子供の頃は、彼の方が泣き虫だった。転んでケガをしては泣き、物音に怯えては泣き…とにかく私が彼を慰めたことは多い。
「うわあぁーん!怖いよー!」
「よしよし、私が傍に居るから大丈夫だよ」
学校の行事で肝試しをしたとき、偶然私たち二人がペアになったのだが、暗がりに怯える彼を慰めながら歩いたので、なかなか進まなかった。とはいえ、私もお化け屋敷などを避けて通ってきた人間なので、私も怖かった。驚かされる度に彼が泣き叫び、私も恐怖で足が竦む。そんなこんなで、私たち二人はお化け役の人たちを困らせていたっけなぁ。
大人になってからは、ある程度は怖いものも無くなった。ただ、泣き虫を卒業した彼に対して、私の方が泣き虫になってしまったかもしれない。
「うぅ…悔しい」
「大丈夫ですよ、俺が支えますから」
負けず嫌いな私は、自分の不甲斐なさに悔し涙を流すことが多くなった。怖いものが少なくなっても、克服できない感情に泣く事が多いのだ。今では私の方が彼に支えられている。
テーマ「子供の頃は」
朝起きると、私より早く起きた彼が朝ごはんを作ってくれていた。お味噌汁の匂いや、フライパンで焼いている音が聞こえた。今日は和食だろうか。
「おはようございます、朝ごはんできましたよ」
「ありがとう、いただきます」
彼の作る料理は、とても美味しい。なにか特別な食材を使っているとか、そういうのではなくて、愛情たっぷりに作ってくれたことが伝わってくるのだ。毎日彼のご飯を食べて私は仕事へ行った。
「ただいま」
「おかえりなさい、お疲れ様でした。お風呂沸いてますよ」
仕事が終わり、家に帰ってくると、彼が出迎えてくれる。今日は暑かったので、先にお風呂に入る。その間に彼が晩御飯を作ってくれているらしく、美味しそうな匂いがしてくる。
「今日はね、仕事でこんなことがあったんだ」
「そうなんですね、大変だったでしょう」
今日の出来事を話しながら二人で晩御飯を食べた。そして時間になると、私たちは同じ部屋で眠りにつく。こんな日常が何気ないけれど、とても幸せだ。
「おやすみ」
「おやすみなさい、ゆっくり休んでくださいね」
テーマ「日常」
私たちは、青色が好きだ。青だけでなく、青系等の色を含めて。透き通る水や空のような色。夜を思わせるような色。どれもこれも、落ち着く色なのだ。
「あなたも青い服を着ることが多いよね」
「はい、青系統はかっこよく見えるので…」
「私も青は落ち着いたイメージだから好き」
特に私たちの服は、濃い青色と黒を基調とした服を着ることが多い。お互いに好きな色が似ていて、別のブランドの服なのに、ペアルックみたいになる事もある。
テーマ「好きな色」
「私はね、あなたがいたから今ここまで明るい性格なんだよ」
そう言って彼女はニコッと微笑んだ。そんなの、俺だって同じ気持ちだ。もしあの時彼女と出会わなかったら、俺は一体どうなっていたのだろうか。
俺が幼い頃、自分の殻に閉じこもっているような性格だったのだ。臆病すぎて一歩先に進むことも出来ず、今のままでいい、と何もかもを拒んでいた。このままだったら、自分の居場所すら失っていただろう。
しかし、彼女が俺に優しくしてくれてから、この人と一緒に居たい、この人のことを守りたいと強く思うようになった。それから臆病な自分も克服し、彼女を支える存在にまでなることができたのだ。
「俺も、貴方がいたからここまで強くなれたんですよ。これからも、ずっと傍にいさせてください」
「もちろん、ずっと一緒だからね」
そう言って繋いだ手の温もりは、何よりも温かくて、幸せだった。
テーマ「あなたがいたから」
二人で帰ろうとしたら、突然の雨に降られてしまった。傘も持っていないし、どうしようかとデパートで雨宿りしながら考えていた。
「少し待っていてくれませんか?」
「うん、いいよ」
そう言って、何かを思いついたような彼は店の中へ向かっていった。入口で少し待っていると、彼が大きめの傘を買って戻ってきた。
「わざわざ傘買ったの?」
「はい、ちょうど買い換えたかったので」
さぁ行きましょう、と手を引く彼と外へ出て、相合傘をしてもらった。買ってきた傘はかなり大きめで、相合傘をするには丁度いい大きさだった。
「もっとこっちへ寄ってください。大切な貴方が濡れてしまいますから」
そう言って、彼は私の肩を抱き寄せた。心なしか、傘もこちらへ傾けてくれている気がする。これじゃあなたが濡れちゃうよ、と声をかけても貴方を守れればそれでいいんです、と返されてしまった。そんな紳士的な彼に惚れ直しながら、もっとこのまま歩いていたいと思ってしまう私だった。
テーマ「相合傘」