俺が目を覚ますと、愛しの彼女が隣に寝ていた。俺の方が朝に強く、いつも朝食を作っていると匂いにつられて彼女が起きてくるのだ。しかし、今日の空模様はどんよりと曇っていて、やけに気分が沈む。トーストを焼き、目玉焼きを作り終わったところで異変に気づいた。彼女が起きてこないのだ。いつもより眠りが深いのかな、と思った俺は寝室へ行って彼女を起こしに行った。
「ほら、起きてください。朝ごはん出来ましたよっ…!?」
彼女を起こすために身体に触れると、とても冷たかった。そして、彼女の方も一向に起きる気配がない。まさか、と思って彼女の手首から脈を測ろうとするが、案の定脈拍がなかった。信じられない、昨日まで何ともなかった彼女が死んでしまった。その顔は穏やかで美しいのが、俺の悲しみをより深くした。
「そ、んな…置いていかないでくださいよ…っ」
そんな俺の感情に呼応するように、雨が降り始めた。泣き虫はとうの昔に卒業したはずなのに、目からは涙が止まらない。あれだけ幸せだった二人の日々も、もう戻ってこない。突然の別れを前にして、俺はただ冷たくなった彼女の身体を抱いて泣くことしかできなかった。外の雨もより強くなり、止まない雨が降り続いている。大きな雷が鳴り、暗い部屋を照らした稲光で視界が真っ白になった。
「ねぇ!大丈夫!?」
目を覚ますと、心配そうな顔をした彼女が目の前にいた。さっきのは夢だったとわかった瞬間、安心して涙を流してしまった。
「怖い夢を見てしまって…」
「あぁ、やっぱり…すごくうなされていたもん」
そうして彼女は俺を抱きしめた。触れた感覚はとても温かく、強めに抱きしめ返すと彼女の心臓の鼓動を感じた。流石に力を強くしすぎたのか、苦しいよ〜と彼女に叱られてしまった。はっと我に返った俺は力を緩めて、ずっと傍に居てください、と呟いた。
「生きている限りは絶対に傍に居るからね、と言っても今のあなたには説得力ないか…」
彼女は困ったような顔をしながらも、この日は一日中傍に居てくれた。
テーマ「突然の別れ」
あるところに、臆病で泣き虫な男の子がいました。ある日、彼は道端の小石に躓いて、転んでしまいました。ケガをしてしまい、痛い痛いとそれはもう大泣き。すると、一人の女の子が手を差し伸べてくれました。
「大丈夫?ひざ擦りむいてるから絆創膏貼ってあげるね」
彼女は急いでケガの手当てをしました。これで大丈夫、と手当てを終えた時には男の子は泣き止んでいました。その時、彼は彼女のことを好きになりました。
それから時が経ち、彼の泣き虫は治り、たくましくかっこよく育ちました。それから、彼は彼女と再会したのですが、彼女は悪い人に絡まれて困っていました。彼は今度は自分が彼女を守る番だ、と勇気を出して彼女の前に立ちました。
「やめなさい!彼女が困っているでしょう」
「チッ、覚えてやがれ」
悪い人は目の前から去っていき、後ろにいた彼女がありがとうございます、とお礼を言いました。
「大丈夫ですか、また何かあったら言ってくださいね」
「あっ、あなたはあの時の…」
「おや、覚えてくれていたのですね」
そうして再会した彼らはお互いを好きになり、最後には結ばれましたとさ。めでたしめでたし。
テーマ「恋物語」
ある日の真夜中、私は目を覚ました。そのまま眠れなくて、私はベッドから体を起こした。すると、隣に寝ていたはずの彼の姿がなく、寝室のドアが空いていた。彼も起きているのかな…と思い廊下に出ると、リビングの電気がついていた。そっと覗いてみると、彼はソファに座って本を読んでいた。
「あなたも眠れないの…?」
「はい、目が冴えてしまって…貴方もですか?」
私が声をかけると、彼はすぐに本から私に視線を移した。眠れないことに困っているようにも、夜更かしすることにワクワクしているようにも見える表情をした彼はソファの隣を空けた。
「うん…せっかくだし、隣座ってもいいかな?」
「えぇ、少しお話しましょうか」
彼が快諾してくれたので、お言葉に甘えて私は彼の隣に座った。彼は私の肩に手を回して抱き寄せながら微笑んだ。そこから他愛のない話をしていたら、時計の長針が一周していた。
「いっその事、朝まで起きちゃおうか。明日休みだし、ゆっくりできるでしょう?」
「いいですね、それでは俺はコーヒー淹れてきますね」
それからも、コーヒーを飲みながらずっと話し続け、日が昇り始めて空が薄紫色に染まるのを見るまで起きていた。
テーマ「真夜中」
「ねぇ、あなた」
「はい、どうしましたか?」
午後のティータイムで、私たちは紅茶を飲みながらスコーンを食べていた。彼が選んでくれた茶葉の上品な香りと、私が作った焼きたてスコーンのバターの香りが食欲をそそる。そんな癒しの空間に反して、私が彼に聞いたことは真剣な内容だった。
「愛があれば、あなたは何でもできると思う?」
「はい、貴方の為なら、俺の命すら捧げます」
彼は真剣な顔で即答した。あまりにもその瞳が真っ直ぐに私を見つめるものだから、本当に私を守る為に命を散らしてしまいそうだと心配になってしまった。
「そんな命を懸けることなんてしないし、させないから!ただ、ずっと私の傍にいて欲しいの…」
焦った私は少し涙目になり、最後には俯きながらそう言った。その様子を見かねた彼は、私の頬に手を伸ばした。私が目を合わせると彼はやれやれ、という表情を見せた。
「まったく…そんな顔をしないでください。大丈夫ですよ、俺はずっと貴方の傍に居ますから」
最後には微笑みながらそう言ってくれて、私は少し安心した。
テーマ「愛があれば何でもできる?」
人間とは過ちを犯すもので、それらを後悔することも多い。悔やんでも仕方ないのに、今苦しんでいることを過去の自分のせいにして現実から目を背けようとしてしまうものだ。昔の私も、そんな性格だった。
しかし、彼と共に過ごすようになって私は変わった。何か過ちを犯しても、一人で抱え込まず、彼にだけ素直に話せるようになった。彼はしっかり話を聞いたうえで慰めてくれるし、次はこうしたらいい、と意見を出してくれることもある。
「私ね、今までたくさん後悔することもあったけれど、あなたに出逢えた幸せの方が大きいから、最近は後悔していない気がする」
「嬉しいこと言ってくれますね、俺も貴方に出逢えたので、辛い過去も受け入れることが出来ましたよ」
後悔したっていい。いつかその過去を受け入れられるようになる日が来るのだから。
テーマ「後悔」