「やぁ、お嬢ちゃん。今一人かい?」
彼とデートしている時、彼が忘れ物をしたらしく、戻ってくるまで私は待っていることになったのだが、一人になった隙を狙って男の人が声をかけてきた。ナンパかぁ、困るなぁと思い最初は無視していたのだが、あまりにもしつこかったのでつい言い返してしまった。
「違います。今人をを待っているんで」
「またまたぁ、嘘でしょ?絶対楽しませてあげるから、こっちにおいで?」
「やめてください、困ります」
「いいから、こっちに来なさい!」
キッパリと断り続けていたのだが、それでもしつこく、遂には力任せに腕を引っ張られる。痛い、駄目かもと思った刹那、聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
「その人は俺の大切な人です、今すぐその手を離しなさい!」
そう言い放った彼の声は怒気を帯びていて、普段の優しい彼からは想像もつかない表情をしていた。彼の尋常ではない怒りに恐れをなしたのか、その人は急いで逃げていった。
「すみません。俺が忘れ物をしたばかりに貴方に怖い思いをさせてしまって…」
「ううん、助けてくれてありがとう」
「もう離れませんから。必ず貴方を守ります」
彼の表情は先ほどから打って変わって、優しく穏やかで、いつもの彼の雰囲気になっていた。そして、離れないように手を繋いでデートの続きを楽しんだ。
テーマ「刹那」
4/28/2024, 10:43:38 AM