ルールと聞くと、どうしても縛りつけるものというイメージが強い。あれをしなさいと強制される時もあれば、それをしてはいけないと禁止されることもある。中でも、自分は親の決めた人と結婚しないといけないという、許嫁があったとしたらとても耐えられなかっただろう。
しかし、嬉しいことに私たちにはそんなものはなかった。結ばれることが誰かに決められたでもなく、お互いが惹かれあって結ばれる運命を選んだ、とても理想的な関係だ。
「ねぇ、あなたは私以外と結ばれたら、っていう世界を想像できる?」
「そんなことできませんよ。貴方がいなければ、今の俺は存在していないのですから」
お互い愛し愛されの関係にあり、強い絆で結ばれている私たちは、例えルールであっても邪魔したり、引き裂くことはできないだろう。そう自惚れることができるくらい幸せなのだから。
テーマ「ルール」
今日の心模様は、曇りのち晴れ。少し辛いことはあったが、私のことを想ってくれる人が家で待っているのだ。
今日は少し無理をしてしまって手を痛めたり、擦りむいてしまった。そのせいで、今日の仕事は上手くいかず、何とも言えない気分だった。
「ただいま…」
「おかえりなさい。元気がないようですが大丈夫ですか?」
「実は仕事で無理をして手の皮擦りむいちゃったの…」
そう言って彼に左手を見せた。少し擦りむいてしまった傷は赤くなっていたが、血が滲んでいるわけではなかった。しかし、それを見た彼は顔色を変えて、救急箱を持って駆け寄った。
「それは大変じゃないですか!今すぐ手当てしますね」
彼は私の左手をとって、消毒液を染み込ませたガーゼを傷口に当てて消毒をしてくれた。消毒液が滲みたことによる痛みに、思わず顔をしかめてしまう。
「痛かったでしょう…でも、あと少しなので我慢してくださいね」
彼は優しく声をかけながら手際良く手当てしてくれた。最後に絆創膏を貼って手当てを終えた彼は、私に微笑んでこう言った。
「すぐには治らないですけど、手当てをしとけば大丈夫ですよ、ただ、これ以上は無理しないでくださいね」
手当している最中の彼の表情は真剣そのもので、軽い傷なのに一生懸命手当てをしてくれた。その眼差しだけでも、私のことを大切にしてくれているのは分かる。怪我をしたのはマイナスな出来事だったけれど、ここまで想ってくれる人がそばにいると感じられたので、私の心はプラスに向かっていた。
テーマ「今日の心模様」
「たとえ間違いだったとしても、あなたが私を選んでくれて嬉しかったよ」
私は、なんの取り柄もない没個性的な人間だ。生まれつきの才能なんてものも無いし、何をやっても中途半端で、極めるほど得意なことも持ち合わせていない。言わば他人からしたらモブにしか見えないような存在だ。それに対して愛しの彼は、恵まれた美貌を持っていて、頭脳明晰で紳士的な人だ。世間一般でいう「モテる」要素をこれでもかと詰め込んだ彼は、今まで引く手数多だっただろう。隣に立つのが私なんかじゃ釣り合わない存在なのは見てわかるはずだ。
素直に想いを伝えられないひねくれ者な私は、つい彼にそう言ってしまった。それを聞いた彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに真剣な表情に戻って私を見つめた。
「間違ってなどいませんよ。俺は俺の意思で、貴方を選んだんです。自分では気づいていないでしょうけど、貴方は他人を思いやる気持ちが人一倍強いのですよ。俺はそんな貴方に救われたんです。だからどうか、貴方自身を卑下しないでください…」
私を真っ直ぐに見据えるその瞳は、最後の方には潤んでいるように見えた。なんで、私なんかの為に涙を流してくれるの?という気持ちを言葉に出来ずにいると、彼は私の心を読んだかのようにこう言った。
「俺は、大好きな貴方が悪く言われるのが悲しくて、嫌なんです。たとえそれが他でもない貴方自身からだとしても」
私を強く抱きしめる彼の表情を見ることは叶わないが、声が震えていたので泣いているのだろう。私だって彼と出会い、愛し合うこの幸せを間違いだって思いたくない。そう考えながら彼を抱きしめ返す私にも、いつの間にか涙が頬を伝っていた。
テーマ「たとえ間違いだったとしても」
お店でアクセサリーを見ている時、いつも雫型のものを無意識に探してしまう。それくらい私は雫のモチーフが好きだ。なぜならば、水を連想させるそれが、私の愛しい彼の姿を連想させるからだ。
雫と一口に言っても、様々なものがある。例えば、雨の雫。生き物は水が無いと生きていけないから、生命を育むそれは恵みの雨とも言われることがある。まさに、私にとって彼は心を癒してくれる恵みの雨のような存在だ。もう一つ例えるなら、涙の雫。嬉しい時、悲しい時、悔しい時など、色々な感情で涙を流すけれど、特に幼い頃の彼はよく泣いていたのを思い出す。
何かいい物があったら買おうかな、と思いながらショーケースを眺めていると、まるで海の水と星の砂を閉じ込めたような、青い水にラメの入った雫型の美しい首飾りを見つけた。それを見た瞬間、これを着けてこちらに微笑む彼の姿が脳裏を過ぎった。私はすぐにそれを買い、プレゼント包装をしてもらった。そして喜ぶ彼の姿を見るのが楽しみだなぁ、と思いながら店を後にした。
テーマ「雫」
「大好きですよ、愛しています」
彼が甘やかしてくれる時は、私を抱きしめて愛を囁いてくれる。私も彼のことが大好きだし、ずっとこうしていたいとさえ思える。彼の抱きしめてくれる腕が、頭を撫でてくれる手がとても優しくて、とても幸せを感じる。
「あなたは私の事どれくらい好きなの?」
いつもなら私も愛してる、と返すのだが、今日はふとそんな疑問を投げかけたくなった。彼は困ってしまうだろうか、と思ったが、彼は優しい微笑みを崩すことなく、
「幼い頃から貴方一筋です。貴方が隣に居てくれさえすれば、他に何もいりませんよ」
彼があまりにも真っ直ぐに想いを伝えるものだから、嬉しいと同時に照れくさい気持ちにもなり、思わず頬を赤らめてしまう。
「ふふ、本当に貴方は可愛いですね。これからも貴方を守らせてください」
彼はクスッと笑って、私を抱き寄せた。あなたって、何を言ってもかっこいいからずるいなぁ、と思いながら私も彼を強く抱きしめ返した。
テーマ「何もいらない」