一尾(いっぽ)

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7/14/2024, 1:39:36 PM

→橋の上で。

 ちょうど橋を渡っているときだった。
 カメラを構える女性の先に、手すりに留まる2匹の鳩。おそらくつがいだろう。女性に近い側の鳩が後ろに首を回す。2羽が会話をするように目を合わせた。
―ねぇ、あなた? あの人が私たちの写真を撮ってくださるらしいわ。
―そうかい、お前。では、お願いしようか。
 そんな会話が聞こえてきそうだ。
 僕は彼らの横を通り過ぎる。妄想が加速する。
―ちょっと、あなた!? どうなすったの?
―良いじゃないか。たまには。どうです? カメラマンさん?
 妻の手を取る夫。素敵ですね、とカメラマン。夫婦は手を取り合って……―って、鳩の手って何?
 自分の妄想に笑いがこみ上げる。
 でももう少し想像に浸っていたい気もする。そうだ、本屋に行こう。
 鳩が出てくる素敵なお話の本、何かご存知ありませんか?
 
テーマ; 手を取り合って

7/13/2024, 4:26:46 PM

→才能


「私こそ凡人の王だ」
      ――映画『アマデウス』・老サリエリより


映画『アマデウス』は、天才モーツァルトと同じ時代に生きた宮廷音楽家サリエリの視点で多くが語られるお話です。映画を未鑑賞の方に申し訳ないので細かい内容には極力触れないように頑張ります。サリエリとモーツァルト、二人の音楽家がどのようにお互いを意識していたのか、それが二人にどのような影響を及ぼしたのか、などがお話の筋となっています。
憧れ、嫉妬、虚栄心、プライド、無邪気、信仰、野心……そんなものを煮崩れるまで煮通した、まるでドロドロ系ラーメンスープのような映画です。
上記の「私こそ凡人の王だ」には、天才モーツァルトと出会ってしまったサリエリの劣等感となけなしの優越感を感じます。凡人と王という単語の表裏一体感とその間にある複雑な感情。脳天に錐を突き立てられたような衝撃を受けました。
このセリフのような一粒で二度美味しい的な何かを書き表してみたいと頑張ってみましたが、何も思いつきませんでした。これが才能ってやつですよ。ハイ、劣等感。
優越感ですか? スマートフォンのゲームでパートナーよりもレアアイテムの出現率が高いことです。


テーマ; 優越感、劣等感

7/12/2024, 4:11:26 PM

→短編・あなたに選ばせてあげる。


こんにちは、お久しぶり。
そんなに嫌そうな顔をしないで。
まぁ、そうよね。私とは二度と会いたくないし、思い出したくもないって言ってたものね。
でも、せっかくこうして会えたのだから、ちょっとお話しましょうよ。今はどんな暮らしを?
へぇ? 仕事も家庭もすべて上手くいってるのね?
それは良かったわ。とても幸せそうで私も嬉しいわ。
私は今も独り身よ。えぇ、あなたと別れて以来、誰とも。はっきり言って不幸続きよ。いろんなものを失ったわ。例えば、この足先。事故よ、事故。いつ頃かって? ずいぶんと好奇心旺盛ねぇ。そうそう、知ってる? 幻肢痛ってほんとにあるのよ。
あら? あなたの娘さんも事故にあったの? 半年前? 奇跡的に助かった? 嬉しそうね、すっかりお父さんの顔だわ。それに貫禄もついてきた。仕事で良いポストを得たのね。
あなたは今では名のある会社の重役さん。
私は事業を人手に渡したわ。無職よ。昔と立場が逆転ね。
同情してくれるの? でもね、そんなお気遣いは無用よ。私は望んで不幸を選んだの。
私ね、あの日からあなたを呪うことにしたの。
私の幸せを全てあなたにスライドすることにしたの。
どうして笑うの? 私、おかしなことを言ったかしら? 願うなら不幸だろうって? 
バカね、そんなものを望んでどうするの? お互いの負の感情を一致させて何が楽しいのよ。
私は私の生涯をかけて、あなたが幸福であるように呪ってるのよ。
あなたの奇跡的な幸せは私の呪いの上にあるの。忘れたくてたまらない女の一生涯があなたの生涯にスライドしてるのよ。どう? ゾクゾクしない?
ふざけるな、ですって? 野蛮な言葉はよして。おぉ、怖い。
いいわよ、あなたに選ばせてあげる。
私の呪いを止めるか、止めないか。
そうそう、答え忘れてたわ。私の足ね、半年前の事故でなくしたのよ。
あらあら、顔が真っ青ね。

これまでずっと続いていたあなたの幸せは、いったいどこから来たのかしらね。
よく考えて、選んでちょうだいね。


テーマ; これまでずっと

7/11/2024, 12:17:55 PM

→思いを馳せる

私はLINEアプリを使用していません。
まだ存在しない第1メッセージを想像してみる。書き留めている「素敵な言葉」ノートに書き加えられるような魅力的な言葉が良いな、ヘヘ。
あ、夢見すぎ? もしかして運営から何かくる系?

テーマ; 1件のLINE

7/10/2024, 3:45:42 PM

→短編・目醒め       (2024.7.11 改稿)

 目が覚めると、流れていたはずの車窓の景色が止まっていた。前後の座席が軋み乗客が立ち上がる。
 窓の向こうに見えるのは私が乗っているのと同じくらいの大きさの高速バス、バス、バス……。
 そうか、SA だ。夢うつつで休憩の案内を聞いたような気がする。
 私も他の乗客と同じように席を立った。
 空に満天の星空。街から離れた山間にあるSAエリアでは、星の光をさえぎる照明の影響を受けにくいのだろう。
 何となく土産物屋を見る。ご当地キーホルダーを手に取ると鈴の音がシャラシャラ鳴った。
「こういうのって買ったらすぐに付けるのかな?」 
「それくらいのテンションがないと無理かもね」
 私は彼女との会話を思い出す。別のSAで私たちはそんな会話をした。あの頃、私たちはよく一緒に旅行をした。のんびり屋の私と計画的な彼女。バス旅行ではいつも彼女に起こされたっけ。
 ほら、ねぼすけさん、そろそろ目を覚まして、と揺さぶられたものだ。苦笑含みのその声がなぜだか妙に心地よくて、目が覚めていても彼女に起こされるまで眠ったふりをすることもあった。
 そんな彼女の声が、戸惑いと説得の色を含んだのは私たちの最後の会話でのこと。
「ねぇ? 本当にイイと思ってるの? 止めたほうがいいよ。目を覚ましなよ」
 私の選択を彼女は理解しようとしなかった。そのことが悲しく、歯痒かった。私は彼女との連絡を断った。
 あれから私は地元を出て、人の多い街で暮らした。
 結局、彼女が正しかった。
 私の選択は自分よがりで人を傷つけた。人の不幸の上に幸せの城を築こうとしたのだ。我に返ったときにはもう全てが手遅れだたった。
 罪悪感に苛まれ、失意と後悔でぼんやりと日々を送る私の下に、彼女のハガキが舞い込んだのは先日のことである。
―覚えてる? 夏の花火大会、もうすぐだよ。
 人伝に私のことを聞いたのだろう。
 私は衝動的に高速バスに飛び乗っていた。

 休憩を終えてバスに乗り込む。再び車窓の景色が流れ始める。
 私は明日の晩を想像する。二人で河原に場所取り。何から話そう。謝りたいこと、感謝したいこと、また一緒に旅行したいこと……。
 花火が上がるのを待つ間、この移動疲れで眠り込むようなことがあったら、彼女は起こしてくれるかな?
「ほら、ねぼすけさん、そろそろ目を覚まして」

 うん、ありがとう。私、やっと目を醒ましたよ。

テーマ; 目が覚めると

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