いつの間にか道端に咲いていたタンポポも、綿毛になっており、たまに風に乗って飛んでいるのを見かけるようになった。もうすぐ夏が来るなぁと思いつつ、綿毛が遠くに飛んでいくように、私もどこか遠くへ行ってみたいとも思った。
「二人でさ、いろんなところに行きたいね」
「そうですね、俺も様々なものを見てみたいです」
散歩している時にタンポポの綿毛を見て、彼とそう話した。彼と一緒なら、どこへ行っても楽しくなりそうだし、幸せなはずだ。
「私もあの綿毛みたいに、風に乗って飛んでみたいなぁ」
「おや、俺は少し困りますね。そこまでお転婆になってしまったら、貴方とはぐれてしまいそうです」
「大丈夫、あなたの傍からは離れないから。心配だったら手でも繋ごうか?」
そう言って私が右手を差し出すと、彼は照れくさそうな顔をしながら私の手を取った。
テーマ「風に乗って」
「やぁ、お嬢ちゃん。今一人かい?」
彼とデートしている時、彼が忘れ物をしたらしく、戻ってくるまで私は待っていることになったのだが、一人になった隙を狙って男の人が声をかけてきた。ナンパかぁ、困るなぁと思い最初は無視していたのだが、あまりにもしつこかったのでつい言い返してしまった。
「違います。今人をを待っているんで」
「またまたぁ、嘘でしょ?絶対楽しませてあげるから、こっちにおいで?」
「やめてください、困ります」
「いいから、こっちに来なさい!」
キッパリと断り続けていたのだが、それでもしつこく、遂には力任せに腕を引っ張られる。痛い、駄目かもと思った刹那、聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
「その人は俺の大切な人です、今すぐその手を離しなさい!」
そう言い放った彼の声は怒気を帯びていて、普段の優しい彼からは想像もつかない表情をしていた。彼の尋常ではない怒りに恐れをなしたのか、その人は急いで逃げていった。
「すみません。俺が忘れ物をしたばかりに貴方に怖い思いをさせてしまって…」
「ううん、助けてくれてありがとう」
「もう離れませんから。必ず貴方を守ります」
彼の表情は先ほどから打って変わって、優しく穏やかで、いつもの彼の雰囲気になっていた。そして、離れないように手を繋いでデートの続きを楽しんだ。
テーマ「刹那」
人間が生きる意味とは、様々な答えがある。歴史に名を残したいとか、新しいものを生み出したいという大きな夢を持つ人もいれば、自分の趣味のため、とりあえず生まれたからというありふれた考えの人もいる。そして、そのどれもが正解で、正しいとか間違っているというものではない。
私には、愛し合っている人がいる。彼はとても優しくて、かっこよくて、惚れるには充分すぎる存在だった。私は彼に出会って、彼のために生きたいと思ったのだ。
「ちょっと聞きたいんだけどさ、あなたって自分の生きる意味って何だと思う?」
「それはもちろん、ずっと貴方の傍に居て、隣で貴方のことを守るためです。幼い時に貴方に出会ってから、俺は貴方と共に生きていきたいと思っているんです」
彼は真剣な眼差しで私を見つめ、手を握りながらそう言った。その瞳はとても凛々しくて、さらに惚れてしまいそうだった。お互いに愛する人のために生きる、という部分が共通していて、相思相愛なんだと改めて思った。
「私と同じだね。私もあなたと共に生きるためだと思っているんだ」
「おや、それは嬉しいですね。これからもよろしくお願いしますね」
「はい、末永くお願いします」
テーマ「生きる意味」
「あなたって、善悪ってなんだと思う?」
「突然どうしたんですか。難しいことを聞きますね」
「何となく、あなたってどう考えているか知りたくて…」
善悪とはとても難しいもので、表裏一体のものだと思っている。例えこちらが善意でしたことでも、受け取り手によっては悪意になってしまったりする。善意の押し付け合いが争いの原因になったりする。物語のように、善と悪が完全に真逆のものとは言いづらいのだ。だから、彼はどう考えているのかを知りたくて聞いてみたのだ。
「そうですね…周りから悪人と言われている人でも、元々は善人だったかもしれません。それが、多数派によって批判されて、悪人というレッテルを貼られた…とも考えられませんか?」
「やっぱり、善悪って表裏一体だよね…」
やはり彼も私と似たような考えだった。悪人が善人に変われるかどうかは別として、良かれと思ってやったことが報われるどころか、否定されてしまうこともある。
「そう考えるとさ、善と言われている側が価値観を押し付けて、悪というものを生み出しているのも、ある意味悪意だよね」
「あぁ確かに。どちらか一方しかないってことはあり得ませんよね」
「本当に光と影みたいだよね」
そんな話をしながら、私は彼と表裏一体ではなく、運命共同体になりたいなぁと思った。だって、そうなってしまったら相容れないものとなってしまうから。
テーマ「善悪」
「今日は快晴で良かったね」
そう言う彼女はどこか楽しげで、満天の星空を食い入るように見ていた。彼女から聞いた話によると、今夜は大きな流星群が見られる日らしい。俺はそんな彼女の横顔を見て可愛いなぁ、と思いながら空を見上げる。本当に、雲ひとつない空に数多の星が輝いている。
「流れ星に何をお願いしようかなぁ、あなたは何か決めてる?」
「俺ですか?特に何も浮かばないですねぇ」
「えぇ〜、もったいないよ。流れ星が見える前に決めときなよ」
彼女には言えないが、俺はそんな迷信を信じるような性格ではなかった。だから何も願い事を考えていなかったのだ。どうしようかと考えている時、彼女が声を上げた。
「あっ、流れ星!お願い事しなきゃ」
そう言ったかと思うと彼女は静かに祈り始めた。そんな彼女は明るくて、綺麗で、俺からしたら地上の星のように見えた。降り注ぐ星々を見上げながら、俺も彼女みたいに流れ星に願いをかけてみようか、と思い立った。
――どうか、この地上の星と共に在ることができますように。
テーマ「流れ星に願いを」