも何倍も時間が掛かるが少しずつ少しずつ出来ることを増やしていく。
そうやって少しずつ進んでいるといつの間にか、かつての上司は自分の部下に。
最後は諦めない者が勝つ、そういったのは今は部下のかつての上司だった。

11/30/2023, 3:53:39 PM

今日は資格試験の発表があったためお休み

試験の結果は
 
二科目合格、一科目不合格でした。

#泣かないで

11/29/2023, 11:46:53 AM

冬は嫌いだ。
何より寒いのが駄目。人類はなぜ冬眠をしないのだろうか。熊もリスも冬眠をするのに、人類が冬眠しないなんておかしな話だ。
もしも、一年間が夏か冬かの二つの季節しかなければ、絶対に夏が良い。冬だけはごめんだ。
そんなことを考えながら布団の中から出られずにいる。
「冬美。早く起きないと学校遅刻するわよ」
母が階段の下から叫ぶ声がする。
「あと五分」
私はいつもの決まり文句をいうと、扉の外から階段を駆け上がる音が聞こえた。
勢い良く扉が開くと、扉の前には母の姿が。
「五分前にも同じこと言ったわよね?」
「そ、そうでしだっけー」
布団に潜って誤魔化そうとする私から母は容赦なく布団を剥ぎった。
私の悲鳴には見向きもせずに母は布団を持ったまま、部屋から立ち去った。
「母上もまだまだ甘いな」
私は母が階段から降りたのを確認して、押し入れから予備の布団を引っ張り出した。
出したばかりの布団は少しひんやりして、冬のはじまりをを感じた。

11/28/2023, 3:52:20 PM

「あと三十分か」
時刻は午前八時半。朝の仕込みを終えて、開店の準備を急ぐ。
当店は開業時から十年続く洋食屋である。一時期は不況の煽りを受け、廃業寸前まで追い込まれたが、その後なんとか立て直した。常連さんにも贔屓して頂いて何とかやっていけている。
うちは、洋食屋では珍しくモーニングもやっており、モーニングの時間帯は自分一人、ランチとディナーにはアルバイトの子に手伝ってもらっている。
前菜で出すスープの仕込みを終えて、ほんの少し一段落ついた。モーニングは比較的お客さんが少ないと言っても、一人で回すのはかなり大変である。
カラン
店の扉が開く。
「すいません。開店まだなんです。申し訳ないんですが、外でお待ちいただけませんか?」
キッチンの中から顔だけを出して、来客に当店は九時開店であることを伝える。
「久しぶり」
扉を開けたまま、一人の女性が立っている。
「美恵子…」
俺は彼女の名前を咄嗟に口にした。彼女のことはよく知っている。いや、正確には知っていた。
五年前、うちの店は不況の煽りを受けて廃業寸前に追い込まれた。それまで、店は俺と彼女の二人で切り盛りをしていた。先行きがわからないことに不安を覚えた俺は、彼女に離婚を申し出た。
彼女は俺の元妻である。
離婚を申し出た時の彼女の一言が、凄く印象に残っている。
ーお店、終わらせないでね
俺は彼女の人生を台無しにしたことを申し訳なく思っていた。店が忙しく、子供も作る機会を失って彼女の時間を奪ってしまった。
彼女の年齢を考えれば子供の一人や二人居てもおかしくはない。さらに、二十代という大事な時期を店の時間に使わせてしまった。
俺は彼女の姿を見ると固まってしまった。どう声を掛けてよいか、どう謝ったらよいか。最初の一言が思いつかなかった。
「そこ座っていい?それとも開店まで外で待ってた方が良いかな?」
固まる俺に彼女が声を掛ける。ぎこちなく、構わない、と一声掛けて席に通す。
「変わって無いね。あの時から」
彼女が店内を懐かしそうに見渡して、机の上のメニューを開く。
「あ、これまだあるんだ。朝からガッツリハンバーグ定食。それじゃこれ貰っていい?」
「あ、うん。わかった」
この、朝からガッツリハンバーグ定食は、二人でふざけて考えたメニューである。通常のハンバーグと量は変わらないのだが、朝からハンバーグを食べる人はあまり居ないと妻が言うので、それだったらいっそのことガッツリと付けちゃえということでこのメニューの名前が決まった。朝食限定ともあり、値段も少し安くしてある。
俺がキッチンで料理を作っていると、彼女が席を立ち、キッチンを覗く。俺の料理姿に感心しながら、別れた後の五年間のこのを話してくれた。俺もこの五年間何があったか話そうと思ったが、ほとんどお店のことしか話せず、常に彼女が話していた。
「あの時の約束、守ってくれたね」
彼女が囁くように言った。
「あぁ」
俺はそれ以上は何も言わなかった。
「出来たぞ」
俺の声を訊くと、彼女はそそくさと元の席についた。
「お待たせしました。朝からガッツリハンバーグ定食です。ご飯はサービスで大盛りにしておきました」
「えへへ。ありがとう」
食べることが大好きな彼女はご飯はいつも大盛りである。俺が少食なことをいいことによく俺のおかずまで手を出していた。
いただきますの掛け声と共に、彼女がハンバーグを小分けに切ってからその一切れを口に運ぶ。
「んー、おいしいー」
彼女の満面の笑みで頬が落ちそうな素振りをする。
彼女の笑顔が、俺が料理始めたきっかけであることを彼女は知らないだろう。

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